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紫輝
2025-12-25 22:35:46
4009文字
Public
リとヌと御仔の話
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サン・ニコラの日
リとヌと御仔とこの時期現れるとある妖精さんの話です。あの世界にはない習慣を好き勝手捏造しています。どうしても見たくて!
『サン・ニコラさま
サン・ニコラのひのプレゼントは、おちゃのまちのおちゃとおみずをください。
ぼくのパパはおちゃがすきで、とうさまはおみずがすきです。みんなでのみたいです』
「
…
いかがですか、若様」
託された便箋を差し出して出来栄えを窺うと、幼仔のラベンダーがキラキラと輝く。ぱっとこちらを見上げた幼仔は、それは嬉しそうに満面の笑みでうなずいた。
「ありがとぉ、じい!」
「いえいえ。お役に立ててじいも嬉しいです」
「しゃんたしゃんにおてがみだせる」と、よかった、と胸に小さな手を当てる幼仔の愛らしさに笑み崩れてしまう。“しゃんたしゃん”
――
サン・ニコラは、この国で古くから語り継がれている妖精の名だ。姿形には諸説あるが、『赤い服に白い髭のお爺さん』というのが最もベーシックなスタイルである。冬の深夜、小さな子どものいる家々を周り、眠る彼らの枕元にお菓子を置いて回るその妖精が初めて人々の前に姿を現した日とされているのが『サン・ニコラの日』であり、子ども達は彼の訪問を楽しみにベッドへ入るのだ。ちなみに幼仔はかの妖精の名前を上手く言えず、果敢な挑戦の末生み出されたのが先の“サンタさん”なる呼び名であり、幼仔の両親たる公爵と最高審判官はあまりの愛らしさに手のひらの向こう側でむせび泣いたとかなんとか。
さて。時を経て伝承は姿を変えていき、今現在各家庭にひとり存在するサン・ニコラが子ども達の枕元に置いて回るのは菓子だけではなくなっている。“その日”に向けてサン・ニコラ達は子どもたちから贈り物の希望を聞き出すべくあらゆる手を尽くすのだ。
目の前でアルバートの代筆した『サン・ニコラへの手紙』をにこにこと読み返している幼仔の両親も、そんなサン・ニコラ達の一人であった。この手紙はかの有名な金髪の旅人に託され、サン・ニコラへ届けられるのだと、幼仔は両親から聞かされているそうだ。常であればまだ字の書けない(最近は自身の名の書き方を鋭意習熟中らしい。公爵が自慢げに手習いの用紙を見せてくれた)幼仔のためその希望を代筆するのは両親どちらかの役目であるのだが、今年は自分がその栄誉を賜ることになった。サン・ニコラはいい子にしていた子どもにプレゼントをくれるけれど、パパととうさまもいつも頑張っているから、家族みんなが好きなものを考えた
――
一生懸命そう話してくれた幼仔の純粋さに胸を打たれ、代筆を両親に頼まなかった理由を悟り、ならば若様のため一筆入魂とアルバートは筆ならぬペンをとったのである。
例年通りであれば幼仔の希望は代筆の時点で両親へと伝わるが、さて今年はどうなるだろうか。
件の旅人はこのメロピデ要塞でも名を轟かせる知勇の持ち主だ。彼に任せておけば少なくとも幼仔が悲しむようなことにはなるまい。ふと考えて、そう結論を出して。
「では、若様。サインをお願いします。お手紙に心を込める、大切な作業ですよ」
「
……
ん!」
頼んだぞ、と水の上へ願いを飛ばし、アルバートは辿々しさも可愛らしい筆跡で幼仔の名が綴られていくのを見守るのだった。
◇
サン・ニコラの日、当日。
レヴィが上機嫌でテーブルの上にカップと皿を並べているのを、リオセスリは伴侶と共にやや不安な気持ちで見守っていた。思い起こすのは数日前の空とのやり取りだ。
「はいこれ。レヴィご希望の、『サン・ニコラの日』のプレゼント」
少年から手渡されたそれは璃月の雰囲気を纏っていた。ずっしり、とまではいかないがやや重みがあり、中で液体が揺れるような感覚もある。
「助かるよ。用意まで任せちまって悪かったな」
「気にしないで。用意させてって頼んだのはこっちだし。むしろ任せてくれてありがとう」
今年のレヴィの欲しいものは君たちに用意させるのはちょっと、とぽそり落ちた呟きに、傍らのヌヴィレットが眉を下げる。
「その
…
あまり、一般的な物差しで測ると良くないものだったのだろうか」
私たちにはあの仔の興味関心を受け止める覚悟があり、希望もある。中身を教えてはもらえないだろうか
――
伴侶の問いかけに、少年から返ってきたのは悪戯っぽい笑みだった。
「秘密です。でも、『よくないもの』じゃないよ。それは約束する」
「おりこうさん」のレヴィを信じてあげてよ。信頼する友人にそう言われてしまっては引き下がるより他になかった。それに可愛い我が仔が「おりこうさん」であることを、自分たちは国中の誰よりも知っているという自負もあったので。サン・ニコラの日おめでとう、と空に手を振られ、リオセスリ達は自宅へと戻ってきたのだ。
「とうさま、ミルクね、ここにおく!」
「ここだな。わかった」
レヴィがぽんぽんと叩いた場所にはコースター代わりの折り畳んだナフキンが置いてある。本来サン・ニコラをもてなすためのミルクはカップに注いで置いておくのが伝統だが、「しゃんたしゃんにあったかいミルクのんでもらうの」と張り切るレヴィの優しさに応えるためこの家では保温性能を備えたポットでの提供だ。サーブはセルフだけれども。
「できた!」
ヌヴィレットの手により指定の位置に収まったポットと長いこと悩んでこれと決めた数枚のクッキーを丁寧に皿に並べ終え、それらを満足げに見やったレヴィが快哉を上げる。
「素敵なテーブルになったな」
「ああ。サン・ニコラも大喜び間違いなしだ」
どこから見ても完璧な『サン・ニコラおもてなしセット』をこれからそのもてなしの心を受け取る予定の二人して笑顔で賞賛すれば、レヴィは誇らしげに笑って。
「しゃんたしゃん、はやくこないかなぁ」
そわりと窓の外を見つめ、ふあ、とあくびを一つ。
ぱちんと瞬いて、「ねんね、」と呟いた。きゅうと繋がれた手から伝わる体温は熱いほどで、なるほど「おねむ」の時間らしい。
「頑張って起きてなくていいのかい?」
「ねんねしないとしゃんたしゃんきてくれないから、ねんねする
…
」
「
…
余程楽しみなのだな、今年の贈り物が」
昨年を思い出してかけた問いにふりふりと首を振られ、おへやいく、と手を引かれるのに顔を見合わせつつレヴィと共に寝室へ向かう。一体何を頼んだんだろうと疑問を深めながら、二人のサン・ニコラはすやすやと寝息を立てる愛息子の枕元に贈り物を届けるのだった。
枕元の贈り物。
空になった皿とポット。
目覚めを待っていたそれらに、レヴィはアイオライトを輝かせる。
「パパ、とうさま、しゃんたしゃんきた!!」
贈り物を大事に抱え、おもてなしセットを目にしたレヴィに見上げられて、二人笑顔を浮かべた。
「そうみたいだな」
「レヴィの用意したおもてなしも気に入ってくれたようだ」
よかったな、と撫でる手に息子はくふくふと笑って。
「ぷれじぇんとあける!」
意気込むレヴィに招かれて、息子を挟むようにローテーブルの前へ腰を下ろす。リボンが解かれ、包装紙がぺりぺりと剥がされて。
姿を現した箱の蓋には、見覚えのある筆跡のカードが乗っていた。
『おうちの人と開けるように』。筆跡の主たる人物らしからぬ言い回しに思わず顔を見合わせた二人を見上げ、「おうちのひと、いる!」と小さくうなずいて、レヴィは蓋に手をかける。
納まっていたのは瓶が二本と缶が一つ。見覚えのあるラベルの意匠にリオセスリは思わず唸る。
「
極品
ごくひん
……
」
「こちらは
…
水のようだな」
次いで呟くヌヴィレットの視線は瓶のラベルを撫でている。採水地が書いてあるらしいそれに、彼の気配がそわついていた。
「しゃんたしゃん、ちゃんとぷれじぇんとくれた?」
二人の顔と箱の中身を交互に見ながら首を傾げるレヴィに、思わず吹き出してしまう。確かに例年の開けてすぐそれとわかる
――
図鑑や画材のような
――
プレゼントではない今年の贈り物はまだレヴィには正しく希望したそれか判断が難しいだろう。そもそも若干三、四歳の仔に贈るような品ではない、というのは一旦脇に置いて。
「サン・ニコラに何をお願いしたんだい? レヴィ」
何度聞いても教えてもらえず代筆も断られてしまった願いの中身を改めて問えば、息子は少しばかり不安な面持ちで口を開いた。
「あのね、おちゃのまちのおちゃと、お水。しゃんたしゃん、ぼくにはぷれじぇんとくれるけど、パパととうさまもおりこうさんだから。パパと、とうさまと、ぼくもね、うれしいのにしたの」
「
……
なるほど」
「そういうことか」
その答えを聞いた瞬間全てが繋がる。代筆を断られた理由、手紙の中身を教えてもらえなかった訳、空の「君たちには用意させられない」の意味、例年以上にプレゼントを楽しみにしていた理由まで。
蓋の上のカードを見るに、鍾離も一枚噛んでいるだろう。彼の孫バカ
――
と言うとヌヴィレットが微妙な顔をするので伴侶には秘密の呼称だ
――
が遺憾無く発揮された結果が、『おちゃのまち』・翹英荘産の極品仙茶と、沈玉の谷奥地の名水として出力されたようだ。振り抜きすぎだろ、と家族旅行で訪れた時に見た値札達を思い出しつつ、ちいさな頭をくしゃくしゃと撫でた。
「そうだったのか。ありがとう、レヴィ。嬉しいよ。この缶には、お茶の町のお茶の中でもとてもいいヤツが入ってるんだ。みんなで飲むのが楽しみだよ」
すり、としろい頬を撫でたヌヴィレットがうなずき微笑む。
「こちらの瓶はお茶の町のある土地の、山の奥で汲める水だな。この茶とも相性が良く、そのまま味わっても格別だろう。簡単には手に入らないものだ。ありがとう、レヴィ。とても嬉しい。あとで一緒にいただこう」
こちらがプレゼントを貰ってしまったな、と言葉を尽くせば、レヴィはパパととうさまが喜んでくれたからぼくも嬉しい、みんなでお茶とお水飲むの、と頬を珊瑚の色に染めて笑った。
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