ひよこ
2025-12-29 09:52:58
6174文字
Public SS
 

『貴方』を愛している

・サンルシで年越しネタを書いたけど、年越しネタ要素が薄い
・イベスト時空(000後)&転生パロ時空
・よくある設定のごったにちゃんこ鍋状態&ゴリ押しストーリー

 白き六枚の羽を広げてグランサイファーの甲板から飛び立ち、少し上空からそれを見下ろした。夜空に雪が混じりいつもより幻想的でどこか寂しいものに見えた。何故だろう。この光景自体はさして特別見るものではないのに。暫く浮遊していると騎空艇から笑い声が聞こえてきた。今頃皆で年越し蕎麦を食べているのだろう。寂しさの原因が分かったかもしれない。だが、俺には皆と年越し蕎麦を食べる事よりもどうしてもやりたい事があった。その目的を果たすべく再び羽を羽ばたかせるのだった。


 飛行して数時間、目的の場所が見えてきた。カナンの神殿……。ここで年越しを迎えるべく俺はここまで来た。羽をしまい神殿の中へ進む。あの騒動があった時よりも神殿は朽ち果てているように見えた。神殿の管理者がいなくなってしまったからだろう。そう考えて胸が苦しくなり、自嘲する。誰のせいであの方が命を落とす結果になってしまったのだと。いや、これ以上考えるのはよそう。俺は後悔を告げにここに来たのではない。これ以上の思考をやめて歩みを進める事を優先した。


 ついに辿り着いた。あの方が命を落とした場所に。俺は魂の終着点にいるだろうあの方を思い浮かべて一人語り出す。今年あった出来事をあの方にも聞いて欲しかったのだ。春夏秋冬と順に今年あった出来事を語る。

……薬師の座のバイシュラに会いました。彼女は当初星晶獣を嫌っていたようで俺がダルマに入る事を拒否されてしまいました。ただ、ダルマに入っていたら煩悩の影響を受けたかもしれない。偽物とは言え貴方に会ってしまったら俺はどうしたのでしょう。そう考えるとダルマに入らなくて良かった」

バイシュラとはきちんと話ができなかった事を思い出した。彼女はダルマの一件で星晶獣に対する考え方が変わったと聞いている。今度会った時は何かしら話ができると良いなと考えた。

……そう言えば、ピズマが貴方の事を慈悲深いと言っていました。貴方は彼とどのような話をされていたのでしょうか?」

ピズマ、騎空艇の修理費を弁償する見込みはだっただろうか。借金を返しにグランサイファーによる事が今後あるだろう。その際は他の堕天使達と共にまた喫茶室で集まって話ができれば良いなと考え、話を続ける。ハロウィンでラジエルに悪戯を受けた話はしないでおいた。ルシフェル様に愚痴を聞かせる訳にはいかないからだ。


 一通り話終わった。改めて振り返ると今年も色々あったと感じる。用事は済んだ。そろそろ帰ろうか。

「ルシフェル様、聞いてくださりありがとうございました。俺、そろそろ……

帰ります。の一言が出ない。誰もいない、静寂に包まれるこの空間にまだ留まっていたいと思う。過去の経緯もあり正直好んでいたい場所ではないのだが。そういえば、騎空団の皆は今頃何をしているのだろう。遠くにいる彼らの事を考える。そろそろ深夜を迎える頃だ。皆は寝ているだろうか。いや、今日は夜更かしをするものも多いだろう。俺はふと考える。あの方が今この世界にいたら何をしていただろうと。一緒に年越しを食べていただろうか。二人で夜空を見上げながら一年の出来事を振り返っていただろうか……。また、あの方と過ごす生活の妄想をしてしまった。こんな事をしていても意味は無いのに、どうしてもルシフェル様が居てくれたらと考えてしまう。ダメじゃないか。こんな姿をお見せしたらあの方を心配させてしまう。あの方には心穏やかに過ごして欲しいのに。ここにまだ居たいけど、ただ留まっていても無駄な思考が俺を支配する。そんな時は意識を閉じてしまうのが良いだろう。

「ルシフェル様、何だか少し疲れてしまいました。また明日から天司長として、サンダルフォンとして生きていく為にも、少しここで休ませてください」

冷たい床に寝そべり、あの地にいるルシフェル様に思いを馳せながら目を閉じた。

* * *

「サンダルフォン」

俺を呼ぶ声が聞こえた。いつの間にか寝てしまったようだ。意識がぼんやりしている。瞼が重く感じて開けない。すると穏やかな声が前よりはっきりと聞こえてきた。

「サンダルフォン、年越し蕎麦の準備ができたよ。体調は良くなったかい?」

体調?言われてみると少し頭痛がするかもしれない。寒い中寝てしまったからだろうか。空の民ならまだしも星晶獣が?思考を巡らせていると冷たい何がが額に当てられた。

「まだ少し熱があるな。ちゃんとした食事を取るのはまだ難しいだろうか」

冷たくて気持ち良い。声の主の手だろうか。どこか懐かしく感じるこの声の主は一体?俺は重い体を起こしつつ目を開けた。そこに居たのは……

「ル、ルシフェル様?!」

心配そうに俺の顔を覗くルシフェル様。その光景に驚いてしまった。彼を思わなかった日は一日たりとてない。その彼が今、目の前にいる。鎧ではなくエプロンをお召しになられていて新鮮に感じる。

「サンダルフォン!遂に思い出してくれたのか?」

ルシフェル様は俺の言葉に歓喜しているご様子だった。なぜ、ルシフェル様がここに?いや、そもそもここはどこだ?少し冷静になり、辺りを見渡した。どこかの寝室のようだ。少なくともカナンの神殿ではない事は確かだ。ここは魂の終着点か?俺はいつの間にか死んでしまったのだろうか。

「ルシフェル様、ここは一体?魂の終着点でしょうか?」

その言葉にルシフェル様は目を丸くさせた。

「記憶が混濁しているのか?ここは君と私の家だよ」
「貴方と俺の……家?」
「そうだ。もうすぐ住んで一年になるな。君にプロポーズしてもらったのが一年半前だ。本当に時が過ぎるのは早いな」
「ぷ、プロポーズ???」

元々の頭痛に加えて、ルシフェル様からの数々の爆弾発言に俺の言語処理能力は限界を迎えそうだった。どうにか落ち着こうと深呼吸し早くなった鼓動を落ち着かせる。……鼓動?そこで俺は漸く気付いた。この身体は星晶獣のものではない。ヒトの身体だ。ルシフェル様もそうなのだろうか。腕を触り確かめる。間違いない、ヒトの身体だった。彼は不思議そうにこちらを見ている。

「サンダルフォン、どうかしただろうか?」

ヒトの身体を有しているとは言えルシフェル様は魂の終着点についてご存じな様子だった。記憶が戻ったのかとも言っていたな。話せば何か分かるかもしれない。そう考え、俺は口を開けた。

「ルシフェル様、お話したい事があります」
「なんだろうか」
「俺はカナンの神殿に居たはずなのですが、起きていたらこの場所に。身体もヒトのものになっていました。何かお心当たりはありますか?」
その言葉を聞いたルシフェル様は何処となく悲しそうだった。


ルシフェル様と言葉を交わして分かったことがある。今目の前にいるルシフェル様は俺の知っている「ルシフェル様」とは厳密には違うと言うことだ。

「私は魂の終着点で「サンダルフォン」を待っていた。しかし、彼が来ることはなく、空の世界が崩壊した」
「崩壊!?」
「世界の寿命が来たのだ。君が気にする必要はないよ」

ルシフェル様は話を続ける。

「私は、もう一度彼に会うため魂の終着点を出た。そうしてヒトの子に転生した。空の世界の記憶が戻ったのは二十歳の時だった」

ルシフェル様は当時大学とやらに通われていて、同じ大学に入学したこの世界の俺にたまたま会った際に前世の記憶が戻ったそうだ。

「ただ、彼は私とは違い前世の記憶が戻ることがなかった」
「だから先程、記憶が戻ったのかと仰られていたのですね」
「ああ、かつての記憶を無理に思い出させる必要はないからな。幸い、前世の記憶がない彼とも交際に至り、今の関係になる事ができた」

ルシフェル様は左手の甲をこちらに向けてきた。薬指に嵌められているものは……

「結婚指輪」
「ああ、そうだよ」

はにかみながら微笑むルシフェル様。とても幸せそうだ。つられて俺も嬉しくなる。少し、羨ましいなとも思った。

「ルシフェル様はどうやってこの世界の俺と知り合ったのですか?」
「ふふっ。気になるか。是非聞いてほしいが、折角だから年越し蕎麦を食べてからにしないか?もちろん、君が食べられればの話ですが」
「いいのですか?」
「もちろん。食べ終わったら私も君から空の世界の話を聞きたいのだが、問題ないだろうか」
「是非、聞いていただきたいです!」


* * *


 ルシフェル様が用意してくださった年越し蕎麦。特製の出汁が蕎麦に絡まりとても美味しかった。少し怠かった身体もなんだか元気になったように感じる。本来であればこの世界の俺が食べるはずだったものであり、少し申し訳なくなってきた。それをルシフェル様に伝えると彼は気にする事はないよと言うのだった。

「それに彼も今、珈琲とお菓子で休憩しているかもしれないよ」
「え?」
「私のサンダルフォンが、君のルシフェルに会っているかも、という話しだ」
「そ、そんな事あるのでしょうか」

俺のルシフェル様という表現に少し気押されてしまった。でも悪くない。

「私もあの地にいた時は人恋しいと感じる時があったからな。私達のように会って話をしていたら良いなと思ったのだ」
……
「すまない。君の気を悪くさせてしまっただろうか

「いえ、そんな事ありません」

大袈裟に首を振り否定する。とは言え、少しショックを受けたのは事実だ。やはり、魂の終着点にいるルシフェル様には寂しい思いをさせてしまっているのだろう。今の俺ではあの地にいるルシフェル様を呼び戻す事はできないし、仮に会える事が出来てもその後の別れが互いに一層辛くなるはずだ。俺のルシフェル様の寂しさをこの世界の俺が少しでも癒してくれていたらありがたいし、素敵な事だと思った。そう伝えるとルシフェル様は朗らかに微笑まれた。ふと、テーブルの上にあった写真が目につき質問する。ルシフェル様とこの世界の俺を中心に集団が横二列で並んでいた。

「ルシフェル様?この写真はどこで撮られたものなのですか?」
「ああ。これは結婚式の時の写真だよ」
「結婚式!?」
「当時の記録があるが君は見たいか?」
「是非!お願いします!」

ルシフェル様は、黒くて薄長い板状のものを起動した。テレビという名前だと教えていただいた。この装置には過去の記録を見る機能があるそうだ。その機能を使いルシフェル様は結婚式の記録を見せてくださった。

 結婚式には、この世界のルシフェル様と俺の馴れ初めはもちろん、彼らが生まれてからの成長の様子も記録されていた。途中で見知った顔が複数見えた。ルシオとルシファーとベリアルだ。ルシフェル様とルシオ、ルシファーは兄弟、ベリアルとは親戚らしい。この世界の俺は彼らに囲まれて苦労していないだろうか。少し同情しそうになったが、映像に映った「俺」を見る限り余計なお世話だったようだ。ルシフェル様と共に並び、参列者に囲まれとても幸せそうだった。

「ルシフェル様、この男性は?」

俺はマイクスタンドに立つ男性を指差した。涙を堪えながら話をしているようだった。

「何を言っているんだ、グランだよ?この世界の君の友人代表としてスピーチしてくれたんだ」
「グラン?」
……

ルシフェル様は映像を一時停止し、話を続けた。

「特異点、と言えば分かるだろうか」
「特異点!?特異点はジータという女性ですが……

それを聞いたルシフェル様は俺とは違いさほど驚いた様子ではなかった。

「なるほど。私は君の事を少し誤解していたようだ」
「どういう事でしょうか」
「君は私の前世で時を共にしたサンダルフォンだと考えていたが、違ったようだ。君は私とは異なる次元を生きている」

異なる次元に生きるルシフェル様や俺。考えたこともなかった。

「俺や貴方以外の次元、つまり第三、第四の次元があったりするのでしょうか」
「あるかもしれないな」

ルシフェル様は興味深々だ。彼は空の世界をいつか証明するために物理学を専攻し、その道の第一人者になるべく学問の道を進んでいるとの事だった。詳しくは理解できなかったが。そういった複雑な事象は余り理解出来ていない俺でも一つだけ確信を持って言える事があった。それは証明する手段が一切なく、他人からすれば不確実としか言いようがない事象に違いなかったが、俺にとっては違う。

「俺、確信があるんです。どのような次元、どのような世界にいる俺でも必ず『貴方』をあ……

続きの言葉を紡ぐ事はできなかった。ルシフェル様の手が俺の口に覆い被さったからだ。

「サンダルフォン。その言葉を聴くのは私ではダメだ」
「むぐ?」

口を押さえられてて変な声が出た。ルシフェル様は見かねて手を離してくださった。

「君の「ルシフェル」に聴かせてあげてほしい」

そうだ。その通りだ。

「はい!ありがとうございます!」

言葉を発すると同時に俺の身体が僅かに光出した。なんだこの光は?ヒトの身体には光の元素を発する力は無いはずだが……

「お別れの時間、なのだろうか」
「別れ、ですか」

そうかもしれない。意識が徐々に薄れていくのを感じた。

「君と空の話が出来なくて残念だ」
「ルシフェル様。それについてですが、是非この世界の俺に話して思い出させてあげてください」
「だが、彼にとって空の世界は決して楽しい記憶だけではないだろう」

やはり、彼は「俺」を気遣って黙っていたのだ。

「貴方の世界の俺も、空の世界に生きていた時に貴方に逢いたがっていたはずです。その気持ちを叶えてあげて欲しいんです」
「そうだな。助言ありがとう。試してみるよ」

視界もぼやけてきてルシフェル様の顔が徐々に見えなくなってきた。だが、俺には分かる。彼があの時の別れの際と同じ笑顔で見送ってくれている事を。

「サンダルフォン、君の将来が幸多からん事を」
「ルシフェル様も、この世界の俺と末長くお幸せに。どうか、お元気で」

* * *

 外気の冷たさを感じ、覚醒する。視界に広がるカナンの神殿。元の次元に戻ってきていた。太陽が神殿を明るく照らしていて眩しく感じるほどだ。この地に来てから大分時間が経ってしまったようだ。グランサイファーでは今頃お昼の準備をしている頃だろう。このままでは昼頃には戻ると言っていたのに話が違うと団長達に小言を言われるかもしれない。俺は急ぎ帰路につくことにする。その前に、一つだけやるべき事を済ませなくては。神殿の広い空間を視界に捉えて口を開く。

「ルシフェル様、待っていてください。いつか、必ず貴方を迎えに行きます。そしてその際には是非聴いて欲しい言葉があるんです。別次元の貴方に止められてしまったあの言葉を……

夢のような、しかし確かに現実として存在した別次元のルシフェル様。彼に見せてもらった映像に映るルシフェル様と俺ははとても幸せそうだった。俺のルシフェル様にもいつか幸せになって欲しい。いや、必ず幸せにしてみせる。そう決意し、俺は新年の一歩を踏み出した。


終わり


HOME