さゆき
2025-12-25 23:57:55
8621文字
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例えばこんな聖夜も

メリークリスマス(ギリギリすぎる)な🦚🌟です。
いろいろ捏造なところがあるのでご注意ください。そんなこともあったらいいな、くらいの妄想設定があります。

「皆でいつもみたいにパーティするのも良いけれど……せっかくのクリスマスなんだから、二人で過ごしたらどう?恋人同士で過ごすのも、クリスマスの楽しみでしょう?」
「え」
 開拓歴12月24日。毎年星穹列車ではこの日にクリスマスパーティをしているから、今年も当然パーティに参加する気満々だった。
 仕事の都合で来られない人や短い時間しかいられない人も勿論いるけど、皆時間を見つけて会いに来てくれる。そんな皆に会えるのが嬉しい。
 だから、姫子から「今年はアベンチュリンさんと過ごすのよね?」と言われて正直なところ、驚いてしまった。クリスマスって、皆で過ごす日じゃないの?
 困って視線を泳がせると、丹恒となのは呆れ顔。ヨウおじちゃんが「姫子、それは早いんじゃ……」と言いかけたところで姫子が「ヴェルト」とにっこり笑った。笑ったけど、目が笑ってない気がする……
 微妙な空気になってきた車内。でもアベンチュリンはいつもと変わらない調子で「いいんだよ、星ちゃん」と綺麗にウインクした。
「姫子さん、僕は構わないよ。星ちゃんもクリスマスパーティ、楽しみにしてただろう?」
「それは……うん。あんまり会えてない友達にも会えるし」
「そうだよね。僕は恋人だから、君と過ごせる時間は他のお友達より多いだろうし……この日は毎年皆で楽しく過ごしてきたんだ、無理に束縛するつもりはないよ」
 アベンチュリンの言葉は優しい。その優しさについ頷いてしまう寸前で、「でも」となのの心配そうな声が届いた。
「二人が恋人になって初めてのクリスマスだよね?それって、やっぱり大事にした方がいいんじゃないの?」
「そうなの?」
「そうだよ!」
「落ちつけ、三月」
 妙に気合が入っているなのを嗜めた丹恒は、真剣な顔で私とアベンチュリンを見た。
「アベンチュリンさんが星の希望を尊重してくれているのは理解できるが……特別な相手と共に過ごす時間というのも、大事にすべきだと思う」
「そうそう!それに、パーティはイブじゃなくて25日にすればいいよ!だから、クリスマスイブは二人で過ごすこと!」
 分かった!?と強く念押しされ、その勢いと場の空気に私とアベンチュリンは二人でこくりと頷くしかなかった。
 今年の24日は二人で過ごして、25日は列車でパーティ。改めて考えると、2日間もクリスマスを楽しめて最高かもしれない。
「何しよっか、アベンチュリン。クリスマスって恋人同士だとどう過ごすんだろうね」
「うーん……僕も恋人とクリスマスを過ごすのは初めてなんだ。ちょっとリサーチしてみるよ」
「私も調べとく。あ、それなら二人で調べて、当日お互いにやりたいこと1個ずつしようよ。楽しそうじゃない?」
 私の提案に、アベンチュリンは「いいね、面白そうだ」と目を輝かせて、でもすぐに「NGは先に決めておこう」と目を伏せた。
「野球とゴミ漁りは無しだ。それ以外で頼むよ」
「流石にクリスマスにそれはしない……多分」
「多分かぁ」

……ねえ、ウチ、めちゃくちゃ不安になってきたんだけど。あの二人大丈夫かな?」
「俺に聞かないでくれ」
「フフ、きっとなんとかなるわ。恋人同士ならどんな思い出でも素敵なものになるはずよ」
……せめて門限だけでも……ウッ」
「ヴェルト。星ももう大人なのよ。過保護すぎるのは良くないわ」
「良い拳が入ったな……

***

 そして迎えたクリスマスイブ当日。
「これは……すごいね」
「まさか、こんなに人がいるなんて……
 『クリスマスはデートをして、一緒にイルミネーションやクリスマスマーケットを見たりして、最後はお泊まり会をするらしい』という情報から私の希望でクリスマスマーケットに来たんだけど、入り口で途方に暮れていた。
 見渡す限り人、人、人。マーケット自体はイルミネーションで飾られていて可愛いし、良い匂いもしてて魅力的だけど、とにかく人が多い。
 さっきから降り出した雪のせいで傘を差している人も多いから、より混雑しているように見えた。
「こんなに天気悪いのに、皆よく集まってるね……
「アハハ、まあそれは僕たちもだけどね。寒くないかい?ホットワインが欲しいところだけど、買うまでに冷えて風邪を引いたら本末転倒だな……
「うーん……マーケット自体の雰囲気は分かったから、天気が良い年にまた来ようよ。アベンチュリンは何をしたい?今ならこの銀河打者が何でも聞いてあげるよ」
 お互いに案を出し合ってクリスマスを過ごすと決めていたんだから、今度はアベンチュリンの希望を聞く番だ。
 そう意気込む私に、アベンチュリンは少し困ったような表情でこう言った。
「実は、そんなに大したことは思いつかなかったんだ。君から誘われて列車のパーティに行くまでは、ずっと仕事しかしてなかったし」
「大したことじゃなくて良いから。何する?」
……良いのかい?」
「くどい。銀河打者に二言はないよ」
 そう断言して、じっとアベンチュリンを見つめる。やがて降参するように両手を上げたアベンチュリンは、小さくこう呟いた。
……家で、一緒に料理を作ってみたいんだ」
「何それ……
「やっぱり、変かな?」
「すっごく良いじゃん!楽しそう!」
 キッチンはパムの聖域だから、滅多なことがないと入れてもらえない。当番でパムの手伝いをする時か、お腹が空いてこっそり夜食を作る時くらい。
「クリスマスは料理を作って一緒に食べたりする家庭も多いみたいなんだ。僕たちは不慣れだから、ある程度は出来合いにして、作れそうなものだけやってみようか」
「分かった。じゃあ、とりあえず買い出しだね」
 クリスマスマーケットから、スーパーマーケットに移動。普段料理をするイメージが全然ないアベンチュリンがスーパーでカートを押している姿はレアすぎる……と後ろ姿を眺めていると、買い物に来ていた周りのおばちゃん達がざわざわしていた。まあ、確かに色々目立つよね。
「クリスマスパーティだと、ターキーやケーキ、サラダ、グラタン、パイシチュー……色んなものが出ていたよね。作れそうなものはあるかな」
「パイを乗せない普通のシチューなら作ったことあるよ。サラダはパックの買えばいっか。あ、生ハム食べたいー」
「はいはい、仰せのままに。ケーキは……違うところで買うかい?」
「お肉もちゃんとしたのが良い」
「了解。シチューの具材は?」
「えっと……
 アベンチュリンは手際良くカートに材料を入れて、ついでにワインやチーズを乗せて行く。
「お酒飲んで良いの!?」
「ちょっとだけね。君、すぐ酔っぱらうから」
「むう……
 スーパーマーケットだからレストランより安いと思っていたんだけれど、会計の値段を見て目を見張ってしまった。ここ、パムが「いつかここの材料でパムパムパイを作れたらいいのう……」って言ってた、高級スーパーってやつだ。
 つまり、材料も高品質かつ高級食材。リクエストした生ハムも各地域食べ比べセットとかいう一番お高いセットだったし、パックサラダすら無農薬有機栽培なんとか……とにかく、良さそうなやつ。
……上手く作れるかな……
 急に不安になってきた私に、アベンチュリンは「大丈夫だよ」と笑う。
「作ったことがあるんだろう?なら、同じように作れば問題ないさ」
「そうかな……
 固形ルーもプロ仕様とか書いてあるし、牛乳もいつものより高そうなパックに入っている。
 これで作ったシチューを食べたら、いつものシチューに戻れなくなりそうでちょっと怖い。
「じゃあ、後はケーキとお肉だね。当日でも買えるところがあると良いんだけど……まあ、大丈夫か。僕だし」
「今ほどその言葉が頼もしいと思ったことないよ、アベンチュリン」

***

「どうぞ、上がって」
「おじゃましまーす、ゴミ箱漁って良い?」
「アハハ!残念だけど、今日回収日だったからないよ」
「えー……
「本気でガッカリしないでくれないかい?」
 電気を点けて、とアベンチュリンが声をかけるとすぐに部屋が明るくなった。広い家の中はどの部屋も一定の温度に保たれているし、流石カンパニーの高級幹部が暮らす場所だなぁと感心する。
「ケーキもターキーもちょうど良いのがあって良かったね、星ちゃん」
「ちょうど良すぎて怖いくらいだよ。急なキャンセルがあって店員さんが困ってた、一番高いホールケーキが買えたり……
「お店の発注ミスで捌ききれていない大量のターキーを発見できたりね」
 アベンチュリンはラッキーだなあ、なんて笑っているけど、本当にラッキーなのはお店の人かもしれない。
 高級ケーキの処遇に困っていたケーキ屋さんは突然の来客が購入してくれて大助かりだったみたいだし、ターキーの方はアベンチュリンがSNSで拡散したらすぐに完売したらしい。
 別にアベンチュリンが焼いたわけじゃないのに、「食べたら幸運にあやかれる」と話題になっているとかなんとか。会心率が上がりそうってこと?
「星ちゃん、早速作ろうか。ケーキは冷蔵庫に入れておくとして……どうしたらいい?」
「あんたはまず、手を洗ってから部屋着にでも着替えて、買ってきたエプロンつけて。その高級そうな服を汚したくないでしょ?」
「そうだ、エプロン買ったんだった」
 普段料理をしないから、アベンチュリンは当然エプロンなんて持っていなかった。私も料理する予定じゃなかったので、お揃いで用意してある。
 彼が支度をしているうちに私も用意を済ませて、髪を後ろに束ねる。ポニーテールにし終わったところで、エプロン姿のアベンチュリンが部屋に戻ってきた。
……何か言ってくれないかい」
「レアすぎて声が出なかった」
「自分でもそう思うよ」
 ちょっとラフなシャツとパンツに深緑のエプロン。お洒落なカフェの店員さんみたいなスタイルだ。コーヒーとか淹れそう。
「ま、でも似合ってるよ。格好いい」
「星ちゃんも似合ってる。髪、上げてるの珍しいね」
「料理するとき邪魔だから。それじゃ、総監お手製のシチューを作って運気上げちゃおうか」
 軽く冗談を言ってイモと包丁を手渡すと、アベンチュリンは可笑しそうに吹き出す。
「あのターキーと違って本当にお手製だからね、効果あるかも」
「でしょ?あんた、ワゴン販売とかしたら良い商売になるかもよ」
「それで長蛇の列になるのは御免だなぁ」
 アベンチュリンは泥を洗い落としたイモを持って、器用に皮を剥いていく。料理はしないって言ってた割に、慣れた手付きだ。
 そう思っていたのが伝わったのか、作業の手は止めずにぽつりと一言。
……昔、ちょっとだけやったことがあるんだ。手先は器用な方だったから。覚えているものだね」
「そうなんだ」
 それ以上アベンチュリンは何も話さなかったから、私も何も聞かなかった。しばらく二人で黙々と下ごしらえをしていくと、不意に視線を感じたので目だけ動かす。
 アベンチュリンはどこか懐かしむような目で私を見ていた。
……どうしたの?」
「いや、こうしていると何だか夫婦みたいだなあと思って。お揃いのエプロンで一緒に料理をしているなんてさ」
……急に恥ずかしいこと言わないで、手元が狂う」
「ごめんごめん、続けようか。ああ、そうだ……星ちゃん」
 今日はありがとう。我儘を聞いてくれて。
 その声がすごく優しくて、思わず手に持ったニンジンを手放してしまった。ウサギのように跳ねて転がっていくニンジンをアベンチュリンがギリギリでキャッチする。
「おっと。元気の良いニンジンだね」
……今日だけなの?」
「え?」
「アベンチュリンがやりたいなら、また一緒に料理してもいいよ。せっかくエプロンも買ったし」
……良いの?」
「私もまだ料理は初心者だし。お互い伸びしろがあるでしょ」
 今日のメニューは本当に簡単なもの。でも、二人でやるならもっと凝ったものにだって挑戦出来る気がする。失敗しても、二人でなら笑い話に出来そうだし。
 良いアイデアかも、と納得してアベンチュリンの方を見ると、珍しく手で顔を覆ってそっぽを向いていた。
……どうかしたの?」
「いや、何と言うか……胸が一杯になっちゃって……
「え、大丈夫?結構沢山切っちゃったから、たっぷり出来そうだけど……食べられそう?」
「大丈夫、すぐ落ち着くと思う。後は材料を炒めて、煮込むんだよね」
「そうだよ。焦がさないように気をつけよ」
 アベンチュリンのキッチン道具は、どれも新品同様にピカピカだ。もっとも、自分で使う用というよりはシェフを呼んで調理してもらうために用意されているとか。アベンチュリンは呼んだことがないけど、食にうるさい同僚はよく使っているらしい。
「住む世界が違う……
「クリーンサービスの人が定期的に手入れしてくれてて助かったよ。久しぶりに見たら錆びてた、なんて笑えないからね」
「いや、それも十分世界が違うから。列車はパムが全部その辺りやってくれてるけど……大変だろうな」
「今度、カンパニー製のキッチン用品を車掌さんに差し入れしようか?」
「パムにはパムのこだわりがあるみたいだから、興味あるかだけ聞いとくよ」
 吹きこぼれないように様子を見ながら、のんびりとおしゃべりをする。
 クリスマスじゃなくても出来ることだけど、このキッチンに立ちながらこうして二人で過ごす時間は、なんだか特別っぽい。なのや丹恒、姫子が言っていたのは正しかったな、とアベンチュリンを見ていて思う。
「星ちゃん、どうかしたかい?」
「ううん、なんでも」
 ……こんなに穏やかな表情は、きっとここでしか見られないだろうから。

「美味しい!」
「うん、美味しいね。ニンジンの大きさがまちまちなのはご愛嬌だ」
「アベンチュリンが切ったイモ、もうすぐ溶けちゃいそうなほど小ちゃいんだけど。煮込みすぎた?」
「うーん、生煮えよりはよく煮た方がいいかなと思ったんだけど。加減が難しいね」
 初めて二人で作ったシチューは、改善点を上げたらキリがないけど、味はばっちり美味しく出来た。一緒に買ってきたバゲットをつけて食べると、より美味しく感じる。
「こんなに温かい食事は久しぶりだな。いつも適当に済ませちゃってたし、会食は味なんてしないし」
「そうなんだ。じゃあ、次も何かあったかいもの作ろうよ。牛もつのラー油煮とかどう?」
「それ、初心者にも作れそうかい?」
 アベンチュリンはサングリアのグラスを傾けながら笑った。もっと普通のお酒を飲むのかなと思っていたんだけど、私に合わせて甘くて飲みやすい、軽めのものを用意してくれた。
 フルーツがたっぷり入っていて、ジュースも入っているからすごく美味しい。そう思ってお代わりしようとしたら、止められてしまった。
「星ちゃんは1杯だけ。ノンアルコールのサングリアも作れるから、そっちにしよう」
「え〜、ぜーんぜん酔ってないからだいじょーぶだよぉ」
「うん、結構怪しいからダーメ」
 おかしいなぁ、半分くらいジュースなんだけどなぁ……と言いながら、アベンチュリンはキッチンへ飲み物を取りに行く。
 その間、ワインクーラーに入ったサングリアのデカンタは監視の目から逃れるわけで……
……いただきまーす」
 半分くらいジュースならそれはもうジュースだよね!と並々注いだグラスを、一気にあおった。

***

「星ちゃーん……やられた……まさか一気飲みするなんて……
 葡萄ジュースのボトルを手に戻ってきた時には、星ちゃんはリビングのカーペットの上で寝転がって、ご機嫌な状態になっていた。
 これ、どこかで見たぞ……泥酔したアライグマが床で寝転がっているのを発見された、みたいなニュースがあったような……
「まあ、ほぼジュースだから二日酔いにはならないだろうけど。場酔いしたのかな……
 起きて、と肩をトントン叩く。振り返った星ちゃんはほのかに赤い顔をしていて、僕の姿を見るやいなやぎゅっと抱きついてきた。
 こんなに素直に甘えるなんて、と驚いていると、ぐずるようにハグを催促してくる。
「あべんちゅりんもぎゅってして〜」
「やあ、星ちゃん……随分ご機嫌だねえ。僕はお代わりダメだって言ったと思うんだけどな?」
「おいしーの、ひとりじめもダメっ!」
「うーん、立派な酔っ払いだな……
 お酒には弱いと知っているから、注意していたのに。次から飲ませる分だけ用意するとしよう。
「ねえねえ、ぎゅってして……
「そんなにねだらなくても大丈夫だよ。ちゃんとするから」
 とりあえず、彼女の催促通りにハグをする。背中に手を回してあやすように撫でると、満足そうにふふふ、と笑った。
 普段もこれくらい素直に甘えてくれたら嬉しい。けど、素直じゃない彼女だからこそ本心を言ってくれた時の悦びも大きい。どっちも捨て難いな、なんて考えていると腕の中の彼女がむずがる気配がした。
「どうかしたのかい?」
「ねぇ……する、よね?」
「ん?」
「こいびとはね、くりすますにおとまりして……、えっちなこと、するってかいてあった」
 誰だ。星ちゃんが調べそうな範囲にそんな情報を置いたのは。即刻消さなければ。
 冷え切った頭をひとまず解凍し、努めて穏やかに星ちゃんに語りかける。
……必ずしなきゃいけないってわけじゃないんだよ。明日も楽しい予定がある。無理をしてそれが台無しになったら嫌だろう?」
「でも、あべんちゅりんは、したいんじゃないの……?」
「それは……
 それはまあ、したいけど。初めて出来た恋人の全てを知りたいという気持ちは山々だけれども。
「したい。けど、今日はしないよ」
「どうして……
「君、ずっと緊張してただろう?このことを意識してたんだね……でも、こういうことは無理にするものじゃないんだ。お互いにしたいって気持ちになって初めてすることだと思う」
 緊張していたから、料理している時もずっとそわそわしていたし、弾みをつけるつもりでお酒を多く飲んでしまったんだろう。かなり無理をしている。
「そんなにすぐ、慌てて大人にならなくてもいいんだよ。それに、君と二人きりで過ごす初めてのクリスマスなんだ。楽しい思い出だけで充分だよ」
「でも、しなきゃ、はなれちゃうって……からだがはなれると、こころもはなれちゃうんでしょ……
 本当に有害な情報源だ。デタラメにも程がある。後で調べて確実に潰そう。
 そんな煮えたぎる怒りはひとまず冷まして、星ちゃんの頭を撫でる。彼女は人よりも「別離」に対しての不安が強いみたいだった。ピノコニーでの盛大な「死」の時も、仕事で離れなきゃいけなかった時も、彼女は離れることをひどく不安がったのを思い出す。
「離れないよ。仕事でなかなか会えない時も、離れていかなかっただろう?」
……でも」
「そんなに不安なら、今日は一緒に寝よう。ああ、でもそういうことはしないよ。一緒にベッドで横になって、眠るだけ。それだけでも十分幸せだし、離れずに済むだろう?」
 ね、と彼女の顔を覗き込む。星ちゃんはまだ不安そうにしていたけれど、僕が本当にそういうことをしないつもりだと感じたのか、少し力を抜いて僕にもたれかかった。
……いやじゃ、ないの」
「うん」
「したこと、ないから……こわいの」
「うん」
「まんぞく、させられないかもしれないのが……こわい」
「僕が満足するまでしたら、きっと壊れちゃうよ。そんなに頑張らないで」
「そう、なの……?」
「好きな子としたこと、ないんだ。だから、僕もどうなるか分からない。加減出来なかったら、って僕も心配なんだ」
「なんだ……しんぱいなの、いっしょだったん……だね……
 微睡む星ちゃんの瞳が、段々と落ちていく。今日はこのままゆっくり眠りに落ちて。また明日、目が覚めてからちゃんと話し合おう。
「そうだよ。だから、今日はおやすみ。ありがとう、勇気を出してくれて」
「ん……
 背中をぽんぽんと撫でていると、次第に規則正しい寝息が聞こえてきた。無事に眠りについた星ちゃんを抱えて、ベッドルームへ移動する。
「片付けは……明日でいいか。朝はケーキがあるし、注文はしなくていいかな……
 星ちゃん、酔っている間のことは覚えているんだろうか。覚えていたら明日の朝、真っ赤になって話してくれなくなりそうだけど。
「あべんちゅりん……
「ん?」
「すき……
……僕も好きだよ」
 二人きりで一緒に過ごして、昔家族でしたみたいに料理が出来て、夜は隣にいてくれる。
 それだけで僕がどれだけ幸福なのか、君はきっと知らないだろう。好き、なんかじゃ全然伝えきれない程、君のことを想っているということも。
「愛してる」
 こうして素直に愛を言葉に出来るのも、聖夜の奇跡の一つなのかもしれない。朝になったらきっと、こんな風には言えないだろうから。
「いつか、何でもない時にもそう言えたらいいな……
 小さく呟いて、部屋の明かりを落とす。
 隣に確かな温もりを感じながら、僕も彼女と同じようにゆっくり瞼を閉じた。