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柄
2025-12-26 12:25:20
4982文字
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堕ちて腐れど、それも愛5
たぶんべったーではここまで このあと加筆するかは私がすけべ書く元気あるか次第
「アゼム!」
ヒュトロダエウスの声が聞こえ、エメトセルクは閉じていた瞼を持ち上げた。目を凝らせば簡単に部屋の中のエーテルの様子がよく分かる。見間違うことのないアゼムのエーテルがそこにあって、美しく巡る輝きをじっと見つめる。
どうやら身体を起こしているらしい。駆け寄るヒュトロダエウスに応える微かな声が聞こえた。
「
……
ハーデス?」
思わず呻く。一言目に呼ぶのが、ずっと閉じ込めて犯されていた相手だ。現状確認には最適ではあるが、それでも呼んだ声の柔らかさは変わらない。
「んふ、ふふ。残念、じゃない方の親友だよ」
「ヒュトロダエウスだぁ
…………
」
んん、と喉を鳴らしながら衣擦れの音が微かに聞こえる。エメトセルクは息を顰めてじっとその輝きを見つめた。
「キミ、現状をどこまで理解できてる?」
「んんー
……
? なにが
……
?」
はぁぁぁー、とヒュトロダエウスの大きな溜息が聞こえた。おそらく天でも仰いで首を振っているのだろう。ヒュトロダエウスの視線が一瞬こちらを向いた気がするが、壁の向こうの実態までは分からない。
ヒュトロダエウスが丁寧にアゼムの身に起きていたことを説明する。厄介な呪いにより魔力の出力に制限がかかっていたこと、それを解く為の方法が酷く悪趣味であったこと。その役目を、エメトセルクが請け負ったこと。親しき友として、正しくどちらにも寄り添った語り方だ。しかし事実、エメトセルクは悪なのだ。それをはっきり突きつけてもいいというのに。
「キミを助けるために仕方のないことだったんだ。どうか彼を許してやってくれ」
ヒュトロダエウスの声にゆっくりと息を吐く。許されたいわけじゃない。むしろ、傷として残るのならばそれでもよかった。
けれどもきっと、アゼムは許してしまうのだろう。酷く優しい彼女を、よく知っている。友人には特に甘くて、優しくて、おおらかなのだ。
しばらく無言が続き、アゼムは静かにそう、と呟いた。
「そう、だったんだ」
噛み締めるように呟いた声が揺れていることに気付いて、エメトセルクは目を見開いた。酷く、傷つけられたような声だった。
「そうなんだ、そうだったんだね」
「ア、アゼム!?」
ひくり、と喉が震える音がする。堪えきれない嗚咽が響いて、慌てるヒュトロダエウスの声がよく聞こえた。
「わた、し
……
勘違い、しちゃった
……
ふ、ふふ」
何を、言うのだろう。何故、泣くのか。いや、当たり前だ。いくら彼女が優しいとは言っても、やはり許されないことをしたのだ。どれほど恐ろしかったことか。言葉も行動も制限され、友人と信じていた相手に犯される。気丈な彼女だって、傷つくに違いない。当たり前のことなのだ。エメトセルクに見せない感情があっただろう。それでも傷として残ってしまえと願った。想定したうちの結果の一つだ。しかしこうして傷つく彼女を目の当たりにして酷く動揺してしまう。
誰よりも、何よりも。大切に、したかったのだ。
「ああ、やだな、ばかみたい、私」
アゼムが泣きじゃくりながら、震えた声を吐き出す。
「ハーデスが私のこと好きなんだって、勘違いしてた」
酷く傷つけられた声だった。震えて、掠れて、涙が絡まって呼吸も難しい。そうして吐き出された声だ。しかし、エメトセルクはうまく彼女の言いたいことを飲み込めなかった。ヒュトロダエウスも言葉を失っている。正しい認識を、アゼムは得ていた。けれどもそれが違うと知って、泣いている。
「私、求められて嬉しくて。もしかして、私のことが好きで、閉じ込めてみちゃったのかな、なんて」
概ね、正しい。経緯は違えど、事実はほとんどそれに近い。
「きっとハーデスは私のことが好きなんだって舞いあがっちゃって。嬉しくて、幸せで
……
一人で、本当に、馬鹿みたい」
…………
それに、幸福を感じて、いた?
「そう、だよね。ハーデスは優しいひとだから。そんなわけ、ないのに。あの人にとって私は、ただの友人でしかないのに」
「アゼム、まって」
「ハーデスも私のことが好きだなんて、そんなの、ありえないんだ」
吐き出された言葉に息を呑む。しかしその息が吐き出される早く、アゼムのエーテルが揺らいだ。
「ごめん、ちょっと頭、整理させて」
「まって!」
ヒュトロダエウスの声に咄嗟にドアを開けて部屋に入る。エーテルが解けかけたアゼムと目があった。涙で覆われた目を見開いたアゼムの顔がくしゃりと崩れた瞬間、エーテルが地脈へ流れていくのがよく見えた。
地脈を解する転移は苦手だからと、いつもエメトセルクに頼っていたくせに。目を開いてその軌跡を辿る。どんなに速い流れの中でも、渦巻く濁流でも。彼女だけはけして、見失うことはないのだ。けして、逃してはならない。
同じようにエーテルを解いて追いかけてゆく。地脈を彷徨う輝きに絡まって捕まえて、引き摺るように地脈から引き剥がす。ただひたすらに遠くを願う彼女は必死に逃れようとするのがよくわかった。それでも明確な出口を見定めている、彼女よりもずっと扱いに長けたエメトセルクの方に分がある。
抱え込んだ身体を共に構築し、転がるように辿り着いたのはここ数日、ずっと二人きりで過ごしていた場所だった。
柔らかいシーツの感触にアゼムがどうして、と小さく囁く。まだどうにか逃げ出そうとするアゼムを抱え込んで名前を呼んだ。
「
……
名前、呼ばないで
…………
」
「話を、聞いてくれ」
「わかってる、ちゃんと、わかってるから」
「わかっていない」
「わかってるってば!」
泣いた声にさらに力を込める。何度も名前を呼んだ。何度も、何度も。それでも腕はエメトセルクの胸を押して逃れようとする。抑え込みながら視線を合わせようと覗き込んでも、必死に顔を逸らされた。泣いて泣いて赤くなった目尻を親指で拭えば、アゼムは痛みを堪えるような顔をした。
「ちゃんと、無かったことにするから、だから今は、離して」
「厭だ」
「なんで、そんなこと言うの
……
っ」
ほろりと涙が落ちる。震えた唇が痛々しかった。
「私のこと、好きじゃないくせに、」
ああ、本当に。どれほどのことを、してしまったのか。
名前を呼ぶ。聞いてくれ、頼む、と懇願する声に、アゼムは泣きながら身体を震わせ、抵抗を少し納めた。しっかりと抱え込み、息を吸い込む。
「愛している」
ひゅう、とアゼムの喉が鳴った。さらに力を込め、名前を呼ぶ。
「お前を何よりも愛しているから、お前を閉じ込めた」
短い呼吸を繰り返す音を、もう二度と触れられないと思っていた熱を、遠ざけるはずだった柔らかさを。噛み締めて、口を開く。
「他の誰にもお前を触れさせたくなかった。だから、私が私の意思で、お前を犯した」
「
……
う、そ」
「このひとときの傷さえ抱えれば、それでいいと思っていた」
「だっ、て」
「呪いでも何でも、お前に触れるのは、私だけであって欲しい。それがお前を傷つけるものであっても、その傷が一時でも残ってくれればいいとすら思った」
けして、伝えてはいけないと思っていた。伝えることこそが、一番彼女を苦しめてしまうと。そう思い込んでいた。
「好きだ。愛しているんだ、頼む」
乞うように何度も何度も名前を呼んで感情を伝える。泣きながら戸惑う瞳からまた新しい涙が溢れた。そうしてしばらく、エメトセルクを見上げた瞳が、ゆっくりと閉じて、開いた。
ふ、と息を飲む。ずっと、教え込んだことだ。エメトセルクはそっとアゼムの頬に手を添えると、唇をそっと重ねた。柔らかく触れて、押し付けるだけのものだ。震える熱がじわりと伝わって、鼓動が速くなる。どうしようもないです幸福が駆け巡るのを感じながらそっと離れれば、アゼムは閉ざしていた瞼を開いてエメトセルクを見つめた。揺らぐ感情の色合いは、正しく意味を理解していなかったとしてもよく知っている。ずっと、エメトセルクを見つめてきたものとおなじだった。アゼムはもう一度ゆっくりと瞼を下ろしながら小さく呟いた。
「もっと、キスして」
ああ。正しく、求められている。肘をついて両手で押さえ込むようにアゼムの頬を包み、唇を重ねる。開いた隙間に舌を捩じ込めば、応える動きがあった。絡めあって、吸い取って、溜まった唾液が音を立てる。呼吸が苦しくなる少し前に話してやれば、息を整えながらアゼムが小さな声でエメトセルクを呼んだ。
「
……
君が、私のことを好きで、欲しくてたまらないって。思って、いい?」
顔を寄せて、溢れる涙を唇で拭う。
「お前が、思うよりも」
静かな答えにアゼムは少しだけ目を見開いて、そして解けるように笑った。
「私も、だいすきだよ、ハーデス」
……
何度か。見た、唇の動きだった。朝の狭間に、夜の瞬きに。溺れながらも淡く動く唇を、理解せぬままずっと見ていた。正しく理解できなくて、名前を呼ばれたことだけを認識していた。
ずっと、ずっと。
アゼムは、エメトセルクを愛している。
ひとしきり泣いたアゼムを宥めて抱きしめながら、エメトセルクは静かに息を吐いた。ようやく涙が途切れたアゼムの目尻は赤い。指先に魔法を込めて撫でながら擦り切れた皮膚を治癒していけば、心地良さそうにアゼムは目を閉じてエメトセルクの手に擦り寄る。
「
……
それにしたって、ずいぶん怖い思いをしたんじゃないのか。無防備すぎる」
眉を寄せながらつい呟くと、アゼムは不思議そうに瞬きをしながらエメトセルクを見上げた。んー、と少し考えて、怖くないけど?と返す。
「だって、君だもの」
「あの、なぁ
……
」
「
……
それに、私は両思いだって舞い上がってたし
…………
」
むすり、と追加された言葉につい唸りながら口を閉ざした。
「蜜月ぐらいの気持ちだったんだもん
…………
甘やかされてる、やったーとか思ってたし
…………
」
「アゼム」
「愛されてるんだって嬉しくて、とりあえず声が出るようになったらいっぱい好きって言ってやるからなって意気込んでたし
……
」
「アゼム、」
「それなのに
…………
」
じろり、と睨んでくるアゼムにすまなかった、と囁いて抱き締める。むすー、と息を吐き出しながらエメトセルクのばか、と囁く声は甘い。
「
……
いや、お前声が出せるようになってもそれを隠していたな?」
「あっ」
ぴた、と口を閉ざして視線を逸らすアゼムに、おい、と声をかける。アゼムの頭の横に肘をつき、囲うように見下ろしながら名前を呼べば、だって、とアゼムがもごもごと呟く。
「魔法使えるし、声出るし、もうこれ終わっちゃうのかなぁって思って
……
最後にもうちょっとだけって」
つい呻いてしまった。そのまま顔を近付けて少し乱暴に口付ければ、驚きながらも受け入れられる。少し離れて隙間から必死に息を吸うアゼムに、エメトセルクはゆっくりと溜息をついた。
「お前は乱暴を働かれていたんだぞ」
「その認識がなかったんだってば」
「おかしいだろう」
「だって、君だから」
「私だからじゃない」
「ずっと好きな人に急に求められたら、そりゃあ嬉しいでしょ!!」
また呻く。こいつ、エメトセルクが思うよりもかなりエメトセルクのことを好きらしい。
「私としては、とっくに君の恋人だって思ってたわけだし」
「
……
恋人にしたって、一方的だったろうに」
「
…………
他なんて、知らないし。君が、それが君の愛し方だって、教え込んだんだからね」
アゼムがゆっくりと目を閉じる。少し開いた唇に噛みついて、誘われるがままに舌を絡ませれば、アゼムの腕が持ち上がってエメトセルクの後頭部に回った。
「ハーデス」
触れ合う唇の隙間でアゼムが囁く。
「今は、私はちゃんと君の恋人?」
「
…………
ああ」
「じゃあ」
嬉しそうに唇が弛むのがよくわかった。
「恋人に、君はどんなふうに触れてくれるの」
お願い、ハーデス。甘く響いた声にエメトセルクは一度目を閉じる。そうして開かれた瞳は爛々と光っていることが、アゼムの瞳に映り込む己の顔ですよく分かった。ローブの裾から入り込む腕を、首筋に這う唇を。アゼムは笑って、受け入れる。咎めるものは何一つもない。だって二人は、恋人なのだから。
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