柩木
2025-12-28 12:00:24
2169文字
Public 崩壊:スターレイル
 

丹穹|夢をみてしまっただけ

千年探す裏で、千年待っていた孤独の話。糖度低めですが一応丹穹です。

「丹恒はどんな曲が好き?」

星穹列車の自室にて、レコードを片手に穹は尋ねた。寝てしまってもいいが、それでは時間がもったいないような気もする時間帯。寝る前の一時間にも満たないちょっとした隙間に音楽を聴こうと思ったのだ。寝る前だから派手なロックよりも、ゆったりとした優しい曲調のものをいくつか選ぶ。
呼びかけた丹恒はすでにベッドに入っていた。枕をクッションのように腰へ当てて座り、膝に上掛けを乗せて読書に興じている。それでも穹が声を掛けるとこちらを向いてくれた。

「今からかけるのか?」
「寝るには早いからちょっとだけ。スリープタイマーかけておくから大丈夫」

ベッドの傍まで移動し、まるでトランプを広げるようにレコードを数枚両手に持って丹恒の前に差し出す。差し出された側の丹恒は少しのけぞったが、レコードに書かれた曲名を追っているのが視線の動きで分かった。
一通り見終わって小さくため息をついた丹恒は、困ったような顔をして穹を見上げる。

「見せてもらって悪いが、どんな曲か分からない」
「えっ、ここにあるの全部ラウンジでもかけてた曲だぞ?」
……曲と曲名がほとんど一致しない」
「あはは!」

それもそうか、と納得した。ラウンジでもかけていたこれらの曲だが、選曲するのは主に穹だ。穹が楽しそうに曲を選ぶからと、皆好きなようにさせてくれる。そして丹恒は大抵の場合資料室にいるので、ラウンジで流れる曲と曲名を一致させて聞くということをしないのだろう。

「じゃあこれにしようか。俺のおすすめ」

両手のレコードから一枚を選び、蓄音機にセットする。曲が始まるのを確認してループ再生にし、タイマーが切れたら停止するよう設定する。ついでに音量も小さめにした。
レコードは宇宙ステーション・ヘルタから始まり、穹が降り立った星々の曲が収録されている。ヤリーロⅥ、仙舟、ピノコニー。この先に停車するだろう星でもいい曲があればもっと集めたいと思う。
流れ出した旋律に耳を傾ける丹恒は、聞き馴染みのあるフレーズを見つけたのか考え込むようにしていた表情が――微かにだが――ぱっと明るくなった。

……これか。聞き覚えがある」
「おっ、良かった」

これで寝る前の準備は整った。穹もいそいそとベッドに入り込む。丹恒がすでに使っている上掛けの半分を自分の体に掛けて隣を陣取ると、彼もまた本に栞を挟んでサイドボードに置いた。

「おやすみ」
「ああ、おやすみ」

丹恒の手が、サイドボードに置かれた間接照明に伸ばされ、そして――





――バチン、と今まで見ていた光景が消え失せ、暗闇が穹の周囲を取り囲む。数センチ先はおろか自分の指先すら見えない闇の中であっても、穹は狼狽えることなく自分が置かれた状況を思い出す。
暗黒の潮の中で夢を見ていた。ただそれだけだ。
今まで見ていた列車でのやりとりは過去にあったことで、今ではない。夢を見ている時は本当に丹恒と話していたように思っていたが、目が覚めてしまえば記憶は現実に切り替わり暗闇へと溶けて消えていってしまう。
なんせ潮の中では五感の全てが無意味だ。闇の中では重力もなく、自分が前を向いているのかさえ判断できない。そして何も聞こえない。匂いもしない。光もない。例えるなら水の中、だろうか。それも深海。ただ水に身を任せて漂っているのが近い。呼吸が出来ているのが不思議なくらいだが、この行動にどれだけ意味があるのかは分からない。唯一自分の存在だけは感じ取る事ができたが、それだけだ。思いつく限りの名前を叫んでみても、誰も何も答えない。
ここには穹しかいないのだから。
自分だけが宇宙に放り出されてしまったような、完全な孤独。このまま誰にも見つけてもらえずに潮の一部になってしまうのだろうか。一人だからか、余計な想像をしてしまう。そう思うと怖くて、悲しくて、悔しくて、見つけて欲しくて。泣き喚いた。
だが、今となっては取り乱す時期を過ぎて、達観の域に入りつつある。
夢と現実の狭間を波のように行ったり来たりしながら穹は時折目を閉じ、眠る。便宜上夢と表現してみたものの、これはきっと本当の意味での夢ではない。この記憶の反芻は、闇に穹の存在が溶けてしまわないように、自己を確立させる為の軸のようなもの。穹を、穹たらしめるもの。よすが。縁。

だが、いつまで?
この反芻をいつまで続ければいい?
終わりは、あるのか?

ピノコニーの劇場で、穹を留めようとする茨が千切れた瞬間からどれだけの時が経っただろう。時間を知りたくてもスマホはとっくにただの板切れになっていた。潮に呑まれてからは夢現ではあるが、とても長い時が経ったような気がする。
孤独は、まだ続くのか。
一瞬良くない思考に呑まれそうになって、大きく深呼吸をする。今し方見た夢は悪いものではなかっただろう。
知っている曲と分かった瞬間、微かに華やいだ丹恒の表情を思いながら、あの夜かけた曲を頭の中で再生する。

……〜、♪」

鼻歌ではあるが久々に声を出した。初めは掠れていたが、少しずつ自分の声がはっきりしてくる。途中咳き込んだりもしながら、少しずつ記憶の中の旋律を再現していく。

…………〜〜♪」

後、もう少し。







――見つけた」