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2025-12-28 00:10:41
5464文字
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燭鶴「手袋」
燭鶴版深夜の創作60分一本勝負 お題「大掃除」
なんかあんまりお題を活かせてない感&だいぶ時間オーバーで失礼します。
光忠くんと鶴さんって光忠くんの手がでかいので手の大きさに差があると思ってるんですけど、光忠くんの手袋を鶴さんがはめてみることでその大きさの違いがはっきりしたらなんかいいな〜と思います。
鶴丸が内番から部屋に戻ってくると、今日は非番だったはずの光忠が部屋で何やら慌ただしくしていた。
「おぉ
……
?非番だってのに、精が出るな、光坊」
「あぁ、鶴さん、内番お疲れ様」
箪笥の小さな引き出しを引っ張り出して抱えた光忠がこちらを振り返って微笑む。部屋の隅には仕舞われていたいくらかの資料や書籍が積み上げられている。
「何か探し物をしていたのかい?手伝うか?」
「あ、ううん、探し物ってわけじゃなくてね。少し大掃除をしようかと思ってあれこれやってたんだ」
本丸全体の大掃除は明日に予定されているけれど、自分は持ち物が多いから年末というタイミングで少し片付けをしようと思ったのだ、と光忠は説明する。
「そうか、きみは真面目だなぁ。俺は全然そんなことを考えていなかった」
「鶴さんはあんまり持ち物がないから、そもそもあんまり大掃除の必要ないんじゃないかな」
「光坊は確かにちょっとばかし収集癖があるからな」
「あはは
……
、そうかも。すぐ物に愛着湧いちゃうし」
こちらの指摘に苦笑した光忠は抱えた引き出しを鶴丸のそばに持ってきて置いた。中身は彼が普段使っている革の手袋たちで、どうやら手袋の引き出しだったらしい。
「そう、だから鶴さんが戻ってきたらちょっと頼み事をしようと思ってたんだ。あのさ、この手袋の中からもう使い古してるなっていうものを鶴さんの基準で分けてもらったりできる?僕はなんかどれも使い込んでて愛着があるから仕分けられなくて
……
、でも使い古した手袋をいつまでも使ってるっていうのも格好悪いでしょう?だから新年でいくつか入れ替えようと思って。鶴さん、物に対してけっこうドライだから」
「おー、なるほどな。相変わらずきみの美学は一貫していて小気味良いぜ。分かった、ちょっと鶴さんが仕分けてやろう。もう新しいものは用意しているのかい?」
「うん、下ろしてないのがまだあって入れ替えは十分できるから、鶴さんの基準で見てもらって」
「オーケー、任せな」
力こぶを作って見せたら光忠は微笑んで、ほかのものを整理してくると言ってこちらのそばを離れた。鶴丸は腰を下ろすとそばにある引き出しの中に手を伸ばして、一対、彼の手袋を取り上げた。
状態をよく確認する。この手袋はずいぶん使い込まれて革がやわらかくなっているけれど、大きな傷みは見られない。うん、これはまだ使えるだろう。
次の一対。これは革の硬さからしてまだ比較的新しそうではあるけれど、ほかのものに比べて変色してしまっていて、見た目が悪い。真っ黒で上等な質感の手袋こそ光忠らしいので、これは弾いておく。
次。これはまだ使える。次。これも使える。次、これはそろそろ寿命じゃないか?次、これもたぶん寿命。
鶴丸は一つ一つ検分しながら手袋を仕分けていった。それにしても、光忠はたくさん手袋を持っている。手は一セットしかないというのに。しかし、どの手袋にも使われている様子があったので、彼の中のいろいろな基準で使い分けられているのだろう。光忠はそういう美学のある男だ。
鶴丸はいくらかの使い古された手袋をよけたので、まだ問題なく使えるものをもう一度引き出しの中に戻した。改めて弾いた分の手袋を眺める。光忠の格好良さと照らし合わせるとやはりこれらは寿命のように感じるけれど、とはいえ、状態がそこまで悪いというわけではない。
使い込まれてくったりとしている手袋をなんとなく手にとって、鶴丸はとある好奇心に襲われた。
と、いうのは、この光忠の手袋をはめてみたい、と思ったのだ。普段そんなことを考えたことはなかったけれど、たくさん手袋を見比べているうちに興味が湧いてきたのかもしれない。
とはいえ、そんなことをしてみてもいいだろうか?
普段ほとんど、いや、ほぼまったく手袋を外さない光忠を見ていると、手袋というアイテムは彼のとてもプライベートなもののように感じる。それを勝手にはめてみるというのはなんとなくはばかられるような気もする。ちょっといかがわしさがあるような気がして。
いや、でも、もう処分するものだったらありか?
鶴丸は一つ手袋を取り上げて悩んだ。鶴丸は基本的に好奇心旺盛なタイプである。一度気になったことはやってみたい性分だ。だから、一度好奇心を持って手袋をはめてみたいと思ったからには、自分の手にはめてみたい。ちら、と光忠の様子を確認する。彼は片付けの途中で発見したらしい鎧の傷みを丁寧に手入れしていて、こちらのことは気にかけていないようだ。
よし、ちょっとだけ、片手だけだ。
鶴丸は誰かに
――
自分に
――
こそこそと心の中で言い訳をして、そっと右手に手袋をはめてみた。手袋の中には想定していたよりもするりと自分の手が入っていって、鶴丸は驚いた。
普段、自分の手袋をはめるときはもっとぴったりと手袋が吸いついてくるような
――
ぴったりのサイズなのだから当然だ
――
感覚があるのだけれど、光忠の手袋への入り方はとてもあっさりだった。つまり、彼の手袋が大きいのだ。いや、正確には、光忠の手が鶴丸よりも大きい。
鶴丸は手袋をはめた右手を意味もなく握ったり開いたりしてみた。手袋の中で自分の手が泳いでいる。手首周りも生地が余っていて、手首の太さも差があるのが可視化されていた。
光坊
……
、手がでかいな
……
。
鶴丸は勝手に拝借した手袋をはめた右手を無駄に握ったり、チョキを作ったりしてみたりして呆けてしまった。いや、呆けたというか、照れを覚えたというか、ときめいたというか。光忠のことはかわいい恋人だと思っているけれど、こうして不意に男性性を強く感じられると、どきどきしてしまうというか。行為の最中にこちらの手首を布団に縫い留める彼の手の大きさが脳裏をよぎって
――
。
「鶴さん、何してるの?」
「うぉあ!?」
手袋をはめた右手を眺めていたら不意に光忠の声が上から降ってきたので、鶴丸は仰天して咄嗟に右手を背後に隠しながら顔を上げた。心臓が急速に早鐘を打つ。いつの間にかそばに光忠が立っていて、こちらを見下ろしていたらしい。
「び、っくりしたぜ、光坊、気配がなかったな」
「そう?そんなこともないと思うけど
……
」
光忠は不思議そうに首を傾げながら、鶴丸のそばに膝をついた。視線の高さが同じになって、彼はじっとこちらを見る。
「仕分けはどうなったかなって思って様子を見に来たんだけど、何してるのかなって思ったんだ」
「仕分けは終わった。引き出しに入ってるやつがまだ使えるやつだ。それ以外には何もしてない」
「いや、何かしてたよね?」
「いやいやいや、本当に、何もしていないぜ」
鶴丸は右手を背中に隠したまま大きく首を振った。いや、別に手袋を勝手にはめてみていたくらいで光忠が気を悪くするとは思っていないけれど、拝借した手袋を通して彼の手の大きさにときめいていたという状況があるので、それを知られるのはどうも恥ずかしい。
鶴丸は誤魔化しのためにことさらにニコニコと愛嬌良く笑ってみせた。光忠はそれを見て、気のせいか
……
?と言いたげに見える様子で曖昧に頷いた。
「まぁ、うん、とりあえず鶴さんが仕分けてくれて助かったよ。僕じゃ選べなかったと思うし」
光忠は微笑むと、戻してくると言って引き出しを抱えて立ち上がった。それを見上げながらギリギリセーフと鶴丸は頭の中で呟いて静かに大きく息を吐いた。
「光坊に問題がないなら捨てる分は俺がまとめて向こうに持っていっておくぜ」
「本当?ありがとう。鶴さんの選別を信用してるからおまかせするよ」
よし、と鶴丸は頷いた。このあと光忠の目の届かないところでさっと手袋を外して、よけた分に紛れ込ませてしまえば、勝手に手袋を拝借してみていたこともばれないはずで、
――
。
「それで、鶴さん、」
引き出しを持って立ち上がった光忠が、不意にまた鶴丸のそばにしゃがみこんだ。
「どうだった?僕の手袋。使い古しだけど、でもだから革がしっかり馴染んで、けっこういい感じでしょう?」
「な、
……
、え?
……
、は?!」
突然の光忠の問いかけに、鶴丸は言葉を失って視線をうろつかせた。
「どう?僕の手袋、気に入った?」
光忠は楽しそうに笑う。彼はどうやらすべて分かっているらしい。いや、まさかそんなはずは
……
、と鶴丸は思うのだけれど、光忠のこの余裕の表情を見ていると分かっている可能性のほうが高いような気がしてくる。というかたぶんそうなのだろう。
「きみ
……
、分かってて俺を泳がせたな、
……
」
「ふふ、だって鶴さんがあんまりかわいいから」
光忠はなんだかとても機嫌が良さそうで、はい、とこちらに手を差し出した。
「
……
?」
「右手見せて、鶴さん。僕の手袋をはめてるほう」
「う
……
、いや、これはだな、本当に出来心だったというか、
……
こう、その、なんだ!光坊の手袋は上等だから仕分けるために触っていたらつけ心地が気になっただけで、別に、」
鶴丸は苦し紛れの言い訳を述べてみたけれど、それが言い訳でしかないことは鶴丸自身が一番分かっていた。革が上等だから気になったわけではない。光忠のプライベートなものだからこそ気になった。つまり、多少なりともの助平心が混ざった好奇心だったのだから。ゆえに、きまりが悪くて言い訳してしまうのだけれど。
しどろもどろの鶴丸の言葉が言い訳でしかないことが分かっているのかどうなのか、光忠は相変わらずニコニコしていて、やっぱり手袋をはめた右手を見せろと言う。
鶴丸は観念して肩をすくめると、背後に隠していた右手を彼の方へ差し出した。光忠の黒の手袋をはめたこちらの手を、彼はじっと見る。
「わぁ、これは、思ったより
……
」
「
……
?なんだい、にやにやして」
「いや、その、なんていうか
……
、鶴さんのえっち」
「はぁ、?」
光忠が茶化した調子で言うので、鶴丸は困惑して首をひねった。
「べ、つに、なんかそういう感じじゃないだろう!これはただのきみの手袋で、」
「うん、そうだね、ただの手袋だけど
――
、なんていうか、これ」
光忠は鶴丸の手を取ると、手袋を外した。手に合っていない大きい手袋だから、するりと簡単にそれは手から抜けていく。あらわになった鶴丸の手のひらに、光忠は自分の手のひらをぴたりと合わせて、大きさを比べあうようにした。
「鶴さんは手が小さくてかわいいね」
「別に平均的だろう。光坊がでかいだけだ」
「ふふ、」
光忠は意味深に笑って少し手のひらの角度をずらすと、鶴丸の指のあいだに指をするりと滑りこませてきた。そのままぎゅっと指を絡めるように握られる。合わせていた手のひら同士がさらに密着する。はたから見れば手遊びをしているように見えるかもしれないけれど、こうやって握られるのは、なんだかいけない。なんというか、これは。
「えっちしてるとき、こうして手を握るでしょ。そのときいつも鶴さんの手、僕より小さいなって思ってたから、僕の手袋を余らせてはめてるのを見たら余計にかわいいなって思って。誘ってるのかな?って思って」
抱きたくなっちゃった、と光忠はすました顔をして言う。
「な、?!このすけべ伊達男!」
鶴丸は動揺して手を振りほどこうと思ったのだが、思いのほかがっちり握りこまれていて振りほどけなかった。
「あ、こら、放せ」
「鶴さんは?」
「
……
?」
「鶴さんは僕の手袋はめてみてどうだったの?」
「
……
」
光忠の問いに鶴丸は口ごもった。駄目押しのように彼が首を傾げて答えを促す。こちらの答えはたぶん見透かされていて、だから光忠は少し勝ち誇った顔をしていた。まったく、普段はかわいいのに、この男は。
「きみの手は大きいと思って、」
「うん」
「だから、良いと思ったというか、」
「うん」
「その
……
、と、きめいた、というか」
「うん」
「つまり、まぁ、
……
抱かれ、た、い、と思った、
……
」
鶴丸が仕方なく正直に白状したら光忠はとても嬉しそうにしている。ちょっと余裕のあるその表情に鶴丸はなんだか負けた気になって、無理やり光忠の手を振りほどくと、両手を伸ばして彼の頭をめちゃくちゃに撫でた。髪をぐしゃぐしゃにかき回す。
「うわぁ!ちょっと、鶴さん!」
髪をめちゃくちゃに乱されて光忠が困り笑いしている。
「
……
よし、それでいい。光坊はそうやってかわいい顔をしていればいいのさ」
気が済んだ鶴丸は得意げに微笑んで、光忠からぱっと手を離した。乱れた髪を手櫛で直す彼を見ながら鶴丸は満足げに立ち上がる。
「さて、大掃除の続きをやるぞ、光坊。夜までには綺麗にしちまわないとな」
「夜?」
「あぁ」
鶴丸は腰を下ろしている光忠の方に身をかがめて耳打ちした。
「抱きたくなったと言ったからには
……
、抱かれたくなったと言わせたからには、今夜、抱けよ?光坊」
光忠はきょとんとして、そして照れたように笑った。
「それはもちろん。あはは
……
、鶴さんには敵わないな」
「手の大きさはきみの勝ちだがな」
鶴丸の言葉に意味もなく光忠が両手を顔の横に掲げて見せたので、鶴丸は軽くその手にハイタッチしてやってから笑った。やっぱり彼の手は大きくて男性的だった。
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