白殊皎(しらよし こう)
2025-12-25 19:50:00
4251文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

星の祭りのその夜に

FGO【歳勇/土近(としいさ/ひじこん)】
初めてのクリスマス……。
なのにそこには暗雲が。

黒剣ちゃんクリスマスです。
いろいろ考えはしたんですが……何をしてもサンタカルナが頭をよぎりまして……。
〝こう〟なりました。
夜なんだから雪崩れ込めよ!! と思われるかもしれませんが、この二人まだ寝てない(性的な方)ので……!!
処女はいけません、長くなります!!
ということでまた何処かで。



 うきうきとカルデア中が浮き足立っている。
 食堂には豪華な食事にケーキ、アルコール有り無しのシャンパン。
 恋人同士や夫婦のサーヴァントもみな幸せそうな顔で身体を寄せ合い、また見つめ合ったりして過ごしている。

──だが……

「今日は一人で過ごす。部屋にも行かないからそのつもりでいろ」
 黒の剣士姿の近藤勇に、はっきりそう言い切られたのは恋人同士になったばかりの土方歳三だった。
 まだ二人の間に性的なものはないが、常日頃からお互いに部屋を行ったり来たりするのは茶飯事で、夜を同じベッドでいろいろと話をしながら過ごすことも珍しくない。
「そうか、わかった」
 土方はなにか機嫌を損ねることをしたかと思いはしたが、本人がそうしたいのなら仕方ないと同意を返した。
………………
 くるりと踵を返して立ち去る近藤の後ろ姿を土方はじっと見つめた。
 何か言いたげな雰囲気ではあるが、それを今聞くのはやめた方がいいような気がする。



「副長、局長ほっといていいんですか?」
 食堂で季節など関係なく沢庵多めの定食をかきこんでいたら、斎藤一がそう声をかけてきた。
 ちなみに近藤は少し離れた場所で手持ち無沙汰そうに七面鳥とケーキをつついている。
「ん?」
「ご覧の通りの季節でしょ? こういうときこそいろいろ教えて楽しむもんじゃないですか? 局長行事とか好きそうだし」
……おまえのが珍しいな。他人のそんなこと、頓着しねぇ思ってたが」
「あ~、でもそりゃ気になりますよ。なんせねぇ」
 頭をぽりぽりと掻きながら斎藤は笑った。
「そうしたいのは山々だが、振られてな」
「えっ!?」
「一人がいいんだと。笑いたきゃ笑え」
「ありゃまぁ……
 フッと鼻の先に自嘲を浮かべた土方に斎藤はそれは大変だ、という顔をした。



 部屋以外にいると、どこか視線を感じた。
 図書館で俳句の本を漁っていた時も、廊下で何の気なしに外を眺めていた時も、子供の姿のサーヴァント達に一人でいるところを見つかって、届かないからとツリーのてっぺんの星を付けさせられていた時も。
 そのままお礼と言われて茶会に引きずり込まれた今も先ほどまで感じていた。
「土方さん、どうなさったの? キョロキョロされて」
 鈴の鳴るような声でナーサリー・ライムが紅茶を差し出す。
「いや、なんでもない」
 どうせ一人だし、子供達が誘ってくるものを無碍にするのもなんだと付き合ってはいる。
 その視線の主が殺気立っていようものならただでは置かないが別に害はなさそうである。
「そう言えば、あの素敵な土方さんのパートナーのお方も、随分この日を楽しみにされていたようなのに、どうされたの?」
「ほぅ。そいつは初耳だ」
「えぇ、えぇ。いままでサンタクロースをなさったサーヴァントの方々にいろいろ聞いたり、熱心に図書館で調べ物をなさったりしていたわ」
 流石にそれは初耳だった。
 まぁ、自分がレイシフトに同行させられている間とか、時間はいくらでもあったのだろうけれど。
「ふ、それがよりによってこの日にフラれたか、いい気味じゃ」
 傍で菓子を頬張っていた茨木童子がケラケラと笑う。
「どうだかな」
「大丈夫よ土方さん。あとで素敵なことがあるような気がするわ」
 ナーサリーはにこにこと笑って、お菓子のおかわりはいかが? と皿に載ったクッキーを差し出した。
「そう願いたいもんだ」



 子供達の茶会から解放されて部屋に戻る。
 部屋の前には──来訪者がいた。
 近藤だ。
 姿は──黒の剣士のまま。
「近藤さん」
 むっつりとしたその表情は、明らかに不満そうである。
「──平気なんだ」
「?」
 ぼそりと呟いた言葉は小声だったので聞き取れなかった。
「俺が、いなくても……おまえは普通に過ごせるんだな」
 そうか、間違えたか。
 その一言だけで土方は理解した。
 今日一番の言葉は本心ではなく裏返しだったことに。
「──!!」
 手を伸ばしたら逃げられそうになったので、しっかりと胴を抱え込んで部屋に連れ込んだ。
「離せっ!!」
「離さねぇよ」
 部屋の中でしばらくの攻防ののち、なんとか近藤を床と畳の段差に座らせることに成功した。
「すまん俺が間違ってた」
 そしてその前に両膝をついて頭を下げる。
──体勢的にはほぼ土下座だ。
「そこまでしろとは言ってない!!」
 近藤は紅の目を見開いて土方の腕を掴む。
「いや、あんたの心を読み違えた。これくらい当然だ」
「──ッ! 俺は……
「本当は、俺と過ごしたいと思ってくれていたんだろう? この祭りを」
………………
 口をへの字に曲げて答えないが、視線がその通りだと物語っている。
「なのに日が近づいても俺が乗り気じゃないもんだから、へそを曲げた。それで合ってるか?」
「へそを曲げたは余計だ……
「言い訳になるかもしれんが、すまん……。ずっと俺はそれを失っていたんだ。〝楽しむ〟という気持ちをな」
「──それ以上は言うな! そこからは俺のせいだ!!」
 近藤は土方の腕を握る力を強めたが、土方は黙らなかった。
「言わせてくれ。あんたが応じてくれたのに、その上、あんたが俺の手を取ってくれたというのに、そのままでいたのは俺だ。本当に、すまん」
「~~~っ!」
「狂戦士とはよく言ったものだ。こんなに周りが見えなくなるとは思ってなかった。だから、機嫌を直してくれ」
「へそなんて……曲げてない……
 近藤は自分も床に膝をつき、土方の胸ぐらを掴む。
「機嫌なんて、悪くない! 俺は今でもおまえと過ごしたい!! だって、おまえをそうしたのは……先に裏切ったのは……俺なんだから……!!」
 紅の瞳に涙をいっぱいに溜めて近藤は叫んだ。
 この男から楽しみの、いやそれ以外も、全てを奪ったのは自分だ。
 あの時、互いに向き合ってきちんと話が出来ていたのなら、共に逃げてくれとか、いっそ一緒に死んでくれと言えていたのなら、また道は変わっていたのかもしれないのに。
 全てこの英霊の身体を得てからの、戯言であったとしても。
「謝るのなら、俺の方だ……! つまらないことでおまえを試そうとして……おまえに、甘えて……
「近藤さん……
 近藤はそのまま土方を抱きしめて涙を零しはじめた。
「すまない、歳……すまない。俺を……ゆるして……
「近藤さん……
 涙が顔にかかっても、土方は動かずにじっとその腕の中にいた。
 確かな腕の力と、鼻先をくすぐる懐かしい匂い。
──それは、姿を変えていようとも何ら変わりはない。
「大丈夫だ、近藤さん。俺はあんたを恨んじゃいねぇ」
 しばらくそのままでいたが、土方はそっと腕を動かして近藤の背に回し、ぽんぽんと軽く叩いた。
「まだいろいろと間に合うぜ。一緒に楽しもうや」
 幸いなことに今日は前夜祭。
 メインの祭りは明日だという。
「そうだな……
 ぐす、と鼻をすすり上げて近藤はやっと微笑んだ。



「肝を冷やしましたね。なんとかなったようでよかった……
 前夜祭的には遅めだったが、食堂でのパーティに二人は間に合った。
 子供サーヴァントにサンタ帽子を被せられた土方や、同じく彼彼女らに前に振り分けられた髪を編み込まれ、クリスマスの飾りをされて照れる近藤の様子を見て、山南はほっと息をついた。
「いや~……ほんと、二人とも意地っ張りというか、頑固というか……
 斎藤もやれやれと言った顔だ。
「まさか事前に局長に『クリスマスとはなんだ?』なんて聞かれるとは思ってなかったから~」
 だから副長が一人で食堂にいた時は心臓飛び出るかと思った、と斎藤は付け加える。
 どうやら近藤は自分より先に現界していた隊士たちに行事の内容を聞いていたようだ。
「斎藤。オマエが妙なこと吹き込まなけりゃ、もっと穏便に済んだんじゃねぇか?」
「え、僕? なんか言ったっけぇ?」
 永倉のジト目に斎藤は目を逸らす。
「言っただろう! 最後の最後に。『恋人同士だと、自分がプレゼント~なんてのもあるらしいですよ』てな!!」
「やだね、しっかり覚えてて。ジェット沖田ちゃんも直視できないくせに」
「うるせー!!」
 どうやら各自知恵を絞ってそれに対応したらしいが、近藤がどれを採用したのか本人の口から聞けないので闇の中である。



「ははは、サンタ帽子似合ったじゃないか、歳」
 子供サーヴァント達は明日の朝のためにとおやすみなさいをしたので、解放された二人も部屋に戻った。
「近藤さんも、なかなかいかしてるぜ」
「子供は可愛くていいな。こんな俺でも構ってくれるとは」
 ちりん、と毛先に飾られた小さなベルを鳴らして目を細める。
「まぁた。それがあんたの悪いところだ」
「すまん」
「いいさ、それも含めて、あんただ」
「ところで、歳……
 編み込まれた飾りと髪をほどきながら近藤は少し言い淀んだ。
「すまんな、あいにくプレゼントは用意できてない」
……そうじゃなくて……おまえへの……なんだが……
「ん?」
おれ、ではだめか?」
「!?」
 頬を染めて毛先をもてあそびながら言う近藤に、土方は理性が吹っ飛ぶかと思った。
…………まってくれ、こんどうさん……
 手のひらで顔を押さえよろり、と足元をフラつかせる。
「歳!?」
「あんた、それがどういう意味だかわかって言ってるのか?」
「わかってなければ、言わない……
 ますます顔を、そして首や普段は隠れた耳の先まで赤くして近藤は呟いた。
「恋人同士なら……この夜は……そうして過ごすことが多い……のだろ?」
 土方は近藤がそれを誰に聞いたかは知らないが、教えた人間には『いい仕事をした!』と大いに褒めたい気分だった。
「そうとも言うらしいな」
 なんとか息を整えて近藤の横に立つ。
 紅の瞳が少しの不安を携えて自分を見た。
「これ以上嬉しい贈り物はないぜ」
 土方はそっと近藤の頤に手を添えて深い口吸いをした。
「歳!」
 ぱぁ、と表情を明るくして近藤は土方に抱きつく。
 それをしっかりと抱き返して、そのままお姫様抱っこをした。
「と、歳!?」
「続きは、ベッドでな」
 にやり、と笑ってみせると、近藤は大人しくなりこくりと頷いた。

 これよりは二人の夜。
 いかなる介入も、無粋なり──。