クリスマスプレゼント

部下にクリスマスプレゼントを貰うテセウスの話。
テセニュ未満

12月25日。今日はクリスマスだ。しかし多忙を極める闇祓い局にはそんなもの関係なかった。
年末になると浮かれる者や仕事に追われる者が増え、犯罪も増える。毎年この時期、闇祓いは大忙しだった。
現在30連勤中のテセウスは、眉間に深く皺を寄せながら今日この後のタスクを整理していた。

「局長」
呼ばれて顔を上げると、満面の笑みの部下たちが横に並んで立っていた。いずれも連日残業をしており、心なしか目がぎらついている。人手不足とはいえそろそろ休ませなければ。
「何か問題が発生したのか?」
「いえ、局長にクリスマスプレゼントをお届けに参りました」
部下たちが横に避けると、その背後には大きな箱があった。
「プレゼント?」
「ええ。開けてみてください」
テセウスは部下たちの急な申し出に困惑するも、期待に満ちた視線を向けられたので腰を上げ、巨大な箱に歩み寄った。かけられたリボンを外し、蓋を開け、中を覗く。

最初に見えたのはふわふわとした癖毛。
そして不機嫌そうにこちらを見上げるヘーゼルグリーン。
口元は——リボンで塞がれている。長い手脚もそれぞれリボンで縛られていた。
ニュート?」
三角座りで箱に収まっていたのは最愛の弟・ニュートだった。



「局長が喜ぶものはなんだろうと考えたところ、やはりニュートさんが一番だろうと」
「ご自宅にいらっしゃったところを捕獲させていただきました」
「もちろん傷など付けておりませんのでご安心を」
にこにこと話す部下たち。どうして弟をプレゼントしようなんて考えに至ったのか。いや過労働のせいだな間違いない。
「あ、ああ、ありがとう」
状況を飲み込みきれないが、部下たちが自分を思ってしてくれた行動だということも、久しぶりにニュートに会えたということも事実だ。感謝の意を伝えると部下たちは達成感に満ち溢れた表情でお互いを称え合っている。一見奇行に見えるこの行動も彼らにとっては一大プロジェクトだったのかもしれない。
「では我々は職務に戻ります」
「ごゆっくり」

部下たちが退室した後、一息ついてから再度箱の中を見る。やはりリボンで縛られた弟が入っている。幻覚ではなかった。
無言で見つめていると、ニュートが視線でリボンを外せ、と訴えてくるので、慌てて口元のリボンを外してやる。
「闇祓いは一般人を拉致するのが仕事なの?」
開口一番出てきた文句に苦笑する。
「すまない、彼らも疲れているんだ」
「言い訳にならないよ」
ニュートがどのように『捕獲』されたのかはわからないが、魔法で拘束力を付与されたリボンでしっかりと縛られ、箱に入れられたようだ。とは言えリボンは柔らかく身体に跡が付かないように配慮されているし、箱も息苦しくないように魔法がかかっていた。見た目こそ拉致監禁ではあるが、丁重には扱ってくれていたようだ。
そこで不意に疑問が浮かぶ。部下たちは皆優秀ではあるが、ニュートが本気を出せば逃げ切ることはできただろう。しかし、それをせず大人しく捕まってくれたのではないか。
テセウスはそう思い至り、にこにことニュートを見た。
何?」
「いや、お前に会えて嬉しいよ」
「そう。じゃあ手脚のリボンも解いてくれる?」
「解いたら逃げるだろう?」
「逃げないよ。僕をなんだと思ってるの?」
野生動物?」
「それは光栄かも?」
「光栄なのか?」
思わず笑いながら杖を振り、手脚のリボンを解いてやる。ニュートは逃げる様子もなく、箱から出ると伸びをした。
「ニュート、ハグしよう」
相変わらず棒立ちのニュートに近づき、その背中に腕を回す。暖かな体温に、微かに伝わってくる鼓動。鼻腔をくすぐるニュートの香り。
暫く抱いていると、ニュートの腕がぎこちなく上げられ、テセウスの背中に回された。
僕はクリスマスプレゼントらしいから」
何も言っていないのに言い訳をするニュートがあまりにも愛らしい。
「そうか。ありがとう」
抱きしめる腕を強めると「痛いよ」と文句を言われる。

暫くして、名残惜しく思いながらも腕から解放すると、前髪の隙間からちらりと見上げられた。
「どうした?」
「今日も残業するの?」
「ん?ああ恐らくな」
「そっか。じゃあディナーは無理だね」
「!?」
テセウスは思わずニュートを凝視する。聞き間違いだろうか。ニュートの口から『ディナー』の文字が出るなんて。
「さっきのテセウスの部下の人たちが『お二人でどうぞ』って高そうなワインくれたんだけど、一人で全部飲んでもいい?」
「ダメだ。二人で飲もう」
「でも仕事するんでしょ?」
「終わらせる。いや、やらせる」
「誰に?」
「ニュート。局長の上には部長がいるんだぞ」
ウィンクしてみせると、ニュートは呆れたような顔になった。
トラバース?」
「クリスマスぐらいまともに働いてもらおう」
「あの人にテセウスの代わりなんてできるの?」
「書類仕事ぐらいならできるだろう」
普段はこちらがトラバースの名前で作った書類にサインさせるだけだが、本来は部長本人が作る書類だ。
「そうと決まれば早速行ってこよう。うかうかしていると午前で帰りかねん」
テセウスはニュートを引き寄せ、その額にキスを落とす。
「お前は先に帰っていなさい。定時には帰ってお前の家に向かうから」
「ん、わかった」
テセウスはニュートを見送ると、資料を手に取りトラバースの下へと向かった。


▼ おまけ
箱なしver.