日曜午後、新宿ヴリンスホテルの高層階。雅楽が流れ、桃の花が生けられた趣ある個室にて、ワサビが乗った和牛サーロインステーキを噛みしめる。舌を痺れさせる辛みと質のいい肉汁の味はやはり良い。お偉いさん方と腹の探り合いをする必要がないのならなおのこと。
今日は可愛い我が妹ヒナイチの誕生日が近いということで、俺がセッティングした家族久々の団らんの時間だ。たまには天井×N回の大盤振る舞いだって悪くない。この間のバレンタインガチャの引きも良かったしな。
「感謝しろ、妹よ。これは俺の権力の味だぞ?」
「ああ、ありがとう兄さん。……これも貝がふかふかで美味しい!」
茶化して隣に声をかけたが、今日の主役はもうすでにステーキを完食し、アサリの炊き込みご飯に取り掛かっていた。流石に今日は肉を奪うなんて無粋なことはしないから、もう少し味わってほしいものだ。やれやれ、一体だれが早食いなんて教えたのか。誕生日を何回迎えても我が妹は変わらないなぁとしみじみ思っていると、上機嫌でノンアルコールカクテルを飲んでいた両親がお手洗いに行くと言って席を立った。確か化粧室の側には大きなガラス窓があった。この後は新宿観光をすると話していたし、東京タワーとスカイツリーが一望できる風景を夫婦で楽しみたいのだろう。「ごゆっくり」と声をかけると両親は照れつつも仲睦まじく歩いていく。家内安全、夫婦円満でなにより。
二人きりになった個室。肉を口に含み、真新しいチェック柄のワンピースに身を包む妹を見やる。ふと隣のヒナイチの鞄が目に入った。空いた席に置かれたその鞄には、真新しいバックチャームが付いている。
「なんだ、随分と変わったものを付けてるじゃないか。キウイの兄弟の新キャラか? 紫で毛だらけとは、あんまり美味しくなさそうだな」
「違うぞ。これはキウイじゃない。ドラルクから貰ったんだ」
ヒナイチは食事の手を止めると、バックチャームを外して俺に渡してきた。紅白の組み紐、それぞれの端に人形が二つ。一つは紫のふさふさした物体に目が付いたもの。送り主の変身した姿だろう。これはまた可愛らしく畏怖い姿だ。
「昨日貰ったんだ、少し早い誕生日プレゼントだと……マルツイ……なんとか、と言っていたな」
マルツイショル。ルーマニアで春の始めに送り合う装飾品の一種だ。確かお守りだとか魔除けだとかの意味とあると、前文献で読んだことがある。紫のそいつの胴体をふにふにと揉んでみると、ごくわずかにざらりとした感触があった。……なるほど。とすると、隣のオレン
ジ色の小鳥はおそらく―――
「兄さん、あんまり強く揉まないでくれ、ほつれたらどうする!」
「ああ、すまなかった。……大事にするんだな」
ヒナイチにマルツイショルを返し、俺は葡萄ジュースを煽るように飲み干す。今日のところは、この言葉はアルコールと一緒に腹の中に収めておいてやろう。
―――とんでもないSSRを引き当てたな、我が妹よ。
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