フリンズさんと仲直りする話


「お待ちください!」
「いやだ、もう怒った!もう知らないからね、ここから出て行ってやる!」
 
 と言って夜明かしの墓を飛び出したのは一週間ほど前。
 今はナシャタウンの友人の家で寝泊まりさせてもらっている。駆け込み場所の提供いつもありがとう。
 フリンズと喧嘩する要因は大抵私側となるのだが、今回はフリンズが悪いと思う!……とはいえ、こんな長い期間会わずに過ごすのは久しぶりすぎて、少し寂しくなってきたところである。
「はぁ……そろそろ夜明かしの墓に、行ってみるか」
 家出して気持ちが落ち着いてきたし、フリンズとも冷静に話ができるかもしれない。そう思い立ち、仕事で不在中の友人宛に手紙だけ置いて、鍵をかけてポストに入れた。
 
 
 ***
 
 
 あー、もう到着してしまった……
 夜明かしの墓に着くまでに色々考えた。最初に声をかける時に言葉、怒鳴ってしまったことへの反省、……ひどい事を言ってしまったことへの謝罪。でも全然まとまらなかった。
 はぁとため息を吐きながら灯台下まで向かったが、残念ながらフリンズは不在にしているようだった。鍵は貰っているとはいえ、喧嘩して飛び出した手前、部屋に一人で入るのは気が引ける。外のベンチで彼の帰りを待つことにした。
 ベンチに深めに座り込んで、夜明かしの墓の薄暗い空をぼーっと眺めた。なんだか少しだけ懐かしい気持ちになる。……ここ最近は寝つきが良くなくて、とても――ねむい
 
 
 ***
 
 
 肌寒さを感じて身じろぎすると、カチャっと金属同士が触れるような音がした。何の音だろう……と薄目を開けると、装飾いっぱいの見慣れたケープコートが自分に掛けられているようだ。
――起きましたか?」
 声がした方を見ると、ベンチに並んで座るフリンズが見える。
……うん。――あれ、フリンズが居る」
「はい、貴女のフリンズはこちらにいますよ」
……わたし、寝てた?」
「はい」
「そう……。あっ」
 だんだん覚醒し始めた頭を動かすにつれて、喧嘩中にフリンズを尋ねてきたことを思い出してきた。ハッとして、思わず掛けられていた彼のコートを引き上げて顔を隠す。
 
……隠れてしまわれるのですか?」
「うん、ちょっと。頭の整理させて」
「わかりました、お待ちしていますね」
…………、フリンズ」
「はい」
「怒ってる?」
「いいえ全く。そもそも怒っていたのは貴女の方では?」
 それはそうかもしれない。でも、ね。
……出て行く時に、ひどいこと言ったし」
「そうですね、それについては少し傷付いたかもしれません」
「ごめん。言いすぎた」
 隠れたままで謝るのは誠実では無い、そうは思っているのだが、このコートから顔を出す勇気がない。
 フリンズはため息を一つ吐き、私の名前を呼ぶ。心なしか声が少し近い気がする。
……なに」
「顔を、見せては貰えませんか?」
「いやちょっと……その、」
「貴女は、僕の顔がお好きなのでしょう?」
「うん大好き」
「であれば、顔を合わせてお話しませんか」
 
 数秒考えて、覚悟を決めてから被っていたコートをずらして顔を覗かせる。フリンズは私に覆い被さるようにして、目の前に居た。……か、顔がいい。
「やっと目が合いましたね」
 眉を下げて困り顔をしていた彼だったが、私と目が合うと柔らかい笑顔に戻ってくれた。その顔を見た瞬間、何を言おうかと事前に考えていた言葉は全て消えてしまった。
 
……フリンズ、ただいま」
「えぇ、おかえりなさい。お待ちしてましたよ」
 
 
 
「それで、この間の件はお許しいただけたのでしょうか?」
「熱してた鍋を手掴みしたこと?……全然許してないよ。見てるだけで怖いもん!しっかり反省してくださいっ」
「僕は火傷で怪我をしたことは、無いのですが」
「そう言う問題じゃないんです!」
……おや?」
 ――だめだこの人、全然反省してない……っ!?
 
 
 
『僕も、貴女のその顔が見たくて』