お芋さん太郎
2025-12-27 23:01:19
2739文字
Public ONEPIECE
 

初めてのケーキ

チョッパー誕生祭2025
#ヒルルク


街はどこもかしこもピカピカ光っていて、すれ違う人はみんなが浮かれた顔をしていた。
チョッパーは獣型の顔を上げ、となりを歩くヒルルクの顔を覗きこむ。

「ねえドクター。なんだか楽しそうな雰囲気だけど、今日はお祭りかな」
「あァ? なんだ、知らねェのか。明日は遥かむかーしの聖人の誕生日。だからそれを祝ってるのさ」
「明日なのにか?」
「前夜祭ってやつだ。まあ、今のやつらにとっちゃあ、酒を飲むための口実だろうよ。うちは金が無ェからナシだ。医術で人を救うには金がかかるのさ」
「ふーん」

ヒルルクが周りを見渡し、顔をしかめる。
「おれは、どうにも好かんがな。このピカピカが」とぶつぶつ言った。

チョッパーはヒルルクのつぶやきを聞き流しながら、よーく街を見渡した。
輝くもみの木のてっぺんにはデッカい星がクールに座っている。
家々の窓にはキラキラでふわふわした飾りが、ドアには植物でできた丸い輪っかがついている。
人間は、赤い三角の帽子をかぶっていたり、白くて四角い箱を持っていたり。

夜なのに昼間みたいに街が明るくて、雪が降ってるのに温かささえ感じた。
なんだかつられて心が弾む。

チョッパーは少し飛び跳ね気味にぴょんぴょん歩いて言った。

「なんか、いいな。おれも誕生日を祝われてるみたいだ。うれしいな」

だらしなく頬を緩ませて、再びヒルルクを見る。
しかし隣には誰もいない。

「あれ? ドクター?」

振り返る。
ヒルルクは少し後ろで足を止めていた。

彼は手に持ったカバンを雪道に落とした。
なにやらものすごい形相でチョッパーを見ていて。

「お、お前、いまなんて言った?」
「え? う、うれしいな?」
「違う! その前だ」
「なんかいいな?」
「その後!」

ヒルルクがチョッパーに詰め寄る。
正直に言って、ちょっと怖いくらいの迫力だ。

「おれも、誕生日を祝われてるみたい?」
「それだ! まさかチョッパー、お前の誕生日って……
「十二月二十四日……今日だけど」
「か~! バカ野郎、お前なぜそれを先に言わねェ!?」
「バカじゃねェ! 聞かれなかったから言わなかっただけだ!」
「だからって……アーわかった、こっち来い」

ヒルルクがカバンを拾って、大通りから逸れる道に入っていく。
チョッパーは彼の様子に首をかしげながら、おとなしくついていった。

帰り道ではないから、どこに向かっているのかはわからない。
店よりも民家が多いらしく、大通りよりは飾り付けが少ない道だった。
落ち着く雰囲気で、どこかの家から子供の笑い声が聞こえる。

数分ほど無言で歩いていると、ヒルルクは小さな店の前で立ち止まった。
ドアのうえには小さくてカラフルな屋根がついていて、小さなつららが並んでいる。

「おい、小さくなれ。そんで、おれの……このカッパでいいか。前閉めろよ」
「わかった」

言われたように人獣型になり、人間の服を着て、一緒に店に入った。
目の前がパッと明るくなって、カラフルになって。

「わあ!」

見たこともないほどのたくさんのケーキが、お行儀よく並んでいる。
甘い香りのショーケースに、思わず釘付けだ。

「すげー! ねえドクター、見て!」
「見てる見てる。誕生日といやあ、ケーキだ。どれでも好きなモン選べ」
「いいの!? さっきお金ないって言ってたのに」

ヒルルクが呆れた顔してしゃがみ、チョッパーを諭すように言う。

「そりゃあ、見ず知らずのハゲ野郎を祝う義理なんざ一ミリも無ェが、相手がお前なら話は別だぜ」
「聖人って、ハゲてるのか」
「偉いやつはだいたいハゲてる」
「そうなんだ……おれ、フサフサでよかったよ」
「ああ、よかったな。さあ、選べ」

と。
言われたところで、選び方がチョッパーにはわからない。
なにしろケーキを選ぶのなんて初めてだ。

真っ赤なイチゴのやつ、栗がピカピカしてるやつ、チョコが乗ってるやつ、いっぱい重なってるやつ、大きいやつ。
全部がきれいで目移りしてしまう。

 「やっぱりイチゴの大きいやつかなあ」なんて考えて、ヒルルクの顔を見る。

目線は合わなかった。
なにしろ彼が、一生懸命になって財布とにらめっこをしてるものだから。

……なあドクター。おれ、これがいい!」

結局チョッパーが指したのは、手のひらサイズのカップケーキだ。

「んん? 一番小せェやつじゃねェか。もっとデカいケーキでもいいんだぜ。ほら、イチゴのなんてどうだ? チョコは? 金のことなら気にしなくていい」
「ううん、これがいい。ドライフルーツがいっぱい入ってて美味しそうだからさ! そのかわり、二つ買ってよ。ドクターと一緒に食べたいんだ」
「チョッパー……わかった。今日はお前が主役だからな。好きにしろ」

ヒルルクは少し不満気な様子だったが、チョッパーは誇らしい気持ちでいっぱいだった。
大きなケーキを一人で食べるよりも、二人で食べた方がきっとおいしい。
不思議とそんな確信があった。

「邪魔になったらいけねェからな、お前は先に出てろ」
「うん! 店の外で待ってるよ」

イチゴのケーキに「また今度」と手を振って、店を出る。

来た時よりもずいぶん雪が深くなっていて、帰るのが大変かもなと思いながら、カップケーキに思いを馳せた。
二人で一緒に食べる、初めてのケーキに。



チョッパーを笑顔で見送った後、ヒルルクは店主の男に急いで詰め寄った。

「見てたろ。あいつはいい奴なんだ。イチゴとチョコのプレート、なんとかならねェか。金は無ェ」
「多少は余ってるが……金はいいよ、サービスだ」
「ありがてェ! 病気になったら言ってくれ、タダで治してやる」
「それだけは止めてくれ。ほらよ、出来たお弟子さんに感謝しな」

店主は品物とオマケを箱に入れながら、震える声でヒルルクの申し出に応えた。

「遠慮するな、謙虚なやつめ。ありがとよ」

研究と医療行為で万年金欠なヒルルクにとって、店主の気遣いは願ってもない事だ。
素直にありがたく箱を受け取る。
恩返しは必ず、と決意を固めながら。

カップケーキの分だけ料金を支払い、チョッパーの待つドアへ向かう。

「あ、言い忘れた」

思い出して、振り返った。
店主が不思議そうにこちらをみている。

「あいつは『弟子』じゃねェ、『息子』だ」

自慢げに言うと、呆れた苦笑で返された。

「どうでもいいから早く行け、通報するぞ」
「おお、おっかねェ……ゲホっ」

ドアの手前で数回咳をして、今度こそ足早に店を出る。
息子と二人で一緒に食べる、最初で最後のケーキに思いを馳せて。



おわり