スサ
2025-12-29 00:04:35
2991文字
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【ゲ】12/30無配「おばけのいえ」

12/30冬コミの無配予定の話です。目岩っぽい岩目+鬼水二世帯住居(???)なのですが、自宅警備しているぽやっとした父がメインみたいになっています…ので…どうかなと思っています…。表紙こみ8Pのペーパーなので、たいしたものではないのですが…。

おばけのいえ

 長いこと空き家だった大きな家があり、地域の子ども達は皆そこを「お化け屋敷」と読んでいた。これがまた、長い土塀に囲まれ、門まである平屋の大きな一軒家で、鬱蒼とした庭木などが視線を遮るものだから、雰囲気は満点といえた。
 その家に、どうやら誰かが引っ越してくるらしい。片田舎のその小さな町においては、ちょっとした事件であった。一体全体、誰があんな薄気味の悪い家に引っ越してくるんだ──と。夜には人魂を見た人もいる(噂だが)と言われているし、仮にいくら安かったとしても買いたくも住みたくもない、と青ざめる大人もいたくらい。だがとにかく、それだけ気になっている人がいたのは確かだった。
 隣近所にあたる家では、引っ越しの日を戦々恐々待ち構えていた。まさか反社の類では、というのが最も大きな懸念。件のお化け屋敷は、とにかく敷地が広いのだ。もう何十年と空き家なので、前の住人が存命の頃を知る人もだいぶ少ないが、一応長老格たる老人によれば、書道家だか日本画家だか、とにかくそういう人がひとりで住んでいたらしい、とのこと。それなら作品などが残って名も残っていそうなものだが、そこまで詳しく調べようとしなければ、わからないままなのかもしれなかった。もしかしたら、今の世であれば、漫画家の方が長く名が知られていくことになったかもしれない。

 「おばけやしき」への引っ越しがある一週間ほど前のこと。当の住人達が近所周りに挨拶に訪れた。おっかなびっくりだったご近所さん達も、訪れたのが快活そうな美人とおとなしそうな子どもの組み合わせだったもので、拍子抜けしつつも大いにほっとした
 そしてその日、「おばけやしき」の門扉に取り付けられた表札には、二つの苗字が記されていた。田中、水木、と。
 それを見て、二家族同居? と近隣の人々は思ったが、皆何となく、母方の両親と二世帯住宅なのかな、と勝手に解釈した。まさか当日、田中父、母、息子と、両親の友人という男がひとりという構成でやってくるとは誰も思わなかったのだ。まあ、普通あまり思いつかない構成ではあった。

 近所の人々は最初こそ住民達の構成に疑問を持っていたが、挨拶回りにやってきた田中家の妻岩子の美貌と気さくさ、夫ゲゲ郎の隠居老人のようなおっとりさ、息子鬼太郎の寡黙ながらも礼儀正しい様子、そして両親の友人で家族ぐるみのつきあい─一緒に住むくらいだからそうだろう─という水木の、甘く整った容貌と人当たりの良さ、といったものにほだされてしまった。今では誰も彼らを変に思わない。岩子と水木は特に働き者で、町内の仕事や近所づきあいをまったく厭わなかったし、基本家にいるゲゲ郎も気の優しい力持ちで、日中足りない男手として、度々近所の手伝いを買って出ていたのも大きい。鬼太郎は毎日ちゃんと挨拶をするし、こちらも、両親やその友人の薫陶なのか、老人と一緒に横断歩道を渡ってあげたとか、迷子を家に届けたとか、木の枝から降りられなくなった猫を助けたとか──善行には限りがない。
 と、いったわけで、その片田舎の小さな町で、おばけやしきは元おばけやしきとなったのであった。

 さて。田中家の夫、あるいは父、ゲゲ郎は基本的に家にいる。ご近所の方々は在宅の業種なのだと勝手に解釈しているが、全く違って、いわゆるひとつの自宅警備員である。彼の妻岩子はいわゆるバリキャリというやつで、彼女が一家の生計を支えている。彼女の趣味は家族である。ついでに、同居人の水木もまた、ワーカホリック気味の勤め人で、金を使うところが他にないのでことあるごとに鬼太郎に衣類やら何やらを買い与えることを趣味としている。そんなわけで、ゲゲ郎は働く必要がない。それならば家事を、となるところだが、これまた、優秀な妻と友人、そして妻に似た息子が揃うと、父さんは座っていていいんですよ、となってしまう。さすがによくないと思うのだが、確かに、ゲゲ郎が何かをすると物が壊れたり壁に穴が開いたりするので、言われたようにしているのが無難かもしれない、と最近は考えている。
 その日も庭にやってきた猫をじゃらしながら、そんなことを考えていた。インスタントラーメンくらいは作れるので、昼やお湯をわかしてラーメンかのう、なんて、のんびり思っていたのだ。その時、ぴんぽん、と呼び鈴が鳴った。
 ゲゲ郎の顔がにわかに引き締まる。宅急便か、回覧板か。回覧板ならいいのだが、宅急便は、以前、よいよい、と重い荷物を片手で持ち上げたら配達員が腰を抜かしていた。あれをやってはいけない、と戒めつつ、ゲゲ郎は玄関に向かった──

 B町のおばけやしきに人が住み着いたらしい──その噂は実は隣の市にまで知れ渡っていた。隣の市の、窃盗集団に
「あそこ、前に住んでた爺の各市金庫がそのままって噂なかったか」
「ああ、入ったやつみんな幽霊が出たつって出てきて、入院しちまったんだよな」
 入院、の言葉でその場にたむろしていた数人の呼吸が止まった。
「でもよ、人が入ったってことは、もう幽霊出ないんじゃ?」
「昼間はなんでもぽやっとしたじいさん一人らしいぞ」
 半グレのろくでなし達は顔を見泡さえにやっと笑った。いざとなれば、多勢に無勢では相手にならないはず。

 宅配業者かと思ったらクリーニング業者と名乗られ、せっかく印鑑も持ってきたのに、とゲゲ郎はややがっかりした。
「それで、ええと掃除屋さんじゃったかの?」
 ゲゲ郎は案外人と話すのが好きだ。話さなければ話さないでやってはいけるが、話すのはけして嫌いではない。
 最近の掃除屋は随分荒んだ雰囲気をしておるのだなあ、とまさか偽の作業員とは思わずゲゲ郎は思う。何なら哀れみさえ覚えた。
おぬしら、疲れておるようじゃ。ちょっとここで待っていなさい」
 詐欺トークをぶったぎって、ゲゲ郎は一度奥に引っ込んでしまう。想定外の事態に、今回は詐欺でいこうと考えていた犯行グループも困惑する。まさか正体に気づいて、と騒ぎになる前に留守番の老人を捕まえてしまおう、と玄関に上がろうとしだ段で、ゲゲ郎が戻ってきた。
「なんじゃ、土足で上がろうとして」
 不思議そうにしながらも、ゲゲ郎は手に持っていた昔ながらの駄菓子を実行犯達の手のひらにばらばらと落としてやった。
???」
 困惑する彼らに、ゲゲ郎はにっこり笑って言う。
「おぬしたち、小さいのに頑張っていてえらいのう。おやつじゃよ」
 ──犯行グループは全員成人済で、何ならガタイはいい。なので、こんな扱いは実に幼児の頃ぶり、いや、下手をしたら生まれて初めてという人間もいた。
……
「う?」
うわああああ、ご、ごめんなさい……
「わっ、なんじゃ急に泣き出して、そんなにもちもちじいさんが好きなのか? わしの秘蔵のおやつはそれだけなんじゃすまんのう」
 突然子どものように泣き出した男に驚きつつ、ゲゲ郎はのんびりした対応をした。
「困ったのう、そうじゃ、外回りをしていたら、水木がおやつを追加で買ってきてくれるかもしれん! 待っておれよ、童たち」
 にこにこ言いながら、不思議すぎる現・おばけやしきの住人は袂から取り出したスマホで電話をかけ始めた。

(もうちょっと続くのじゃ!)