2014-10-18 21:48:43
2171文字
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解せない



座学時間、同じ。
部活時間、同じ。
生活習慣、ほぼ同じ(恐らく)。
睡眠時間、同じ。
ロードワーク時間、同じ。
筋トレメニュー、同じ。

身長差、5.0cm。
体重差、2.0kg。
服のサイズ差、1サイズ
足のサイズ差、0.5cm



「フンヌフーン~」
………。」
ロッカーが間1つ分空いてるとはいえ、幅の無いそれでは、及川の隣になることは必然であるために、楽しげに鼻歌を零す及川を視界の端に映すことは致し方ないことといえよう。及川は目立つ男だ。華やかな容姿は女子の視線を集めるし、バレーボール選手の中ではそこまで目を惹く程のものではないが一般的に見れば高身長、トレーニングを怠るなどという己に甘いことはなくスポーツをするために鍛え上げられた体躯、甘いマスクに違わず甘い言葉を囁くことに躊躇いもない、普段はヘラヘラと柔い雰囲気を出しているくせにバレーボールをしている時には酷く真剣になるそのギャップ、などなど。俺の評価などではなく、周囲から勝手に入ってくる及川の評判の中で、恐らくプラスであろうと思われるもの集めたものだ。俺の考えではない、断じて違う。認めたくないことも多々あるが、今は目を瞑ろう。腹いせに、防御力が僅かとはいえなくなった外腹斜筋めがけて拳を繰り出すことに決めた。
「フンヌフフーゥッ!何!?何で今俺殴られたの!?」
「鼻歌歌ってる暇あったら手動かせ」
「ちゃんと着替えてるよね?!」
「ちんたらしてんだから止まってんのと同じだろ」
「脱いだところ狙ってたよね!?」
ベチ、と音をたてたその部分さえ硬さは感じた。自分のそこをチラリと目で追ったところで、筋肉量が変わるわけではないが、恨めしく思うのは仕方のないことだ。ワイシャツを乱暴に脱いでロッカーに突っ込む。Tシャツ出してなかった。ちくしょう。座り込んでエナメルバッグの中身を漁ってみるが、目的のものはなかなか手に触れてくれない。眉間に皺を刻みながらエナメル自体を外に出したところで愕然とした。しくった。舌打ちが漏れる。
……Tシャツ入れてくんの忘れた
小さく呟いた声が、どうやら及川にも聞こえていたようで、扉に手をかけてこちらを覗き込んでいるのが目の端に映る。舌打ち二回目。ついでにため息も漏れる。さっきまでのイライラもどこかにいくくらいで、10数秒ロッカーの奥、連絡用のみならず使われる(主に及川の手による)ホワイトボードを眺めた。朝飯を食べた後に入れようと思って、そのままリビングに置きっぱなしにしたことを鮮明に思い出す。誰かに借りるか、購買で買うか前者は人を選ぶから、やはり購買かと、ワイシャツを手にする。と、目の前にぶら下がる若葉色のTシャツ。
……何だよ。」
「何って、Tシャツ。」
「理由だ。」
「?忘れたって言ってたでしょ?」
「今から買ってくる。」
「岩ちゃん。」
……。」
「点検とかさー休みの日にやってくれればいいのにね。」
……。」
「今日ばっかりは2枚持ってても仕方ないんだよねぇ~。」
……。」
「ね、岩ちゃん。」
「うるせぇな。」
言葉と共に目の前に揺れるTシャツをむしり取ると、頭の上から小さく空気が漏れる音がした。続く鼻歌も、幾分か大きくなったようにも思う。広げたTシャツは、いつもとは違う面積に見える。まったく忌々しい。しゃがみこんだまま袖を通し、首を通すがいつもよりすんなりとシャツが重力に従って落ちた。イライラが募るのは、いつもと違うTシャツの感触だからだ。柔軟剤の香りとか、及川のよく使う制汗剤の匂いだとか、そんなことはどうでもいい(たまに自分のTシャツとか下着とか及川の家に干されている)。袖や首回り、胸筋の邪魔をせずにストンと落ちる胴回り、腰よりも僅かに下で揺れる裾、などなど。たったひとつサイズが違うだけでこの有り様だ。襟周りを軽く引いて位置を調整して、すぐにベルトを外した。この際貸されたことで生まれた時間を最大限に活かそうと、そのまま着替えを続行するとなぜか隣から感じる視線に眉間の皺が三割り増しになった気がする。……なんなんだ。
「あんだよ。」
「へぇ!?あ、うん。なんでもないなんでも。あ、ええと、部活!そう、部活いかなきゃねぇ。早くしないとねぇ、皆来ちゃう。狭いからね、ここね。」
ベラベラとよく動く舌に首を傾げながらハーフパンツに足を通す。ロッカーの扉が閉まる音で同じくらいに及川も着替え終わったことを知った。よし、と膝をたたいて、タオルを片手に自分のロッカーを閉じてみれば、横に立つ及川の目元に赤い色が見える。また女のことか。部活の時間が近いんだから頭を切り替えろクソ及川が。
「着替え終わった。」
「テーピングは中でいっか。」
「クソ及川。」
「突然の暴言!?」
あぁ、本当にイライラする。誰のこと考えてるのかよくわからない及川にも、俺の思考の意味にも。身長が及川に届かないようになってしまったからだ、きっと。
岩ちゃん。」
「わかってる。行くぞ。」
後ろでぶつぶつ聞こえるがお構いなしだ。部活の時間は気の弛みなど考えてはいられない。ただひたすら、強くなるために。頭の切り替えをしながら、少しだけ肩の位置がずれるTシャツの袖元を、首もとへとたくしあげた。

まったく、解せぬ。