珍しく食事に興味を持つフリンズさんの話


「おや、珍しいですね」
「いやこっちの台詞よそれ」
 
 ここはフラッグシップではなく、スペランザなのだ。
 フラッグシップでご飯を食べるのは大好きなんだけど、今日はスペランザで食べたいものがあったからね。到着後に目当てを注文して待っていると、店の近くを歩いていたフリンズと目があった。
 少しだけ、ほんの少しだけ、料理待ち中の浮かれた顔を見られてしまい気まずい。なぜここにフリンズがいる?そして、何で勝手に隣に座る?まだ他のテーブル席も空いてるのだが……
 
「どうしたの?ご飯でも食べにきた?」
「いえ、通りかかった所で知り合いの顔が見えたので、少し寄り道しました」
 つまり私が挙動不審だったから覗きにきたってこと……?そんなに目立つ行動はしてなかったはずなんだけど。
「貴女こそ、いつもはフラッグシップの常連じゃないですか」
「それはそうなんだけど、スペランザに来る用事があっただけ」
「ふむ、どんなご用事です?」
……
 私が黙秘を決め込んでいると、彼は「つれない反応ですねぇ」とため息ひとつ。いや、ちょっと、言いづらいだけなんだけど。
 
 そして彼は店員さんに声をかけて蜜酒を注文していた。帰る気ないっぽいね。
 
 
 ***
 
 
「お待たせしましたー!特製ソマルケーキおひとつです!」
 わぁー!来たっ!
 この時期限定、しかも数量限定でソマルケーキのアイス添えが食べられると聞いた途端に足を運んでしまったのだ。教えてくれた友人にも聞いてなかったけど、可愛い猫型のチョコレートまで乗ってる。くぅ……可愛すぎる、何で私は写真機を持ってないんだ!
 ――っと、ここで……隣に人が居たことを思い出した。
 
 恐る恐る冷や汗をかきながら隣に目線を向けると、フリンズが大層驚いた様子で目を丸くしていた。
…………な、なによ……
「いえ、少々驚いてしまいまして」
「やめて自覚したら恥ずかしくなってきた」
 私は思わず両手で顔を覆った。こうなることが分かってたから一人で来店してたのに!
「貴女がそんなに、表情をころころ変えることもあるのですねぇ」
「誰だって好物を前にしたら、こうなるでしょう?」
「そうなのですか?」
「え、多分……?」
 そこを問われてしまうと逆に自信がなくなってしまった。え、みんなそうだと思ってたけど違うことあるの?
 
――僕から言うのも何ですが、そろそろ溶けてしまいそうですよ」
「え!それは嫌だ」
 改めてケーキを見返すと、アイス部分が少しクリーム状になっていた。急いでカトラリーに手を伸ばし、一口パクリ。うん、期待通りでとっても甘くて美味しい!一口ずつ噛み締めて食べ進めていると、まだこちらを伺っているフリンズに気付く。しかもさっきと違って、肘をついてこちらを覗き込んできている。
……そんなに見られると、食べにくいんだけど」
「あぁすみません。とても美味しそうに召し上がっているのが気になってしまいまして」
 フリンズは何も反省してなさそうな口調で、微笑みを浮かべながらそんな事を言う。
 
「なぁに?味が気になるの?」
「僕は甘いものを普段は食べません」
 うん、そうだと思ってた。お酒飲んでる姿しか思い出せないもの。
「ですがそうですね。少し興味が出てきました」
「あらそう?なら少し分けてあげようか。いま新しいカトラリーを」
「いえ、これで十分です」
 
 そう言って彼は私の手首を掴み、フォークに乗っていた一口分を口に運んだ。
「うん甘い、ですね」
…………ぇえ?」
 
 すでに私の手首は解放されているのだが、そのまま下げることもできずに動けなくなってしまった。開いた口が塞がらないとは、まさにこの事だなぁと他人事のように思った。
「どうかしましたか?」
「いや、えと、うん、何でもないよ」
 美人さんが首を傾けて、そんな可愛い顔するんじゃないよ。これだからフリンズは……という言葉は飲み込むことにして、美味しいケーキに意識を戻すことにした。
 
 なお、フリンズは食べ終わるまでずっと隣にいた。いや、ほんとになんで?
 
 
 
『貴女が食べていたから、興味が湧きました。』