冬暁
2025-12-28 18:06:31
1789文字
Public 鳴保
 

幸せのクラッカー

鳴海隊長、お誕生日おめでとうございます!貴方が生まれてきてくれたことに感謝と祝福を🎉

げんほしワンライお題【生まれた日/欲しいもの/オンリー】より。

 十二月二十八日。
 その日の晴れた朝なのか、雪の夜なのかは定かではないが、のちに日本最強と謳われるボクが生まれた。今となってはそれはただの記録でしかない。ボクは両親からどんなふうに生まれて、どんなふうに育てられてきたのかを聞くことはなかった。
 ボクが産声を上げた時、彼女たちはどんな顔をしたんだろう。
 ボクが初めて立ち上がった時、どんな反応をしたんだろう。
 怪獣によって破壊されたそれらは、写真の一枚さえボクに残してはくれなかった。

 くぁりと欠伸を一つ噛み殺しながら、ボタンを操作する。もはや作業ゲームと化してはいたが、このレベル上げが重要なのだ。ここで手を抜けば後々痛い目を見ることは前作で散々思い知らされた。
 ひたすら素材を集め、あつめ、——————
 脳が霞みがかっていく。瞼はゆるゆると下りる。しかし、頭のどこかが冴えていて落ちきれない。これがひどく面倒だった。目を擦って重たげに持ち上げる。
 レベルアップの軽快な音楽と、ピコピコと鳴る操作音だけが陽気だ。
 場面転換でフッ、と音楽が消えた刹那が夜の静寂に飲み込まれる。耳に痛いくらいの静けさを感じながら画面を見つめていた。
 その時。
 パァンッ!!
——————ッ!?!?!?」
 突然響いた破裂音に飛び上がり、体を低くしたまま音の方——扉へと視線を投げた。心臓が激しく鼓動する。火薬の匂いが鼻をついた。僅かに開いた隙間から何か覗いている。
「誕生日おめでとうごさいます、鳴海さん」
「ほ、しな……!?」
 蓋の空いたクラッカーを片手に、するりと保科が入ってきた。
 クラッカー。音と匂いはそれか。
……こんな夜中に何しとんじゃワレェ!!」
 理解すればノータイムで怒りに直結する。掴みかかれば、クラッカーのリボンがひらひらと揺れるのがまたなんとも言えない。
「ちゃんとクラッカー鳴らすでって長谷川さんたちには伝えてあるんで大丈夫です」
「ボクが大丈夫じゃないが!? ボクに聞けよそれは!!」
「言うたらサプライズにならへんやないですか」
「サプライズなら他にあんだろうが!!」
「もう一発行きます?」
 ポケットからもう一つクラッカーを出すから頭を抱える。
「人の話を聞け!!!!」
 パァンッ! と目の前で破裂したそれは紙吹雪を散らしながらボクに降りかかった。
「なんでお前は時折ボクよりぶっ飛んだことするんだろうな……????」
 怒りを通り越して呆れるしかない。
「やって、流石の鳴海さんも日付変わると同時にクラッカーはないかなぁと思って」
「まぁ、そりゃないだろうな。そんなことする奴いないし」
「唯一無二の誕生日サプライズになったやろ?」
 火薬の匂いと共に悪戯げに笑う保科は、お得意のポーズをする。
「誕生日?」
 その言葉にようやく日付を思い出す。確かに今日は十二月二十八日。ボクの誕生日だ。
「鳴海さんのことやから眠れへんやろうなぁと思って。せやから、今から僕と深夜デートしません?」
「今から?」
「今! 早よ着替えて!」
 背中を強引に押されてもそもそと着替え始める。
「今からって言ってもどこに行くんだよ」
「特に決まってへんかな。とりあえずドライブしよ思っとったから」
「ふぅん」
 着替え終えると、早速とばかりに手を引かれた。
「今日は僕休みやし、鳴海さんもやろ? 一日中好きなことしようや。行きたいところ行ってもええし、欲しいもん買ってもええ」
 優しい眼差しで微笑んだ保科はぎゅっと手を繋いだ。
「鳴海さんが何時に生まれたか知らんけど、今日のどっかなのは確かやろ? なら一日中鳴海さんを幸せにしたら、鳴海さんが生まれた時間に鳴海さんは幸せやってことやん」
……ッハハ、なんだそれ」
 笑いが込み上げて止まらない。自慢げなのが尚更面白い。なんでそんな発想になったんだ。あまりにも面白すぎて少しだけ涙が滲んだ。
 ボクはボクが生まれた瞬間をこの先も知ることはない。でも、ボクにはボクが生まれた時間を幸せにしてくれる奴がいる。
「ならお手並み拝見と行こうか、保科ァ! つまらんことしたら許さんからな!」
「そこまでハードル上げられると……
「急にヒヨんなよ! ボクを幸せにするんだろーが!」
 だからきっとこの先も、ボクは生まれたことを幸せだと言えるだろう。


Posted by 冬暁/薄明