アサヒ
2025-12-26 03:46:34
1383文字
Public 忍たま(鉢雷)
 

お題『ぽかぽか』

鉢雷ワンライ(#8828_1draw )に2025/11/28に投稿したもの。
(Web向けに改行だけ追加しています)

どこかから吹き込んできた風に、ぶるりと身を震わせた。
この時期日が落ちてくると、図書室の空気はしんと冷え込む。
なんたって、図書室といえば火気厳禁だからね。
とはいえ寒いからといって当番が休みになることはないのだから、僕はこうして机に座って本の頁をめくっているというわけだ。
本の整理やら何やらで体を動かしているうちはまだいいけれど、一仕事終えて机の前にじっと座っていると、いくら日頃鍛えているとはいえ堪えるものがある。
あらゆる場所からじわじわと体温が奪われていくような心地だ。

……寒いなぁ」

誰もいないのをいいことに、ぼそっと呟く。
途端、「心得た!」という声と共に、物理的な質量が背中にのしかかってきた。

「うわ、三郎?」
「やあ雷蔵、委員会活動お疲れ様」

朗らかな声と共に、首の横からにゅっと腕が伸びてくる。
続いてとん、と頭に顎を乗せられて、三郎に背中からすっぽり包まれたような形になった。
触れている部分から、冷えた体にじわりと熱が伝わってくる。温かい。
温かいのは助かるけれども……こう、ぎゅっと抱えられているものだから、ちょっと動きにくい。

「ねえ三郎、お前の気持ちは嬉しいけど、これだと本が読みづらいよ」
「大丈夫、問題ないさ」

いやいや、問題あるんだけどなぁ。
そうは言っても離してくれる様子がないものだから、仕方なくそのままページをめくるために腕を動かす。
――と、僕の動きにぴったりと沿って三郎の腕が付いてきた。
腕を伸ばしても縮めても、密着したまま寄り添ってくる。
試しに何もない中空に向けて唐突に手を振ってみたら、それにすら瞬時に合わせてきた。
えっ、すごい。どんな技術だ。
驚愕しながら頭上を仰ぎ見る。やたらと自慢げな三郎と目が合って、無言で顔を戻した。

「えっ、どうして何も言ってくれないんだ?」
「うーん……すごいなぁと思ったんだけど、冷静に考えたらやっぱりちょっと怖いかなって」
「酷いよ雷蔵!?日頃から君の筋肉の動き一つ一つを事細かに観察してきた成果を、今ここで完璧に発揮しているだけなんだが……!?」
「そうだなぁ、そういうところかな。あと、図書館では静かにね」
「雷蔵……

背中に引っ付いたまましくしくと鳴き真似をする三郎の頭に、空いた手を伸ばす。
よしよしと撫でてやると、僅かな重みが加わると共に、首元にふかふかした髪束が流れてきた。
冷えた空間に明るい色味が加わっただけで、ほっとその場が温まったような気がする。
僕も同じ色を持っているはずなんだけど、僕の目には見えないからなぁ。
三郎の目には、僕のこともこんな風に温かそうに見えているんだろうか。
もしそうだったらなんだか嬉しい、かもしれない。

「ごめんよ、僕が悪かった。機嫌を直してくれるかい」
……今日はもう雷蔵から離れてやらないから」
「うーん、まあ、お前がそうしたいならいいよ」
「風呂場でも、寝る時でも離れないからな」
「ええ?それは流石にどうなんだろう……
「男に二言はないぞ、雷蔵!そうだ、食堂でも私が食べさせてあげるし、あとは……

あっさりとご機嫌に戻った三郎が、うきうきした声であれもしたいこれもしたいと言い募る。
その様子が可愛く見えてしまったたものだから、すっかり温まった背中を後ろに預けて、ふは、と笑った。