萌音
2025-12-25 16:54:41
2427文字
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恋人が三田九郎

「⛓️殿。今宵は性夜故、もの凄い下着を着用している」と🌧️にいって欲しいなというネタから生まれたクリスマスリオヌヴィ小噺。

街はイルミネーションに彩られ、フォンテーヌ廷ではマルシェ・ド・ノエルが賑わいを見せている。今年はヴァザーリ回廊全体が会場となり、中心部の噴水前には大きなツリーが建てられ、人々の人気を博している。
今日はクリスマス当日。とはいえカレンダー上は平日、しかも明日は年末年始休み前の最後の金曜であり、各所仕事は大詰めだ。それは水底の監獄といえど同じことで、リオセスリも多忙を極めていた。
年末の挨拶と、年始からのマシナリー工場の稼働スケジュールの最終確認のために水の上を訪れていたリオセスリは、賑わう街を横目に足早にパレメルモニアへと入っていった。

「俺からは以上だ。しばらく生産ラインを止めるから、年始の稼働は予期しない機械トラブルが起こる可能性がある。来月の納期の変更を依頼するかも知れないが、また追って連絡するよ」
「承知した。そうは言うが、毎年年始の納期も厳守してくれているではないか」
「ま、生産ラインが止まっても要塞には大して娯楽がないからな。暇つぶしでみんな機械のメンテナンスをしてるもんだから、〝予期しない〟トラブルはまず起きないんだ」
「つまり、生じるトラブルはすべて予期し得るものだと?流石だな。工場長が余程優秀なのだろう」
「おいおい。褒めたって何も出ないぞ?」
「それは残念だ。一つ、君から貰い受けたいものがあるのだが」
「お?あの最高審判官サマが要塞の管理者である俺にものを強請るなんてな。珍しいこともあるもんだ」
リオセスリは振る舞われていたお茶を口に運んだ。目の前の最高審判官直々にマルシェ・ド・ノエルで購入したと言うそのお茶は、クリスマス仕様のフレーバーティーで、ホワイトチョコレートとナッツの甘い香り漂うリオセスリが好むようなフレーバーであった。
「で?最高審判官サマは何をお望みで?」
「うむ……今宵、君の時間を少々いただけるだろうか?」
……おいおい。もっと早く言ってくれよ。今夜はディナーの予約はしてないぞ?」
ヌヴィレットのおねだりに、これは非常に〝個人的〟な、明け透けに言えば恋人からのクリスマスのお誘いだとリオセスリは悟る。
「それは何も問題ない。先週末、私の誕生日を祝ってくれただろう?二人で過ごすディナーは、あれで充分だ」
先週末、ヌヴィレットの誕生日を祝うために二人はホテル・ドゥボールでディナーを楽しみ、甘い夜を満喫した。先週濃密な時間を過ごしたこととあり、また年末前の平日ということでクリスマスデートは見送っていた。
「じゃあなんでまた」
「特別なディナーはなくとも、二人で居ればそれだけで特別な時間になるのだ、と。君が教えてくれたはずでは?」
「それはそうだが……
……嫌、だったろうか?」
「まさか。嬉しい限りさ」
クリスマスデートはお預けの分、次の約束は年始休みということになっていた。予想もしていなかった恋人との逢瀬に、リオセスリの気分は一気に高揚する。
「だが、残念ながら俺は何も準備していないんだ」
「それも問題ない。君からは充分すぎる程の贈り物をもらった故、次は私がお返しをする番だ」
「いや、あれはあんたの誕生日だったからで、クリスマスは互いに贈り合うもんだと思うが……
リオセスリの言葉に、ヌヴィレットは首を横に振った。
「私が君に贈り物をしたいだけなのだ。それに君が受け取ってくれたならば、それが私へのクリスマスプレゼントとなる」
「それはまた随分だなぁ。俺もあんたにプレゼントしたかったんだが……で?そのプレゼントっていうのは?」
ヌヴィレットの熱烈な思いに、リオセスリは面映くなる。後で絶対プレゼントを用意しようと心に決めながら、ヌヴィレットがそこまで言うプレゼントは一体如何なるものなのかと、リオセスリは問うた。
「ふむ……実はな……
そう言うとヌヴィレットはリオセスリの耳元に唇を寄せると、普段の澄んだ水が流れるような凛とした声ではなく、どこか弾んだような楽しげな声でこう言った。
「実はいま、もの凄い下着を着用しているのだがが、普段下着を着け慣れていない故、やや窮屈なのだ。君が脱がせてはくれないだろうか?」
リオセスリは思わず咽せた。
ヌヴィレットが普段下着を着用していないことを知ってはいたが、改めて意識させられ、リオセスリはなんとも言えない気分になった。そもそももの凄い下着とは一体どんなものか。何より、普段下着を着用していないヌヴィレットが敢えて下着を着用しているという事実が、非常に扇情的で魅惑的だとリオセスリは思う。
「あんた、なぁ……ッ!!」
……好まなかっただろうか?稲妻の娯楽小説では、恋人を喜ばせるにはこれか一番の手法だと書いてあったのだが」
「残念ながら大変好ましい限りだよ……
「それは良かった。後ほど、私室を訪ねてもらえるかね?」
……むしろ今から訪ねたいくらいなんだがな」
「では、先に夕餉の買い出しにマルシェ・ド・ノエルに行こう」
「今からかい!?」
ヌヴィレットの突拍子もない言動に、リオセスリは目眩を感じた。もの凄い下着を着用していると宣言されてしまった以上、その様な姿で外に出て欲しくはない。むしろ一刻も早くそのもの凄い下着やらを堪能したい。というよりも、こんなにも煽るようなことを言われてしまっては、加減をしてやれそうにもない。
「ヌヴィレットさん……あんたも明日が仕事納めだろう?あんたからの最高のプレゼントに俺が全力で答えて、万が一腰が立たない、なんてことになったらどうするんだい?」
……君と過ごす年始休みには仕事を持ち込まないように気をつけよう」
「いや、明日納めてくれよ」
リオセスリは荘厳な法服の下に一体どんな下着を着用しているのかという爛れた妄想と興奮を抱えつつ、今日はなんとしても加減しなければという理性を総動員させる。ヌヴィレットが無事に仕事納めができたどうかは、まだ誰も知らない。

end.