幸希(ユキ)
2025-12-28 19:38:25
1193文字
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束の間

前に文庫ページメーカーで出力したやつ。再掲みたいなもの。
キスはねぇ…好きなんだけどね…。

むっちゃんとのキスは、好きだし苦手だ。
好きな理由は大事にされてる感じがするし、言葉にならない“好き”の気持ちが伝わってくる気がするから。苦手な理由は、長いから酸欠になるのと、“逃がさない”っていう目の奥にちらつく熱に呑まれるのが怖いから。



「んぅっ!」

しばらく唇を合わせた後に差し込まれる舌。むっちゃんの舌は厚くて、こっちの息すら呑み込もうとする。最初こそこちらを気遣ってゆるゆると合わせてくれるけど、だんだん熱が籠ってくるとそんな気遣いはどこへやら。

「んぁ、は、んんぅ……!」
「ん、ちゅ、はぷ

怖くなって逃げ腰になる私を宥めるように頭が撫でられる。柔く唇を噛むというおまけつき。調子に乗るなと悪態は浮かぶものの、声として出る事は叶わない。

「む、ぅあ、んはっ!!」
ん」
「んぅっ!!」

息がしたくて口を開けてもそれすら封じられて、知識で鼻から呼吸すればいいのを知ってても、いざ受ける身になればそんなもの知ったこっちゃない。必死すぎてそんなことまで気にする余裕があると思うなよ。
苦しくて涙が滲むけど、むっちゃんは止まらない。いつも私の限界のギリギリを攻めてくる。ふざけるなどつくぞ。

「んんん……

本当に苦しくて泣きそうな声をあげたら、やっと放してもらえた。

「は、はぁ……はぁ……
………。」

すりすり頬を撫でられる。怒っているやら怖いやら嬉しいやら、感情がごちゃまぜになりすぎて混乱してるような状態の私にとって、むっちゃんの手の温かさは何よりの安心材料。その手に翻弄されてるなんて事は百も承知だ。

「はーっ、はー……。」
…………主。」

ゆらり、閉じていた目を開ける。

(あー、こいつ、今日もうダメだ)

絶えず揺らめき、消えない熱を湛えた紅緋がそこにあって、逃げられない事を悟る。

(気絶コースかなぁ)
「もろうて、ええか。」

淡々と、何でもないように聞くけれど、声に滲む渇望に気付いてしまったが最後、これ以外の選択肢なんてない。いや、きっと本気で怖がったり嫌がったりすれば、むっちゃんは逃がしてくれる。あれでいて寂しがりで、心の機微に敏いから。

(嫌なのか?なんてそんなの、)

愚問でしかない。


「食べないで。」
「努力はする。」
「手、握ってて。」
「ん。」
………。」
「他には?」

理屈なんて頭じゃいろいろ考えるし悪足掻きだってするけど、結局のところ私も同じ穴のムジナ、建前を並べたところで本音のところには勝てない。

「好き。愛してるよ。」
………おん。」

うっそりと悦に入ったような顔で笑うむつ。あぁ、この顔は私しか知らないんだ。



むつとのキスは好きだし苦手だ。
好きな理由は、私しか見ない顔を見れるから。苦手な理由は、与えられた熱が引いて夢うつつが終わってしまうから。