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悠
2025-12-25 19:32:10
2699文字
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鬼方さんと鬼斎さん-序-
※特殊パロ
※えふごの土斎で、ふたりとも鬼
ふたりの容姿設定とか。そのへんの短文。
カロン、とゲタの音が響く。
舗装されているにはほど遠い、踏み固められた土のうえ、人の頭よりもよほど大きな石が所々に埋まっている。山の紅葉は、今年も見事なものだった。山の頂上から一気に色付いたそれが、赤や黄色や、橙に染まりきり、空を見上げればそれそれはうつくしい光景が見られることになる。ただ、この山で紅葉狩りをする者は、麓から尾根に差し掛かる程度までしかしない。人々が歩き、遊び回るには充分な敷地の、さらに奥には、とたんに深くなる森がある。同じ木々が生えているはずの、その暗くなる場所に、足を踏み入れてはいけない。「かみさま」のおわす場所なのだと。幼い頃からまことしやかに流れる噂を横目に、麓から山を登る、男がひとり。
男はこの時期にしては薄着だった。緩く胸元をくつろげた黒い着流しに、風にたなびく薄い羽織。指先を袋手に、長い足を動かす度にひらりと、所在なげに袂が揺れる。足袋など履くこともなく、形の良い土踏まずも、よく張ったふくらはぎすら曝け出しながら、下駄の歯を土に乗せて一つも息を乱さずに歩く。着物よりもなお黒い、濡羽色のそれは強いうねりのままに項にかかる程度でざんばらに切られている。髪の色のせいか肌の白さも相まっているが、最たるその男の魅力は、他を見ることのない、黒い目だった。みしり、と生えそろった睫毛のすぐ下、黒曜石のようなそれが、まっすぐに山の頂上を見据える、男の目にも鮮やかな木々の色合いは、その視界を楽しませている最中、ざ、と風が吹く。ざらざらと葉の鳴る音のなかに混じる、強い気配の欠片に、男は吐息を漏らしながら笑みを浮かべた。
カロ、と下駄の歯が石に触れ、男は片足で蹴り上げるだけの、軽い仕草で飛ぶ。人の身長など軽々と超えるほどの距離を、ほんの一歩で。ふわりと舞うような、けれど、突風が吹くかのように素早い動きは、人のそれとはかけ離れたものだと、誰もが気づくだろう。十歩にもいたらぬうちに、男は山の頂上、よく育った楠のすぐ傍に佇む煤けた鳥居の前にいた。
木の中に溶け込んでいるせいか、木製の鳥居はもはや木と同化しているかのような有様で、それでも太い幹を使った鳥居は、静かな表情でその場所に立っている。鳥居の奥には大きな木のなかに埋め込まれるように建つ、あばら家が見えた。ほとんど崩れ落ちているといっても過言ではないそれは、太い梁がむき出しになっているなかを、すきま風が通ってはほこりや土が流されている。柱はすっと立っているが、その周辺の壁やら扉やらといったものはくずおれ、かつては畳があった場所にも地面から力強く生えている草木が生えそろっているほどで、とてもではないが、人が住んでいるような場所ではなかった。いつかこの大きな木のなかに飲み込まれてしまうのではないか、と思ってしまうほどの圧があった。
鳥居の、太い幹を、男の手が撫でる。ざわり、とその動きに呼応するように、楠が揺らめいた。カロ、と下駄の歯を鳴らす。男が一歩、鳥居に向かって歩き出した。
紅葉の赤い葉が、男の頬をなぞる。鳥居を越え、足を踏み出したら、そこにあったのは、果たして、先程とは違う光景だった。煤けていた鳥居は朱色も眩い小綺麗なものになり、巨木のなかに押し込まれていたはずのあばら家は、おおよその大きさは変わらないまでも、土壁のしっかりとした作りの家へと変貌していた。そしてなにより、取り囲むような樹木の類は姿を消し、その周囲には、麓の山々と同じような、紅葉した木々が家屋の周囲を彩っている。風が吹くこともないはずが、紅葉した葉が、赤や、橙やの鮮やかな色を舞わせながら、地面に降り積もり、踏みしめられることのない絨毯となって、男の足元に広がっていた。
男は下駄を脱ぎ、紅葉の葉の敷物のうえを裸足で踏んでいく。地面と触れ合っても、潰れることも足に貼り付くこともない葉は、男が踏む度に、舞い上がっては落ちていく。そうして、黒い羽織を着た男が歩みを寄せる先、ぽつりと佇む家屋のこじんまりとした縁側にまたひとり、男が座っていた。
男は、ひと目で人ではないことを理解できる容姿をしていた。白い顔の黒の男よりもさらに白い肌は青白く、血の気というものを感じさせない。ゆるりと紅葉とともに揺れる錆鼠色の髪は緩やかに波打ち、肩口ですっきりと切られていた。黒の男を見つけて、きらりと光る瞳は蜜を煮詰めたそれと同じほどのうつくしさで、そのなかの瞳孔は、縦にひび割れるように裂けており、額にかかる髪から、するりと天に向かって、髪の色から先端に向けて金色へと色を変える
――
角だった。所々にぼこ、とこぶのようなものが浮いているが、額から生えるところには継ぎ目もなく、皮膚から伸びるものは紛い物でもなんでもないことを告げている。長く伸びた桜色の爪を避けて片手に持つ、広い口の小さな猪口にはとろりと透明な液体が張っていて、黒い男に向かって掲げられていたかと思えば、肌と殆ど変わらない色をした薄い唇に吸い込まれていった。細い顎があがり、無防備な喉がさらされ、液体が流れていくことを示すように、喉仏が上下する。
青鈍色の着物を黒の男よりも緩やかなあわせで着ている。着流しだけであっても、外界の寒さなど感じさせない様は、猪口とは逆の手が縁側に置かれているが、そこに向かって既に肩からずり落ちそうになっていることからも分かろう。脇腹まで見えそうなほどのその有り様にも、黒い男は何も言わない。黒の男が角の生えた男のすぐそばに寄れば、黒の男に向かって両手が差し出された。爪先までぴんと伸ばして、まっすぐに。
「おかえりなさい」
「
……
あァ、今帰った」
黒の男が身を屈める。まっすぐに角の生えた男を見つめていれば、酒精はとっくに散っていることがわかった。本来の甘やかな香りが鼻腔をくすぐるなか、黒の男が瞼を伏せ、その角の根元へと唇を寄せる。首の後ろにまわる、桜色の爪が黒の男の首筋を優しく撫ぜた。
そうして、ふたたび、よくととのった鼻先を触れ合わせているとき、瞬きの間に黒の男の額に変化があった。まろい額のすぐ上、降りる髪の隙間から艶めく黒い角が、天に向かって伸びていた。つるりと艶がある、黒一色のそれは、もうひとりの男とは違い、片側は、根元を残しているだけだった。瞼が、あがる。黒のなかに浮かぶ血の色にも近い赤の瞳は、ひび割れたような縦に裂けるそれへと変わっていた。
ふたりは鬼だ。この、社の中を、山を守護しながら、ただ長い時間を、ふたりで過ごしている。そのふたりの名を、黒の男を土方と、もうひとりの鬼を、斎藤と呼ぶ。
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