いく太
2025-12-26 11:08:31
2105文字
Public
 

当店のクリスマスフェアは期間を延長しております

dkmn 颯エーSS。ホリナイイベやクリスマスキャンペーン頃の時系列です。

 十二月二十六日。
 サンタクロース人形の佇むビルと正月飾りを掲げた商店が隣り合って並ぶ風景を横目に、颯は足早に仮面カフェへと向かっていた。
 昨晩までの賑わいから一転、祝祭の余韻だけを残した昼の街はやけに寂寥感が際立つ。
「楽しい時間はあっという間、だね」
 小さな感傷を一つだけ呟いて風に乗せ、先のことに思考を切り替える。今は頭の中に山ほどあるエージェントに話したいトピックの整理が最優先事項だ。イヴの一件の報告からウィズダム珍事件エピソードに年末年始の楽しい予定、何から話そうかと頭を回しているうちに目的地へ辿り着き、見慣れた扉を開いた。
 カラン、と軽快なベルの音。

……あれ?」
 眼前に広がるそこは、クリスマスだった。

 サンタクロース柄の靴下やプレゼントボックスを模した装飾に、客から大小様々なオーナメントを好き勝手に飾り付けられやや異様な風体となったクリスマスツリー。限定メニューの掲示もそのままだ。そういえばさっき開いた扉にもこのひと月ほどですっかり目に馴染んだリースが残っていたな、と遅れて気付く。
「颯さん、いらっしゃいませ!」
「やっほーエージェントさん!ねえ今日ってもう二十六日だよね?なんで仮面カフェはまだクリスマスなの?」
 挨拶もそこそこに率直に疑問をぶつけると、エージェントは柔らかく笑って口を開いた。どうやらうっかり可愛らしい日付間違いをしてしまった、というわけではないらしい。
「レオンと相談して今年はクリスマスフェア期間を二十七日までにしたんです。当日にどうしても都合がつかなかったりシーズン中はお仕事が忙しいお客さんもゆっくりとクリスマスを楽しめる時間が作れたらいいなと思って」
「なるほどね~!確かに飲食店なんかは一番の書き入れ時で自分が楽しむどころじゃないって人は多そうだもんね」
「颯さんはお忙しい中でもクリスマスを満喫されてそうですけど……
 自らの職がこの指折りの季節イベントとはまるで無関係であるかのような颯の発言と行動実績にエージェントが苦笑交じりの言葉を返してくる。
 話す合間に店内をちらりと眺めてみれば席の埋まり具合は上々で、この施策は好評を博している様子だった。

「僕、クリスマス終わっちゃって寂しいな~って思ってたところだったから、まだクリスマスができるなんてなんか得した気分になっちゃった」
「喜んでもらえて良かったです。遅めのクリスマスパーティーと忘年会をまとめてやりたいなんてご相談も頂いたりして、思ったより需要があるみたいですね」
「へえ~、来年はうちの店でもできないか宗雲に聞いてみようかな」
「ウィズダムだとイベント当日の特別感を大事にするお客さんが多そうですから、ちょっと難しいかもしれませんね
 そんなことをつらつらとお喋りしながら、颯はふと疑問を口にする。
「でもさ、エージェントさんたちはずっと働いてて結局クリスマスを楽しむ側になれてないんじゃない?パーティーとかできた?」
「ええと、財閥関係のものに出席はいくつか……
 それは仕事じゃん。回答の歯切れの悪さからも楽しむことがメインの場ではなかっただろうことが伺えた。
……でもほら、颯さんと一緒にデパートのクリスマスフェアに行ったのは楽しかったですし、その後に仮面カフェでパーティーみたいになったじゃないですか」
「あれはほとんど買い出しでしょ!それに『パーティーみたい』とパーティーはやっぱり違うよ〜」
 クリスマスシーズン中は数多のパーティーを駆け回った颯も、エージェントとはその機会が設けられなかったことが若干の心残りであった。加えてエージェントがあまりにもささやかすぎる楽しみ方で満足しようとしているのを目の当たりにして、颯の中にこのままクリスマスを終わらせてなるものかという何か使命感めいた気持ちが芽生えてくる。
「じゃあさ、クリスマスもう一日延長しない?僕と一緒にちゃんとパーティーしよう!」
「ええ?!さすがにこれ以上フェアを延長するのは難しいかと……
「仮面カフェじゃなくて、君のクリスマスをだよ!」
 店のクリスマスが延ばせるなら個人のクリスマスだって延ばしたっていいでしょ、と屁理屈を捏ねに捏ねて、最後にはお願い!と手を合わせるポーズをとれば。
「ふふ、わかりました。いいですよ。他所のお店じゃこれからクリスマスパーティーは難しそうですから、うちのVIPルームの予約を入れておきますね」
「やった!エージェントさんの予定も朝から僕の出勤時間まで全部予約だよ!当日はバッチリ楽しませちゃうから覚悟しててね!!」
「えっと、時間、長くないですか……?」
 想定以上の長丁場を言い渡されたエージェントの顔に困惑が滲んでいるのが見て取れたが颯は気にしない。
 パーティーは長ければ長いほど良いに決まってる。楽しい時間はあっという間なんだから。

 かくして、世間からは随分と遅れて開催されたクリスマスパーティー。
 その場に何故か正月用のおみくじが持ち込まれエージェントが首を傾げることになるのは、また別のお話。


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