フリンズさんに三つ編みをする話


「暇だなぁ……
「そうですね」
 
 せっかく二人とも揃っての非番の日なのに、外は大雨。予定していたお出かけは延期になった、残念。
 良い機会だってことにして、同じ空間に居ながらもお互い好きに時間を過ごすことを私から提案した。「……そうですか」と、フリンズは渋々承知してくれたのだが、先に暇を持て余したのは私の方だった。
 積んでた雑誌を読んだり、気になってた箇所の細かい掃除をしたり、まったりティータイムを一人で満喫したりしていたのだが、もうやることが思いつかなくなってしまった。忙しい時には、休みの日にアレコレしたい!と思いつくのに、実際にその状況になると思いつかない現象……なんか名前とか付いてないのかな。
 フリンズの方は、倉庫から取ってきたらしい過去の報告書?を机に数冊積んでずっと読んでいる。私のついでに淹れてあげた紅茶を優雅に飲みながら。
 
「ねぇフリンズ」
「はい」
「三つ編みしてもいい?」
 紅茶のカップを持ち上げたままのフリンズは、掛けられた言葉に少し驚いた様子で私に目線だけ向けてくる。
「唐突に何を言い出すかと思えば……、お好きなようにどうぞ」
「やった!それで、何個作っていい?」
「個数……ですか?ひとつではなく?」
「うん」
 片眉を上げて怪訝そうな顔をされた。想像つかなかったようだ。
「えぇ、まぁ……どうぞお好きなだけ」
「よし!……言ったね?」
 腕まくりをしながら意気込む私をみて、彼は少し呆れた顔をしていたが、気にしないことにした。
 
 ソファに座るフリンズの後ろ側に、背が高めの椅子を持ってきて腰掛ける。櫛と髪ゴムをたくさん準備したので、早速始めることに。
 彼の長くて綺麗な髪の毛を触らせてもらえる特権にホクホクしながらも櫛を入れていく。普段から髪の手入れに余念がない彼なので、とても触り心地がいい。
 思わず髪の束に顔を埋めると「こらこら」と嗜められ、伸びてきた手で後頭部を優しく撫でられた。いやでも我慢できなくて、ね?
 気を取り直して、梳かし終えた髪を一房少なめに掬う。これを三つ編みにして行く予定だ。いくつの三つ編みができるだろうか。
 
 一つ目の三つ編みを作りながら、綺麗すぎる髪の毛は三つ編みに向かないことを思い出す。
「くぅ……さらさら過ぎて三つ編みしても解けてしまう
「ふふっ、苦労をかけますね」
「なんのこれしき、やり甲斐がありますねぇ」
 これはこれで、暇つぶし向きな髪質……ということで。
 
 少し慣れてきてからは、一つ二つと三つ編みを増やしていく。楽しくなってきたが、だんだん指が疲れてきた。四本目ができた所で残り半分を超えてきたので、一休みすることにした。
 ふと彼の後ろ姿を改めて眺めると、いつもは隠れている彼のうなじが見える。見えてしまったからには仕方ない、これは不可抗力ということにして、現れた白い首筋に唇を寄せてキスを一つ。
 それまで微動だにしなかった彼も流石に驚いたらしく、フリンズは首筋を手で押さえながら振り向く。
「貴女は、なんてことを……
「えへ、美味しそうだったので」
 悪びれもせずそう言うと、「次は、ありませんからね」と言いながら彼はまた手元の冊子に向き直った。ごめんって。
 
 残った髪の毛も三つ編みにすると、合計六本の三つ編みが完成した。この長さの三つ編みが沢山あるだけで楽しい!
「三つ編みの時間はこれで終わりですか?」
「いいえまだまだです」
「おやおや」
 出来立ての三本の三つ編みを、さらに三つ編みにしていく。そう、これがやりたかったのだ!
「前に雑誌で見て、めちゃくちゃ可愛いな~って思ってたんだ」
「それをなぜ……ご自分の髪の毛ではなく、僕の髪で試しているのですか。僕と同じ程の長さがあるでしょう?」
「フリンズ様はご存知ないかもしれませんが、自分の髪の毛で作る三つ編みって、めーっちゃ面倒なんですのよ」
 わざとらしくそう伝えると、「そういうことですか」と彼はクスクス笑っているようだった。前を向いてもらっているので顔は見てないけど、フリンズのいつもの笑顔を予想しておく。
 
 
「というわけで、完成しましたー!」
「はい、お疲れ様でした」
「待ってね、今そこの手鏡持ってくるから」
「いえ、不要です。それよりも、」
 フリンズの横を通り過ぎようとしたところで、腕を掴まれて彼に倒れ込む。
……ん?」
「今度は僕が貴女の時間をいただく番、ですよ?」
…………そんな約束はひとつもしてないんだけどなぁ」
 そうは言いつつも、順番と言われてしまえばその通りなので、彼の好きにしてもらうことにした。
 
 
 
……この三つ編み、解いて梳かすの大変すぎない?」
「貴女がやったことですよ」
「そうでした」
 
 
 
『特権は有効活用しましょうね?』