2015-01-11 00:02:44
2036文字
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ユーアーアワベイビー


肩口を通り過ぎる風に、ぶるりと体が震えて、俺は目を覚ました。
くあ、と欠伸をひとつ零してぐっと腕を伸ばす。
全身に血が巡り、眼が冴えてくればパチパチと瞬きして、すぐ隣にいるふわふわとした柔らかな髪めがけて手を振り下ろす。

「あいた!」

ベチ、という音と共に柔らかい髪から声が漏れて涙目の男が毛布から顔を出して、俺と目が合うとにへら、と顔を崩した。

「おはよ」

きらりと光る金属がついた大きな掌でわしゃわしゃと黒い髪と黒い耳をかき混ぜられて、俺は咄嗟に目をつぶる。
目の前のこの、自称イケメンは俺の飼い主(仮)のとおる、という。
構ってくれるのは嬉しいがいかんせん、ウザい。
そう思いながらも頭を撫でられると自然と顎があがっていくのは仕方ない。
顔を挟むように触ってくると今度はくすぐったくなってくる。
くふ、と小さく声を出してから息を吐き出し、目を開けると至近距離に、顔。
ビク、として思わず本日二回目のパンチを目の前の顔にお見舞いしてやった。

「ふぎゃ!」

猫みたいな悲鳴をあげて倒れ込んだのを目の端に映し、その姿に満足して裸足の足を床につける。
冷たい、寒い。
ぶる、と震えて足を踏み出した時に後ろからむふふ、と気持ち悪い声がした。

「しあわせ

死ねばいいのに。
無視して俺はリビングへと向かった。
前日につけておいた暖房のおかげか、そこは大変暖かかった。
うなだれていた尻尾がゆらり、と揺れる。
お気に入りの毛布に座り込んでさて毛繕いだと耳に手をあてたところで、大きなベランダの窓から外を見たら、そこは一面真っ白な世界。
一目散に駆け寄ったら窓ガラス冷たい。
八つ当たりしたらまた冷たかった。
でもこの景色を見ていたくてそわそわする。

「冷えるぞ」

低い声に振り返ると、黒髪の大きい人が険しい顔で俺を見ていた。
思わずピンと耳がたって、そのまま冷たいジーンズに激突した。
尻尾がすごい勢いで振られているのがわかるが、止め方なんて知らない。
少しでも近づきたくて飛び跳ねてみるが、全然届かない。
悔しい。
そしたら、あげている腕の下に手を入れられて持ち上げられた。
高い!こわい!でもうれしい!
咄嗟に目の前の首に抱きつくのは仕方ない。
そしたら、ぬ、と顔の横から長い腕が生えた。
ゾワァ、と背中が震える。

「おっかえりぃ、はじめちゃあ、ぐっ!」
「ナイスパンチ」

驚いて出た手を咎めることなくツンツンの黒髪の男ーはじめは褒めてくれた。
はじめは俺の飼い主だ。
ごはんもくれるし、ちゃんとブラシもかけてくれる。
それに褒めるときに、ホントに嬉しそうに笑う。
嬉しいの気持ちのかわりに、首にぐりぐりと顔を押し付けたら、はじめがクスクスと笑った。

「くすぐってぇよ」
「あ、いいな、俺にもしてー」

とおるの言葉は無視して、はじめに甘える。
捨て犬だった俺をこの家にあげてくれて、世話をやいてくれたのは他でもないはじめだ。
とおるは一緒に寝たりおやつくれたりするが、基本的に不定期にしか構ってくれないので、俺は優先順位の上位に自然とはじめをおくようになっている。
だが、ひとつ疑問があるのだ。
ふ、と手の動きが止まっていることに気づいて顔をあげると、そこには。

「見てるっての
「見せつけてんのー」

唇を寄せ合って、至近距離で囁き合いながら時々くっつけあう。
はじめは恥ずかしそうだが、だけど、すごく幸せそうに見える。
はじめの幸せそうな姿は貴重で、そういう姿にさせているとおるは、本当にすごいんだと、こういう時は思う。
だが。
俺は、腹が、減っている!

「あーあ、怒っちゃった」
「ほら、飯にするぞ」

地面に足がついて、ふんわり漂ういい匂いに俺は床をパタパタと音をたてながらうろつく。
そしたらはじめがお皿を持ってやってきた。
目の前に置かれても、すぐには食べない。
じっとはじめを見て、ツヤツヤとした金属の輪の嵌まる手を見て、ぐぅぐぅ鳴るお腹を無視して、それでも尻尾は揺れるけど、仕方ない。
はやく、はやくと焦れる気持ちの現れなんだ。

「よし」

その言葉と皿を指差す人差し指の動きに一気にがっつく。
はじめのごはんはなんだってこんなにおいしいんだろう!
ガツガツ食べていると、テーブルの上からも食事の音がする。

「はじめちゃんも今日はオフでしょ?」
「あぁ」
「今日はお家でゆっくりシようねぇ~」
「柔軟をな」
「いや、それは昨日たっぷり」
「シ、てぇんだろ?」

多分、にやりと笑ったのだろう、とおるが黙った。
ほら、やっぱりはじめの方が強い。
俺はそれを耳にしながら空になった皿をそのままにふわふわの毛布で毛繕いを始めた。
次第に眠くなって、伏せて眠ることにした。
とろとろしながら、また、考えてみる。
夜になったら、どうしてはじめがとおるの下にいることがあるんだろう。

はじめととおるは、今日も仲良しだ。