2014-10-21 07:15:34
2933文字
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ラブレターは突然に




カタン、バササ。
「今日も大量だねぇ、及川主将サン。」
下駄箱を開けた瞬間に落ちてくる封筒を片手で集めて鞄に入れていると、そんな声が背後からかかった。明るい髪色。花巻だ。
「おはよー、マッキー。」
「オハヨ。」
靴を脱ぐ花巻を待って教室に向かいながら、憂鬱なこの一週間についての話をゆるりゆるりとこぼしていった。テスト週間という名の、部活停止期間のことだ。廊下の途中で女の子たちに手を振って、別れ際にニヤニヤした花巻に背中を叩かれながら教室に入れば、背もたれに潔く体を預けながら鞄に入れた手紙を開き始める。
ひとつめ。クローバーで縁取りをしてある封筒。宛名、及川先輩へ。差出人名、無し。内容、好きだと伝えたかった、応援してます、頑張ってください。
「ファンレターに近いかな。ありがとね」
ふたつめ。ピンク色の封筒、ハートのシール。宛名、及川さんへ。差出人名、無し。内容、放課後の呼び出し。訂正、差出人名は二年のマドンナ。
……あー。」
みっつめ。真っ白な封筒。宛名、無し。差出人名、無し。内容。
「は?」
内容。

隙間から零れ落ちる。

気持ちを、

大事に持っています。

便箋を裏返す。何もない。たったその三文だけが書かれた、封筒と同じく真っ白な便箋。文字は緊張しているのか震えが見える。首を傾げた。
……ファンレターって、ことかな?」
意表を突かれて数秒固まってしまったそれに終止符をうつべく声に出して結論づける。ちょうど鳴り響いたチャイム音に意識は持って行かれ、その日はそのまま授業を受けて解散になった。頭の片隅に残った言葉の羅列はこびりついたままで、授業の内容は正直なところ、あまり覚えてはいない。

**

ザワザワ。
「じゃーねー。」
教室に向かって手を振って、手紙の呼び出しに応じて体育館裏に行けば、案の定ゆるふわ系の綺麗に髪をセットした、大きい目が印象的な美人がそこにいた。頬を赤らめて薄暗い中でも可愛らしい印象。よく、自分の容姿を知っているんだろうな、とは捻れた考えなのだろうか。
「呼び出し、してくれたのは嬉しいんだけどごめんね、今はバレーのことに集中したいんだ。」
眉尻をさげて、口角を緩くあげながら、優しい柔和な笑顔で先手を打った。テストの成績は落としたくはないし、何より早くこの場から去りたい。ショックを受けたように唇を噛む姿を見下ろしながら、効果がありそうな言葉を選ぶ。
「今はね、誰とも付き合うつもりはないんだ。」
「そうなんですか。いえ。及川さんのこと、応援してます。ありがとうございました。」
思ったよりもあっさりと、一礼して去っていく子を見送る。告白イベントは成功すれば見てくれはいいが、そうでない場合はただひたすら気まずいだけだ。体育館裏の湿気た段差に座り込んで時間の経過を待つことにする。鞄持ってくれば良かった、タイムロスだ。
金属の扉にもたれかかってぼんやりと空を見上げると、浮かぶ物は様々だ。テスト範囲、テストの日程、牛乳パン、夕飯のメニュー、テスト勉強の進捗、幼なじみの成績、白い便箋。
記憶力はいい方だと思っているが、なにせ脈絡らしいもののない文章だ。一度見ただけのものを覚えるのはなかなかに骨が折れる。誰もいないことをいいことに、意味のない言葉が口をつこうとするが、すぐに閉ざされることとなった。足音だ。
「おー、いたいた。及川。」
「まっつん?」
ひらり、と片手を振り上げる長身の姿はよく見慣れたものだった。松川に対して手を振り上げると、鞄をふたつ提げているのが見える。まさか。
「俺の鞄持ってきてくれたの?」
「今日、勉強会。」
「げ。やばい。怒ってる?」
「お察しの通り。」
にやにやした顔のまま、鞄を渡してくれた松川と校門へと向かえば朝見た花巻と、その隣に黒いツンツン頭。頭で考えるより先に体が動いた。エナメルバッグが背中にないなんて、好機。花巻が一歩下がったのを目に映して、一直線にダイブすることにした。
「いーわちゃーん!」
「おぐっ」
「はー半日ぶりの岩ちゃん。久しぶりに朝別だったから及川さんは大変寂しかったよ、朝から呼び出しくらうとか本当に岩ちゃんはツいてないね。でも大丈夫及川さんが明日からはちゃんと付き添ってあげるからウザイと言われようが岩ちゃんの横には俺ありきさて岩ちゃんありきの品詞分解やってみようか」
……。」
「古文だよー岩ちゃーん」
……。」
「ぎゃっ」
振り返らずに後頭部で頭突きをされた。痛い。わからないならわからないと言えばいいのに。まったく。男バレでいつも連んでいる4人が揃ったので、コンビニで勉強のお供であるお菓子入手していざ、我が家へ。
「ただいまー。」
「先に部屋あがってんぞ。」
「うん。」
勝手知ったる様子を見送りつつ、冷蔵庫からお茶の入ったペットボトルとコップを片手に階段をあがる。既にテーブルは用意されていて、花巻や松川が声をかけてくる。
「どこになにがあるのか完全に把握しててやばい、チョーウケる。」
「テーブル?」
「AV。」
「はっ!?」
「棚の裏側とかーよく見つけたよねぇ。」
「何で知ってんの!?」
「勘。」
……。」
ぐうの音もでない。幼なじみとはこれだから怖いのだ。趣味も好きなものも知られたくないことまで筒抜け。そう言う自分はベッドの下収納の水色バスタオルの間に挟み込んでるクセに。
…………………水色バスタオル。」
「っ!!!てめぇ!なんで知ってんだ!!」
「企業秘密です~。」
ぎゃーぎゃーとひとしきり騒いだ後、勉強はちゃんとしました。


**

パサ。
「あ。」
静かになった部屋の中、クリアファイルの隙間からこぼれ落ちた封筒に思わず声が漏れた。真っ白な封筒。髪先から零れ落ちる雫が当たらないようにタオルで柔く押さえながら布団の上に座り込む。いつものラブレターやファンレターとは異なる雰囲気のそれに興味が惹かれない、とは絶対に言えない。文章の意味も差出人が不明の時点で誰かに聞くことは難しい。指先でなぞったところで微かに揺れる筆跡が触感として残るだけだ。
ふと、便箋を支えている指先に何かが触れた。指先で触れただけで、何も書いてはいないが、消しゴムで消したような跡がある。短い棒線が一本、横に引かれていたようだ。爪先で抉れたような弧ではなく、まっすぐに、まるで、漢数字の。
「えっ。」
唐突に思いついた内容に、頭の中は一瞬のクリア状態の後に膨大な情報が流れていくような感覚に陥りながらももう一度、確かめるように黒い筆跡をなぞる。本当、どうして気付かなかったのだろう。窓の外、ベランダの先には、揺れるカーテンが見える。緩んだ頬なんて気にせずに、便箋も封筒もタオルも投げ出して、ベランダの柵に手をかければ後は簡単。いつも窓を開け放っている彼の部屋へ繋がるベランダへと飛び込むだけだ。
カーテンを開けた先、大きく猫目を見開いた、幼なじみ。岩泉の姿。
大きく両手を広げて。


ッ俺も!!大好きだよ!!」


抱きついた次の瞬間見えたのは、
真っ赤になった彼の姿と。

自分の鳩尾にめり込む彼の膝だった。