ortensia
2025-12-29 01:26:13
2140文字
Public 傭リ
 

配信者現パロよーり

ゲーム実況配信者リと第一視聴者の大古参(?)傭。承認欲求ハンターリと全肯定botではないつもりの傭。

 ゲーム実況者リッパーは承認欲求の塊だった。
 ジャックの生い立ちは、良い子でいることを最大限努めた幼少期であった。しかしそれに対しての承認が、本人の求めた水準より大きく下回り、ジャックは自分が良い子であるにも関わらず、それを認められることの不足に不満を抱いて育った。
 ジャックにとって良い子の自分は、褒められて然るべきなのだ。現状よりもっともっと、もっと。
 ところで、人に対しての称賛の言葉、言い回し、声掛けの労力は如何程だろうか。ハードルが高いだろうか。だったらそんなものよりも、ボタン一つ、ほらここに親指を上に立てたマークがある。それを一回タップするだけで相手への褒美になる。なんと簡単なのだろう。早く押してみてくれ。
 なんて、実に簡単でローリスクな報酬だからこそ、それを躊躇わられた時の落差も大きい。違うだろうか。こんな簡単な動作が相手を褒め称えるに値することだというのに、それさえも貰えなければ。
「やってられないんですけど……。」
 ジャックはネットのこの仕組みなら、相手の褒めるハードルが下がり、自分が褒められる機会もぐんと増えると考えた。それは半分当たり、半分外れた。ゲーム実況を配信するジャックへの視聴者は、簡単に入室するが、簡単に退室した。好評価のボタンも押さずに、配信を覗いて評価するにも値しないと判断されたようだった。悪評価を付けられたり、頭の可笑しなコメントを残されたりするよりはマシだが、それらもゼロではない。割に合うかと言われれば、当初のジャックの算段からすると、合わない。ジャックはリッパーとして配信していると、なんだか自分が悪い子のような気がした。
 がんばれ。
 しかし、コメントが来る。応援される。褒められる。
 それをくれるたった一人の相手。
……分かりました。」
 この評価が欲しくてだらだらと続けている。いつも同じアカウントユーザーだが、いつもコメントをくれるわけでもない。いつも見ているわけでもない。残したアーカイブを後から見ているらしい場合もある。
 でも、今日は来るかも、後で見るかも。これが惰性でなくてなんだ。
 兎に角、ジャックは自分のしたいようにリッパーとして活動した。それを支持している相手がいたから。そのユーザー名を傭兵と言う。
 リッパーの配信は口調が荒い。言葉遣いは丁寧だが、作品に対しての切り口が鋭く、余計な口がよく回ってもゲームプレイに一切支障が出ないので余計に嫌味っぽい。それで本人は貶しているつもりではなく良いものだと言っているつもりなのだからチグハグでタチが悪い。視聴者は倒錯して着いて行けない。
 傭兵が何故リッパーの配信をフォローしているのか、リッパーにも分からない。
 配信終了の前に、その日のプレイ範囲の感想を総合的に述べる。あの街角から襲って来たモンスターはまるであそこのお家のワンちゃんなのかと思いましたよキャンキャン無駄吠えまでして、床のテクスチャは甘くてそういう模様の絨毯じゃないかと疑いました、音楽がただのジャンプスケアじゃありませんか。以前知らないユーザーに作品の駄目出しが悪質とコメントされた、リッパーのいつものスタイルだ。ゲームクリアへの称賛を、誰もリッパーにくれない。ただ一人を除いて。
 今日もがんばったな。
……褒めるなら、なんで。」
 どうした。
「そこで褒めるくらいなら、わたしの直ぐそばまで来て褒めてよ。褒めるのは一緒でしょ。」
 一回の好評価だけじゃなくて、もっと褒めてよ。コメントで褒めるくらいなら、直接声で褒めて、いいこいいこしてよ。
 わかった。
 リッパーがたった一人のファンと、なんの事前準備もせずファンミーティングをしたのは、そうした経緯だった。
「やってられないんですけど……。」
「おまえの言いたいことは別の言い回しにして字幕付けて編集してやるから、配信での酷評は受け入れろって。」
 リッパーの配信スタイルは相変わらずだった。しかしアーカイブをそのまま残すのではなく、編集動画として投稿されるようになった。この花は一株に別の種類の葉が生えていて奇妙さが目立つし収集アイテムだと言うことが一目で分かる、壁のテクスチャの重なりが凹凸を感じさせ立体感を覚える、音楽に緊張感がないが慣れていない初心者の導入には最適だ。実際にリッパーが言った台詞とは別の言い回しが字幕表示され、リッパーが本当に言った事は変わらずお察しである。
……でもそれっておまえへの好評価であってわたしの手柄じゃないってコメントあったんですけど。」
「そんなことはねーよ。おまえは褒められた分だけ素直に受け取っとけ。そうじゃない分は、おれがおまえを褒めるから。」
 そのために呼んだんだろう、ただの一視聴者を。
「もっと好評価お願いしますもっともっともっと。」
 傭兵がリッパーを褒めるように撫でた。
「がんばったな。」
 それはネット越しではない生身の温度でジャックの承認欲求を満たした。リッパーがもっととどれだけその手に擦り寄っても、撫でる手は際限なく返って来る。
 称賛はもう、欲しいと思った時に直ぐ手が届く。満たされなかったその身を満たしてくれるものが、そばに。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。