雨鶴
2025-12-26 18:58:39
2435文字
Public 小話
 

図書委員の話

図書委員会だけの特別な行事の話。きり丸と怪士丸は長次を良いお兄さんと思ってます

師走の25日。図書委員会だけの特別な行事がある。

それじゃ、あとは頼んだ」
「はい、分かりました!」
長期休暇が始まる前の図書室の整理に委員会全員があたっていたのだが、しばらくすると委員長である長次が席を外した。
「あとは任せて下さい!」
五年生の不破雷蔵と二年生の能勢久作は退出する長次を嬉しそうに見送るものだから、きり丸と怪士丸は首を傾げる。
先輩達、ずいぶん嬉しそうっすけどなんなんスか?中在家先輩が居た方が捗るじゃないですか」
「そうですよ。整理しなきゃいけない冊子がまだまだあるんですよ
山積みになっている【未分類:寄贈書】と掛かれた冊子を見ながらきり丸と怪士丸がゲンナリしつつ、嬉々とする雷蔵と久作に声を掛ける。
「今日は25日だからな!」
えっへん、と久作が言うがきり丸達からすれば、なんのことやら。
「25日だと何かあるんすか?」
「ああきり丸達は初めてだね。毎年、図書委員会だけの特別な行事が師走の25日にあるんだよ」
そう、雷蔵が教えてくれた。
「特別な行事、ですか?」
「そう。図書委員長がね、お菓子をくれるんだ。歴代委員長がやってきた事なんだ」
「え?でもそれって普段の中在家先輩じゃないですか?」
後輩や同期に菓子を作り、配っている長次からすれば何が【特別】なのだろう?
「きり丸、違うんだよ。図書委員長の中在家先輩が、図書委員会の為だけに作ってくれるんだよ!」
「不破先輩、怖いっす」
両肩を掴んで力説してくる雷蔵に、きり丸はちょっと引き気味である。
「僕が入った時なんか、スゴく不味くてね!だから久作が羨ましかったよ」
「え?何故ですか?久作先輩の時は、中在家先輩って五年生ですよね?」
雷蔵の言葉に怪士丸が問う。確かに、歴代委員長が菓子を作るのであれば先輩ではなく、当時の委員長だと云う若王寺先輩だ。
「若王寺先輩が中在家先輩に作らせたって話らしいんだ。本当かどうかは分からないけどな」
本を整理しながら久作は怪士丸の質問に答える。
「別に作らなくても良いらしいんだけど、扱っている店が少ないらしいから委員長は皆手作りするんだよねさ、先輩が来る前にある程度終わらせよう」
雷蔵が作業再開し始めたので、一年生二人もそれ以上質問をすること無く黙々と本の分別に取り掛かる。


◆◇◆◇

みんな、待たせた」
そろそろ日暮れに差し掛かる頃、長次が図書室へ竹籠重バスケットを持ってやって来た。
「先輩お帰りなさい」
大分進んだみたいだな、皆助かった」
冊子の分別や整理が進んでいたのを見た長次は満足げに微笑みながら、縁側廊下に近い文机を背に着座する。行事を知っている雷蔵と久作はそわそわと浮き足立ちながらも長次の前に座る。
二人も、おいで」
長次に手招きされ、きり丸も怪士丸も久作の隣に座った。
「一年生、ろ組怪士丸から」
そう言うと長次は怪士丸の前に進み出て。

「賢なれ、才あれ、恙無からんことを願う

ふわりと頭を撫でてから、スッとお腹を撫でる。
不思議な言葉と共にその所作をきり丸、久作、雷蔵にも長次はしていく。全員にし終えると長次は竹籠重から手のひらより少し大きい袋を取り出し、三人へ配る。黄色の留め紐、銀朱の袋は斜陽を受けてキラキラと光って見えた。
「有難うございます、先輩」
「あのう、中在家先輩。さっきのってなんスか?なんかのおまじないですか?」
きり丸は自分の頭を片手で撫でながら、長次へ尋ねた。不思議な言葉と行動。これが【特別な行事】なんだろうか?
先の言葉は『知恵を授け、健やかであれ』と云う古語だ。それになぞらえ木の実を使った菓子を作り、皆に振る舞う。いつから始まったのかは私も分からない
『私が入った時にはあったから』と続けた。
「先輩が作ったお菓子、楽しみです。去年の松の実を使ったお菓子も美味しかったですし」
久作の言葉に雷蔵が頷いた。
「分かる。前年度が酷かったから本当に美味しかった。ちなみに中在家先輩、若王寺先輩からお菓子作り頼まれたって本当ですか?」
アレは若王寺先輩が『菓子じゃなくとも古語通りなら、松ぼっくりでも構わんだろう』と言い出してそのまま渡そうとしたから、私からお願いした」
その時の事を思い出し、長次は溜め息を吐く。
「ああの先輩、開けても良いですか?」
怪士丸の言葉に長次は頷いた。きり丸も自分の袋を開ける。甘く香ばしい匂いが袋から立ち上った。ヒトツ取り出してみると、ヘムヘムが木の実を抱えた姿のクッキー。
「わあ」
「先輩、器用ッスね~。これで商売出来そう
「きり丸!」
きり丸の素直な感想は久作に窘められた。
食べるなら、気を付ける様に」
「えっ、良いんですか?」
『飲食厳禁・火気厳禁』の図書室である。それを長次がヨシとするなんて、きり丸も怪士丸も驚く。
この日は特別。二人は食べないのか?」
「僕は食べていきたいけど、去年みんなに話したら今年は絶対に持って来て!って念を押されたんだよね~。あーあ
「僕は知恵を頂く木の実のお菓子なので『い組』の皆で分けたいと思います」
はぁ、と雷蔵が肩を落とすのとは別に、久作は実に優等生らしい答えだ。
雷蔵と久作を見送り、部屋には一年生と長次だけ。
「きり丸、怪士丸。二人はどうする?」

『賢なれ、才あれ、恙無からんことを願う』

図書委員会だけの特別な行事、そして特別なお菓子。
(中在家先輩がオレ達にくれる、最後かもしれない特別なお菓子)

「オレ、食べていきます」
「あっ、じゃあ僕も
「そうか。ならば溢さぬ様にな
二人が食べていくと決めたので、長次は懐から懐紙を取り出し文机に広げた。

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元ネタは海外クリスマスの伝承お伽話。知恵と来年もたくさん食べれる様に。
きり丸と怪士丸が長次を慕っている話、好きです。図書委員会が好き。