世間がクリスマスに賑わい、多くの街が赤と緑の装飾に色とりどりのイルミネーションが光る中、ライジングボルテッカーズを乗せた飛行船は嵐に揺らされていた。舵をとるロイは船の動きを落ち着かせるため、歯を食いしばって踏ん張りをきかせていた。
「ラウドボーン、ルカリオ、僕の足押さえて!」
ラウドボーンはロイの左足を口で痛くない程度に咥え、ルカリオは右足を腕で掴んで足腰に力を入れる。二匹の力で安定したロイは重たい舵を精一杯の力で回す。風の方向とは反対に力を入れ、飛行船は徐々にバランスを取り戻してきた。すると扉が開いてリコが入ってきた。彼女はすぐにロイに声をかけた。
「ブリムオンが察知したよ!あと少しで抜けられるみたい!」
「よし!あともう一踏ん張りだ!」
しばらくして、彼らはなんとか嵐を突破した。しかし飛行船はそれなりにダメージを受けてしまい、少し離れた荒野に着陸することとなった。無事に船を下ろして、ロイは一息ついた。
「ロイ、ラウドボーンとルカリオもお疲れ様」
「ありがとう。船の中のポケモンたち大丈夫だった?」
「うん。ランドウにも手伝ってもらって、今はモリーのところに集まってるよ」
「よかった…そうだ、みんなの安全確認もしなくちゃ。リコ、行こう」
二人は操縦室を出てグループ通話をはじめながら状況を確認して回る。モリーとランドウがいる医務室、オリオがいる機関室は無事らしい。しかしキッチンは大惨事なようだ。リコとロイが向かうと、作りかけのケーキが崩れて床や壁に飛び散っていた。キッチンにいたマードックとドットの顔や服にもいくらかついている。
「急な嵐だったから対応できなくてな」
「そっか…とりあえず掃除しないとだね」
「それはボクとマードックでやっとくよ。二人は一応周りの安全を見てきて」
「分かった」
ドットからそう言われてリコとロイはキッチンを後にした。しかし外に行く前に、まずは展望室に向かうことにした。なぜならさっきからウルトの応答が無いのだ。
「ウルトー大丈夫…って!?ウルト!?大丈夫!?」
展望室に着くと、ヤミラミがウルトの背中をさすっている。二人は急いで駆け寄った。
「どうしたの!?顔色すっごい悪いよ!?」
「すげえ揺れて…うっ…気持ち悪い…」
「とりあえずモリーのところ行こう」
リコとロイはウルトに肩を貸して、医務室まで運んだ。モリーからエチケット袋をもらい、ウルトは一旦出すものを出すことになった。ひとまず全員の無事を確認できたので、リコとロイはドットに言われた通り外に出ることにした。
「うわあ…甲板もすごい汚れちゃってるね」
「後で掃除しなきゃ」
「それならわしとヌオーでやっておこう」
「じっちゃん!そういえば医務室にいなかったね」
「モリーに任せた方がよいからの。ここはやっておくから、行ってきなさい」
「ありがとう!」
ランドウに見送られて二人は船から降りて歩き始めた。一面固い赤色の地面が広がっていて殺風景な様子だ。とてもクリスマスに来るような場所じゃないが、嵐を抜けた後なので仕方ない。辺りに目立ったものは見えず、ポケモンも見当たらない。ロイはスマホロトムで地図を開いた。
「えーっと…ここから一番近い街は…ハニカミシティ…2キロくらい先みたいだね」
「じゃあ戻ってもう少し飛行船を…」
「それは無理ね」
「オリオ!」
上からメタグロスに乗って降りてきたオリオはリコとロイに船の損傷の説明を始めた。
「エンベロープに穴が開いてるから補強が必要。それにエンジンもちょっとおかしくなってるとこあるから、飛ばすのは危険」
「そっか…」
「補修に必要なものは揃ってるの?」
「エンジンはいいけど、布が足りないかな」
「じゃあタイカイデンと飛んでって買ってくるよ。大きさとか教えて」
オリオから必要なものを聞いてスマホにメモすると、ロイはタイカイデンを出して脚に掴まった。
「じゃあいってきます!」
「ロイ、気をつけてね!」
「ああ!」
空に飛び立ったタイカイデンは速く速く翔る。冷たい風を全身で受けて少し寒い。ロイとタイカイデンは揃って体を震わせた。高いところに来ると少し離れたところにある街もよく見える。下の様子も見てみると、大きな木が荒野に生えている。そしてそのそばに人影が見える。じっと動かないのが気になって、ロイはタイカイデンに下降するよう指示した。地面に近づくのに合わせてシルエットは鮮明になって、小さな男の子に見える。ロイは少し声をかけてみることにした。
「おーい!大丈夫ー?」
すると白い髪の男の子は顔を上げた。そして空から来たロイを見て、腰を抜かしている。ロイは地面につくと、男の子の元に行って改めて聞いた。
「大丈夫?どこか怪我してるの?」
「だ、だれ?そらからきたの…?」
「僕はロイ。こっちはタイカイデンだよ。きみは?」
「オレはリュート。けがはしてない…ただツリーがうまくできなくてなやんでたんだ…」
「ツリー?」
「うん。オレ、ユキハミといっしょにこの木をクリスマスツリーにしたいんだ」
リュートがお腹の方に目を向けたので見てみると、服の中からユキハミが顔を出して、思わずロイは目を見開いた。
「こいつオレのふくの中すきなんだ」
「そうなんだ。リコのブリムオンがミブリムだった頃思い出すなあ…あ、それで、ツリーにするってどういうこと?」
「リュナが…あ、リュナはオレのいもうとで、でっかいクリスマスツリーが見たいっていうんだ。でもこのあたりはあんま木生えてなくて、これが一番でっかいからかざりつけしようとおもったんだ」
リュートの隣には小さな紙袋がある。中にはたくさん、ツリーにつける飾りが入っている。
「妹想いなんだね」
「あたりまえだよ。オレおにいちゃんだもん。でも木がでかすぎてオレじゃえだにとどかないし、ユキハミのわざも力が足りなくてこおりのかざりがつくれないんだ…ぜんぜんうまくいかなくて、ユキハミもつかれちゃって、どうすればいいかわかんなくて」
「そっか…よーし、そういうことなら僕も手伝うよ!」
「ほんと?」
「ああ。一緒にとっておきのツリーを作って、リュナちゃんを喜ばせてあげよう!」
「ありがとう…!ロイにいちゃん!」
ロイが笑うと、スマホロトムに着信が来た。すぐに出ると、リコの顔が画面に映った。何やら不安げな顔だ。
「ロイ、急に地面に降りていったのが見えたけど、何かあったの?」
「ああ、ちょっとね。そうだ、ちょっとこっちに来てくれないかな?モリーも一緒に」
「もしかして怪我したの?」
「あはは違うよ。ちょっと診てもらいたい子がいてさ」
それからしばらく待っていると、リコとモリーがやってきた。リコはロイの元に駆け寄ると、カバンからマフラーを取り出して広げた。
「ロイ、薄着で出たから寒かったでしょ?上着も持ってきたから」
「ありがとう。空飛んでる時けっこう冷えたから助かるよ」
リコはロイの首にマフラーを巻く。自分で巻こうと思ってロイが出した両手は宙ぶらりんになっている。するとモリーが横から聞いた。
「それで診てほしい子って…その後ろの子?」
「ああ…この子っていうかこの子のユキハミが疲れちゃったんだって」
「オレ、リュート。よろしく」
「よろしく。私はモリー。ポケモンのお医者さんだよ。早速ユキハミ診せてもらってもいい?」
「うん」
リュートは両手に乗せていたユキハミをモリーの手に預けた。モリーはユキハミに声をかけながら心音を聞いたりして状態を確かめる。ロイに上着を着せたリコはしゃがみ込んでリュートに自己紹介をする。
「私はリコ。リュートくん、よろしく」
「よろしく。おねえちゃん、すっごいおにいちゃんのおせわしてたね」
「あ、ちょっと気持ちが急いで…」
「きょうだい…じゃないよね?かのじょ?」
「そ、そういうのでは…」
「何話してるの?」
「な、なんでもないよ!そういえばタイカイデンは?」
「あっちでラウドボーンにくっついてあったまってるよ」
ロイが指差した方を見ると、足を広げて寝転がったラウドボーンにタイカイデンが体を寄せている。ついでにルカリオもだ。なんて話していると、モリーの診察結果が出た。
「大丈夫、ちょっとお腹が空いてるだけだね。リコ、なにか持ってる?」
「マードックからクッキーもらったから、これでどうかな?」
「うん。ほらユキハミ、食べて」
クッキーを口元に運ぶと、ユキハミは少しずつ食べて、嬉しそうに声を上げた。すると勢いよくクッキーを食べるようになった。どうやら気に入ったらしい。
「さすがマードックのクッキーだ」
「ユキハミ…!よかった…」
「わざを使うのに体力を消費しすぎたんだね。今は特に進化が近いからエネルギーを溜めてるみたいだし」
「え!?ユキハミしんかするの!?」
「近いうちにすると思うよ。早ければ今晩にも…そのためにはたくさん食べさせてあげないとね」
「リュート、今日ユキハミが進化すれば、氷の飾り付けも上手くいくかもしれないよ!」
「うん。ユキハミ、がんばろう!」
ユキハミもやる気に満ちた表情で、返事をした。するとリコはロイに聞いた。
「飾り付けって?」
「ああ、そういえばちゃんと説明してなかったね。リュートが妹のリュナちゃんのためにこの木を大きいクリスマスツリーにしたいんだって。僕も手伝ってあげたいと思ってさ」
「リュートくん妹想いなんだね。うん、私も手伝うよ」
「そういうことね。じゃあ私は一旦戻ってみんなに伝えてくるよ」
モリーはそう言うと、ユキハミをリュートの手に返して、船の方に歩いていった。見送ったところで、リコは思い出してロイに言った。
「ロイ、オリオに頼まれた布買いに行かなきゃ」
「あ、そうだね。先に行ってくるよ」
「待って。リュートくん、お父さんやお母さんにはツリーのこと伝えてる?」
「ううん、なにも言わずにきちゃった」
「それならユキハミのこともあるし、一回家に帰って伝えた方がいいね。三人で一緒に行こっか」
ツリーの飾りをルカリオたちに預けて、彼らは街に向かった。歩いている途中でマードックから連絡が来て、木の近くで料理を作ることになり、いくつか材料も頼まれた。リュートの家に向かうと、彼の母親が顔を出した。事情を説明すると頭を下げられリュートは怒られたが、無事にツリーづくりの許可をもらい、三人は買い物に出た。必要なものを買い揃えて、巨木の元に帰ると、ロイはタイカイデンに掴まって布を届けに向かった。
「それじゃあ私たちは飾り付け始めちゃおっか」
「うん!」
リコはポケモンたちを出してマスカーニャのツタやブリムオンのねんりきで飾り付けを進める。カルボウやこの場に残っていたルカリオは木に登り、飾りを受け取っては取り付けている。
「リコねえちゃん、オレ星をつけるのやりたい!」
「頂上だよね。そうだ、ブリムオン、ねんりきでリュートくんを浮かせてあげて」
微笑みながらブリムオンはリュートを浮かせた。頂上まであっという間に飛んでいき、リュートは星を取り付けた。そのままねんりきで浮かせながら飾り付けを進めていると、ロイも戻ってきて順調にツリーができあがっていく。その後マードックたちも到着して、ついに日暮れが訪れた。
買い出しの最中、ロイはリュートに聞いていた。
「ユキハミの好きな料理とかある?」
「カレー!オレもユキハミもカレーだいすきなんだ!リュナもだいすきだよ!」
「じゃあ今日はそれを作ろう」
彼らの作るカレーの香りがリュートの両親、そして妹のリュナの鼻に届いた。ゴーゴートに乗ってやってきた三人は雄大で華やかな巨木を目にした。リュナの目はキラキラと輝いている。
「すごい…きれい…」
「リュナ!こっちこっち!」
「おにいちゃん…!これ、おにいちゃんがつくったの…!?」
「うん!ロイにいちゃんとリコねえちゃんにてつだってもらってさ!」
「すごい!すごいよおにいちゃん!!」
「へへっ、でもこれでおわりじゃないよ!」
リュートはテーブルに向かった。リコとロイと顔を見合わせて頷いて、テーブルの上にいたユキハミの方を向いた。ロイがお皿にご飯をよそって、そこにリコがカレーをかけて、リュートの元に置いた。リュートはスプーンでカレーライスを掬うと、ふうふうと息を吹きかけてからユキハミの口に運んだ。ユキハミは笑顔でそれを頬張り、すぐに次を求める。どんどん、どんどん食べて、ついにユキハミの体から青い光が放たれた。
「ユキハミ…!」
光を纏ったままユキハミは少しずつ大きくなり羽を広げながら浮遊していく。そしてクリスマスツリーの頂上、リュートが取り付けた星の上で、進化した姿を見せた。
「モスノウに進化した…!」
「モスノウ…モスノウ…すっげえ!」
声をあげて喜ぶリュートを見て、銀鱗を撒くモスノウもまた微笑む。しゃがみ込んだロイはリュートの肩にそっと手を置いた。
「さ、ツリーの完成だ」
「うん!モスノウ!おねがい!」
リュートの声を聞いたモスノウは羽を揺らし始めた。辺りに冷気が広がり、空の雲が濃くなっていく。空から純白の雪が降り、ゆっくりと、美しく舞う。そしてモスノウの羽から落ちる氷の鱗粉に触れてしばらく、ツリーの姿は一変した。ツリーは飾りをかわして凍りつき、鮮やかな煌めきを放つ。
「どうだリュナ!すごいだろ!」
「すごい…!おにいちゃんもモスノウもすごい!」
「じゃ、最後の飾り付けだね。リコ」
「うん。マスカーニャ、優しくトリックフラワー!」
マスカーニャが指を鳴らすと、小さな爆発がぽんぽんと起こって煙から色とりどりの小さな箱が姿を見せた。箱は木にくくりつけられている。
「ロイ!」
「任せて。ボウ、ボウ…ラウドボーン、フレアソング!」
ラウドボーンの歌声は火の鳥と共に火炎を纏い、ツリーの周囲をくるくると舞う。その軌道はマスカーニャが出した箱の上を通って火を灯していく。頂上に辿り着いた火の鳥は纏っていた炎を散らしてラウドボーンの元に戻る。箱についた揺らめく炎と降り散る火の粉、氷の鱗粉がイルミネーションのごとく輝いていた。
「すっげえ…!」
「こんなにきれいなツリーがみれるなんて…!ありがとう!おにいちゃん!」
「オレだけじゃないから…ほら、ロイにいちゃんたちにも」
「うん!ありがとう!ロイにいちゃん!リコねえちゃん!」
「どういたしまして。僕たちこそありがとう。このツリーができたのはリュートとモスノウのおかげだよ」
「私たちも楽しかった!さ、みんなでご飯も食べよう!」
神々しい光を放つツリーの下で、彼らのクリスマスパーティーが始まった。ほとんど草も生えない荒れ果てた地に残った巨大な木の周りにだけ、土地に似合わないホワイトクリスマスが訪れていた。パーティーの中、リコとロイは用意した椅子に座って話していた。
「リュートくんもリュナちゃんも、喜んでくれてよかったね」
「うん。嵐に入っちゃった時はどうしようかと思ったけど、やっぱり…嵐の後には宝物が見つかるんだ。ホゲータやリコ、みんなと出会って僕の冒険が始まったみたいに」
「そうだね。きっとこれからも素敵な宝物がいっぱい見つかるよ。いっしょに頑張ろう、ロイ!」
「ああ!」
荒野の雪が降り止む頃、彼らのパーティーは終わった。一生残る素敵な思い出を胸に刻んで。
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