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花人
2025-12-25 22:52:54
4196文字
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零英
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零英 トワイライト・クリスマス
二人きりでクリスマスツリーを見に行く零英の話。
「もう終わってしまうんじゃな」
隣にいる零が、白い息を口からはぁ、と吐きながらそうポツリとつぶやいた。
「あっという間じゃったのう」
零と英智は、寒空の下、二人で並んでクリスマスツリーを見上げている。細かな装飾がふんだんにされたクリスマスツリーは、この後ムードもなく片付けられ、明日の朝には普通に佇む単なる一本の木になっているのだろう。
そう思うと、どこか侘しい。
クリスマスといえば、アイドルにとっても掻き入れ時だ。ここからこれまた掻き入れ時の年末年始のライブに向かって、急ピッチで準備をしなくてはならない。
立ち止まっている暇はない。
が。クリスマスライブを終えて星奏館に帰ろうとした時、零からツリーだけでも見に行かないか、と電話があった。
fineではクリスマスプレゼントの交換会を楽屋でやったが、それ以外クリスマスらしいことは何もしていない。だが、アイドルという生き方をしている都合上、それも仕方ない事だと思っていたのだが。
英智はその零からの誘いを、何となく無碍にできなかった。
零から誘われた時。てっきり藍良も一緒なのだと思っていた。いくら同室とはいえ、藍良がきてからは零と二人きりになることなんてほとんどなかったからだ。だから呼ばれた場所に着いた時、そこに零しかいなかったことに驚いた。
「天祥院くん、こっちじゃ」とひらひらと手を振りながら声をかけてくる零を、内心訝しく思った。
一体何を企んでいるのやら。
この年齢だ。もうクリスマスを喜ぶような歳でもない。今更ツリーなんか見て、一体何になるというのだろうか。明日も朝早いのに。なんてことを考えながらツリーを見上げる零の横に並んで、英智はツリーを見上げた。
クリスマスツリーは、思っていたよりもキラキラと輝いて見えた。
一つひとつは小さな飾り。だが、それらがライトに照らされ、懸命に輝いて一つのクリスマスツリーという作品を完成させている様は、どこか星のようで、どことなくアイドルにも似ている、と思った。
綺麗だ。素直にそう思った。
「綺麗じゃろう? ここ、何気に穴場なんじゃよ。特に12月25日の夜は。ほれ、人っ子一人おらぬ」
英智がツリーに魅了されているのに気づいたのか、零は一度周りを見回すと得意げにそう言った。
「クリスマスなんて、実際の本番はイブである24日の夜、みたいなところがあるからのう。せっかくこんなに綺麗に飾りつけられておるというのに、明日にはもう片付けられてしまうんじゃから、寂しいものじゃよな」
「まぁね。けれど、それがクリスマスツリーというものだろう。
……
むしろ、そうしてやがて無くなってしまう儚さこそが、このツリーの美しさを強調しているとも言えるんじゃないかな」
「
…………
うむ。永遠ではないからこそ、ということじゃな。だからこそ、今日おぬしにこれを見せたかったんじゃよ。サンタが帰り、クリスマスも終わりに近づく、誰にも邪魔されないこの夜に。ほかでもないおぬしに」
ツリーの光に包まれた明るい夜闇で、紅い瞳がじっとこちらを見つめてくる。
英智は首を傾げた。
「
…………
ええっと。よく意味がわからないのだけれど」
「
……
本当かえ? 我輩、今結構ロマンチックなことしておると思うんじゃけど」
「ロマンチック? 何でそんなことする必要があるんだい」
英智の言葉を聞いた零は、はぁ、と眉を顰めて溜息をついた。
「
…………
そうじゃよな。おぬしにはこんなものでは伝わらぬよな」
今までもそうじゃったし、と零がぼそっと呟く。
それに「今まで?」と返すと、零は手を振って口を開いた。
「分かっておる分かっておる。おぬしがいかに鈍感かは、この二年でよ〜く分かった。
…………
じゃから、ちゃんと伝える」
「鈍感って
…………
」
「天祥院くん」
頭にクエスチョンマークを浮かべる英智の方を向き直ると、零は真剣な表情で英智の名を呼んだ。
そんな零の雰囲気にのまれるように、英智も何となく口をつぐむ。
柔らかなツリーの光に照らされながら、零は一度口を結ぶと、再び口を開けた。
「我輩は、おぬしのことが好きじゃ。
……
我輩と、付き合ってほしい」
「
……………………
え?」
「
……
我輩と付き合ってくれぬか。我輩の恋人になってほしい」
「いや、言い方の問題ではなくて。どうしてそうなるんだい。君が僕のことを好いている? 嘘だろう。何でそんなことを急に言ってくるのか分からないな」
「急ではないぞい。さっきここは穴場じゃと言ったが、実はあれ、嘘なんじゃ。見に来る者が少ないのは本当じゃが、一応、ツテを使って人払いを済ませておる」
「
…………
それは
……
僕と二人きりになるために、かい?」
「勿論じゃ。二人きりでないと落ち着かぬじゃろ」
「
……………………
やっぱりよく分からないな。何で君はそこまでして
……
」
「それは勿論、おぬしに気持ちを伝えるためじゃ。おぬしもさっき言ったじゃろう。やがて無くなってしまう儚さがその美しさを強調しておる、と。今年はメガスフィアのこともあったし、時代は刻一刻と変化しておる。おぬしといつまで星奏館で共に生活できるか分からぬからの。同室のうちに、想いを伝えておきたかったんじゃ」
「
…………
そう。でも悪いけれど、僕は君の気持ちには応えられないよ」
そう言いながら、何故か心が軋む。口が冷気で乾いて、白い息が出る。
勝手に告白されたというのに、何故こちらが罪悪感を抱かなければならないのか。
ずっと見つめられるのに耐えられなくなってきて、零から目を逸らすと、零は「ふむ」と顎に手をあてた。
「本当にそうかえ?」
「
……
え?」
ふわり。やさしい風が舞う。
「ちょっと
…………
何をしているのかな」
英智が何かを言う前に、英智の身体は零の腕の中にあった。
「温かいじゃろ。ドキドキするかえ?」
「しないよ。離してくれないかな」
「ならば、少しだけ、少しだけで良い。目を閉じてくれんか」
「何をするつもりだい」
「そう警戒しなくても良い。別に変なことはせぬよ。どうか今だけで良い。我輩を信じてくれぬか」
「
……………………
」
零は、その魔王のような見た目とは反して善人だ。
それは英智が一番よく分かっている。
下手なことはしてこない
――
というよりできない
――
はず。
英智はそっと目を閉じた。すると、零は英智の左手をとり、その指にやさしく触れると、手を離した。
「はい。もう開けて良いぞい」
「
……
これは
…………
?」
「零ちゃんサンタからの、クリスマスプレゼントじゃ」
英智の小指に嵌められていたのは、ぴったりのサイズのピンキーリングだった。
零の瞳と同じ色の宝石が埋め込まれているそれは、ツリーの柔らかい光に照らされてやさしく光った。
「おぬしはもう知っておるかもしれぬが、左手のピンキーリングは願いが叶うといわれておる。おぬしの願いが叶いますように、という願かけじゃ。どうか、受け取っておくれ」
「いや。せっかくのプレゼントに水を差すようで悪いけれど、いいよ。僕、君にクリスマスプレゼントなんて用意していないから」
「良い良い。これは我輩の自己満足じゃから」
外して返そうとすると、ぐいぐいと押し返されてしまう。あの朔間零が自分に指輪を、と思うと正直不思議ではあるが、まぁ、貰えるものは貰っても良いかもしれない。
英智がそう思っていると、「それに」と零が言葉を続けた。
「さっき抱きしめさせてくれたじゃろう? おぬしからのプレゼントなんて、それで十分じゃ」
「
…………
そう、なのかい」
自分とのハグでこんなに立派な指輪が釣り合うとは思えない。随分コストパフォーマンスが良い。場違いにそんなことを考えていると、零に再びそっと左手をとられた。
「そうじゃよ。恋とは、愛とは、そういうものじゃ。
……
いずれ、ここに嵌めさせてもらうからの」
零の指が、英智の左手の薬指を撫でる。
その意味は、さすがの英智にも分かった。
英智ははぁ、と溜息をついて零の手を払った。
「嵌めさせてあげる日なんて来ないと思うけれどね。まぁ、そこまで言うのならいいよ。せいぜい僕に尽くしなさい」
「うむ。そうさせてもらうぞい。
……
ところでそれって、我輩と付き合ってくれるってことかえ?」
「調子に乗らないでもらえないかな。付き合わないよ。申し訳ないから指輪だけは貰ってあげるけれど」
「そうかえ。なら良かった。我輩の願いも早速一つ叶ったようじゃ」
「
……
え?」
「これじゃよ」
零は己の左手を掲げた。ツリーの光に照らされたその小指には、同じ色のピンキーリングが嵌められていた。
「早速お揃い、じゃな。この調子でどんどんおぬしを攻略していくから、そのつもりでいておくれ」
「なんだい、それ。なら指輪もいらないよ」
「そう言わんと。おぬしももう気づいておるじゃろうが、それ結構ちゃんとした指輪なんじゃよ? もし捨てられたら、我輩悲しくてこれからずーっとベッドで泣き続けちゃうぞい」
「
……
はぁ。しかたないね。分かったよ。指輪だけは貰ってあげる。けれど、身につけるかは僕が決めるからね」
「それで良い。おぬし左利きじゃし、左手に指輪があると邪魔じゃろうしのう。ちなみに右手に嵌めると
……
」
「チャンスを掴む、だろう?」
「さすが。知っておったかえ」
「まぁね。けれど、こんなの無くたって、僕はチャンスを掴んでみせるし、僕自身の願いを叶えてみせる。だからこれは、本当にただの願かけだからね」
「うむ。それでこそおぬしじゃ。我輩はそんなおぬしが好きじゃよ、天祥院くん。
……
メリークリスマス。良い夢を」
「
…………
メリークリスマス。君も、良い夢を見れたらいいね」
何となく気まずくなってそう返すと、零がおかしそうに笑った。
「そうじゃな。これから帰って同じ場所で寝るというのに、『良い夢を』はまだ早かったわい。天祥院くん。共に帰ろうぞ」
「
…………
まぁ。帰る場所が同じだからね。仕方がないから帰ってあげるよ」
零はそう言いながら先に歩き出した英智に、「素直じゃないのう」と微笑みながら軽く走ってその横に並んで歩き出した。
クリスマスツリーの光が、二人の背中を照らしていた。
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