2014-10-27 08:17:42
2256文字
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「ラブレターは突然に」 後日談



「ゴチでーす。」
……。」
「ゴチでーす。」
……。」
もう一声と、開けられた口を見たときに舌打ちが漏れた。言われなくてもわかっていると、エナメルバッグの中からコンビニの袋を取り出した。歓喜の声をあげる花巻と2つとも取られてはたまらないと颯爽と袋を1つつまみ上げる松川が手にするのはシュークリームだ。昼休み時の屋上、日陰の位置を陣取って昼食を食べていた折、女バレの主将に首根っこを掴まれて引きずられていった及川を除く3人がいる。
ぶすくれた様子の岩泉とシュークリームを喜び勇んで食べ進める花巻には大層な違いはあるが、致し方あるまい。賭に負けたのだから、それ相応の賭け金を払わなければならないのだ。財布の中身も昨日のあれこれを考えて自分の心持ちも痛んでいるというのに、まったく。
情けねぇ。」
「やってよかった?」
思わず零れた言葉を拾い上げたのは、発案者の横でおこぼれに与っている男、松川だ。にやにやと笑みを浮かべながら言っている段階で、自分はそう思ってないよ、と言っているようなものだ。
……悪かった、とは言わねぇけど。」
「及川の頬朝から緩みっぱなしだったしね、今日。」
「あー見た見た。岩泉にべったりでネー。」
唇についたクリームを舐め取りながら会話に参加してきたのは、首謀者である花巻だ。こちらもニヤニヤとしながら傍に近寄ってくると、軽く肩を叩きながら小首を傾げてきた。思わずよけたのはこちらのせいではない。絶対に。
やっぱりわかったろ?及川は。」
……夜になってからな。」
「わからなかったか、わかったかの賭けだもん」
……。」
納得はいっているがいっていない。事の起こりは自分にあるということも理解している。及川からのラブコールに対しての自分の態度が、どうやら下級生の女生徒からしてみればあまりにも悲惨に映ったため、それにつけ込んで及川に取り入ろうとしている、というのを風の便りで聞きつけた松川・花巻コンビがこちらをけしかけてきたのだ。それに対して、若干の思うところもあった自分が挑発に乗ってしまった。挑発されれば乗ってしまう自分も悪いのだけれど。


憎からず想っていることは明確だ。ただ、態度で示すのは苦手である。
『なら、別の方法で示せばいいじゃん?』
にやり、と唇の端を緩くあげて悪戯っぽく笑んだのは花巻で、その日中に用意されたのは白い便箋、鉛筆、携帯。携帯は文字を入力する画面でカーソルが点滅している。テスト前、最後の部活を昨日終えたばかりで教室には人の気配はなく、ひとつの机に男三人が群がっている状態となっていた。顧問に呼び出されている及川を除いて、便箋に文字を綴るのは岩泉、文字を決めるのは花巻と松川。
普通に書くんじゃダメなのか?」
「こういうのはインパクトが大事なの。開けて読んで、また見たい、もしくは見るような文章であることが大事なワケ。」
……お、おう。」
「岩泉、携帯借りるよー。」
………あーこりゃダメだ。俺のにしよう」
す、と打ち込んだ時に、予測変換で出てきた言葉はスパイク。バレーに全てを注いでいる男は、予測変換もまた、それに倣っているようだ。

す、スパイク練習を及川。
き、気持ち切り換えが重要だ。
だ、抱き付くんじゃねぇ、クソ川。

アウト中のアウトだ。ひっそりとしまい込んだ恋心を示す言葉には到底なりそうになかった。花巻の携帯で示された予測変換を一文字一文字、便箋に書き留めていくが、慣れない言葉に黒々とした文字が幾分ガタついているのが、目の端に留まる。普段目にしない言葉を形にするのは酷く大変で、何より、恥ずかしい。
最後に便箋の端に名前を、ということで一本の線を書けば作業は終わった。
時間にしてみれば、ほんの15分程度のものが、倍以上に思えて、ため息が漏れる。及川は、そろそろ戻ってくる頃だろう。簡単に封筒に折り込んで、他愛のない雑談と共に待ちくたびれる。西日が強く入り込む廊下を蹴る足音が聞こえれば、すぐに待ち人は姿を現したので、のんびりとした足取りで席を立った。

花巻と松川に連れられて、及川が下足入れから足を遠ざけたところで、トイレに行く足取りを戻した岩泉は封筒を、及川の下足入れに入れようとして。
……。」
少しだけ視線を落とした後、白い便箋に消しゴムを押し当てて、ゆっくりと、丁寧に自分の名の痕跡を消した。残ったのは筆跡の強さ故に、凹みとして刻まれた文字の痕だけ。
気付けよ。」
小さな祈りを呟いて、封筒に詰め直した便箋を、及川の下足入れに入れて、岩泉は外で騒ぐ三人を追った。


そんな日のことをフェンス越しの空を見ながら思い出していると、背後から重くのしかかってくる体重があった。
……どけ。」
「練習試合組むんだけどさー岩ちゃんどこがいい?」
「聞けや。」
「愛の重さだよ、岩ちゃん。」
「重すぎて潰れたらどうしてくれる。」
「その前に俺が支えてあげるよ。」
「いらん。そんなもん俺だけで支えれるっつーか飲めねぇからどけって言ってんだよ、クソ川ァ!」
「あだぁ!」
本人たちはいたって真面目なのであろうが、周囲から見ればただの惚気でしかないことを、いい加減、気づいてはくれないだろうか。昼休みが終わるまではまだもう少し時間がある。花巻と松川は顔を見合わせて苦笑して、ほのかに甘く感じ始めた場所に目を向けないよう背を向けて、それぞれがそれぞれの時間を過ごすことに専念するのであった。