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サケブンダト
2025-12-25 14:34:28
3596文字
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汝は 『くりすます』なりや?
⚠️長こへ・ちょっと流血あり・室町にないクリスマス(嘘やで)捏造
長次は、後悔の念に駆られていた。
この戦国の世では、生き抜くのが容易くない。その上、今や足から血が流れている。忍者袴の中に布を押し込んで止血しているものの、すっかり脚半も忍者足袋も血濡れになっていた。歩き回れば跡を残してしまうだろう。こうなっては逃げることもままならないわけで。天井などといった場所に隠れなかったことだけは褒めて欲しい。
怪我をした時点で、保健委員長の善法寺 伊作は怒るだろうが。
しかし、後悔しているのは忍務に対して怪我をするといったの失態ではない。
懐へ手を入れて再び、ため息を吐いた。中には先ほど血を隠すために地面に小さく穴を掘ったクナイしか入ってなかった。当然、すぐに対応できるように縄鏢は左手に巻きつけてある。
忍務で潜入した城の庭先で良かった。こうやって掘った穴に怪我した方の足を傾けていれば、土に血が吸われ、後で掘った土を戻せば、隠すことができるだろう。若干、心苦しいが仕方がない。
だが、長次のため息はまだ続いていた。出来ることなら、もう見えている城壁を超えて学園に急ぎ帰りたいのだが、周囲を多くの見張りや兵士が見回っており、この足では逃げるに逃げられないのだ。
そして、長次は懐に潜ませていた“あるもの”を城内に落としてきたことがずっと気がかりになっていた。それは、証拠になってしまうし、学園の最上学年の課題の忍務で持ち歩くのも咎められるものであろう。しかも、本来なら密書を取ってこないといけないのに、それすらない。締め付けられるように胸が苦しい。
これは確実に先生方からお叱りをいただくことだろう。でも、それよりも悔しいのはここに懐に潜めていた“あるもの”がないこと。
スカスカと懐の中で空を掴む手が虚しい。
その時、長次は気配を感じ懐のクナイを手に握った。振り返ると、片手を上げる同室の小平太が木から顔を出している。今頃、学園で寝ていると思っていた彼がなぜここに。
「帰りが遅いから来た」
片手を上げて「よっ」と言ってくる余裕ぶりに怒りを覚えなくもないが、彼の顔を見ると安堵したのもある。と、同時に胸にちくりと刺すものがあった。これは、悔しさと言うよりも
……
スッと音を立てずに降りて来た彼はニカっと笑った。まだ何かあるのかと思ったら彼は懐から取り出したものを長次に差し出す。受け取った直後に頭を下げて穴の方へ傾けて長次の足をマジマジと観察した。
「ひどい怪我だな。でも、脚半は学園で外した方が良さそうだ」
袴の上から包帯を巻きながら小平太は、そう言う。彼も長年学園で過ごし、伊作にも応急手当てを習っているので、もしかしたらと持って来てくれたらしい。
「“これ”を、どこで」
「包帯か? 」
「いや、この“横笛”だ」
「あぁ、それか」
応急処置を終えた小平太は、顔を上げて言った。
「長屋の廊下だ。丁度、私たちの部屋の前に落ちててな」
長次は握りしめて、目を閉じた。これを無くしたかと思って探し回って足まで怪我したというのに。後悔の念が長次の胸に重くのしかかる。心做しか息苦しさも感じ始めた。
「あと、密書も」
「え? 」
小平太は懐から長次が取ってくるはずだった密書をチラ見せしてしまった。なんと懐の広いやつなのだろう。と思った。いや、この頃、自分の懐(物理)が狭くなってきただけなのだが。
「長次が帰ってこないし、忍務の内容を聞くのは御法度だったから、足跡を辿ったらこの城に着いてな。長次が城内を走り回って撹乱してくれている間にな」
撹乱するつもりはなかったのだが、お役に立てているなら、それはそれで嬉しい。
「でも、どうしてこんなものを? 」
任務に持って来たんだ? と言うニュアンスなのだろう。
「“贈り物”だ」
「好いた女にならもっと愛らしい物の方が好まれるだろ」
「お前への」
「わ、私?! 一体どこにそん
……
むぐっ」
「声が大きい」
彼の口を手で塞ぎながら長次はしぃーと指を立てた。素っ頓狂な声をあげた小平太も大人しく頷き、目配せを投げかけてくる。その目は雄弁に「どうして? 」と問いかけていた。
「小平太、お前を好いているからだ。その目も顔も声も愛らしく想い
……
もごっ」
珍しく一息で捲し立てるように語り出した長次の話が長くなりそうな予感がし、小平太も彼の口を手で塞いだ。
「なら、普通に渡せばいいだろ」
「廊下にあったのは手違いだ」
目を合わせて相手の手と自身の口の隙間でろ組の2人しか知らない矢羽音を飛ばし合う。その無意味さに呆れたのか、どちらからともつかずに手を離した。
「なぜ、この日なんだ。血で服も真っ赤でまるで『さんた』ではないか」
「足だけだ」
小平太がそう意識するのも仕方がない。本日は南蛮で言う『くりすますいぶ』と言う特別な日。
なんでも赤い服の『さんた』と言う人物が『ぷれぜんと』と呼ぶ贈り物を『良い子』に送ってくれる日らしい。
その知識を図書室の本で知り得た長次は、小平太にもそれを教えて2人してワクワクしながらまっていたのだ。だが、無情にもその『さんた』とやらには、小平太がいかに『良い子』であるかが伝わらなかったらしい。
明け方に楽しみすぎて目を開いた長次は、枕元の足袋に何も入ってなくて肩を落としたのを今も忘れていない。
もしかしてと、ドキドキしながらこっそり小平太の足袋も覗いたのだが、無の礫で髪の毛すら入ってなかった。
これでは、きっと彼が悲しんでしまうと、咄嗟に自分が気に入っていた本をねじ込んだ。そして、すぐさま布団をかぶり直して寝たフリをし、起きてきた彼が喜ぶ声に布団の中でほくそ笑んだのである。
そうして、長次は毎年『さんた』とやらの代わりに『ぷれぜんと』として小平太に贈り物をしていた。小平太に正体を明かさずに。
所が誤算だったのは、小平太からすれば未知の『さんた』と呼ばれる赤い服の年配男性に毎年ごとく枕元に来られていることになる。
さすがに忍者のタマゴとして望ましくないと年々気配に鋭くなり、昨今では長年の同室である長次でさえ、彼が寝ているのか狸寝入りをしているかすら分からなくなっていた。
そこで、長次は忍務を引き受けて、夜中に帰ることで警戒されることなく小平太の枕元を通って仕切りの向こうの自分の布団へ行ける。不自然ではない動きの中で、一瞬、彼の枕元にサッと贈り物であるこの“横笛”を置くだけで済むはずだった。
それがどんな因果か。長次は学園を出る前に落としていき、あまつさえ、それを探して城の中を奔走したのだから。きっと彼にも笑われるに違いないと、真相を口に出さずにしまい込むことにした。
その結果がこの告白なのも釈然とはしないが。
「そうか、やはり『さんた』は長次だったんだな」
「もそっ?! (なぜ、そのことを? )」
「私が寝ている間に私に気が付かれないで贈り物ができる人物なんて同室の長次ぐらいしか居ないだろう」
自信に満ち溢れた顔で言った彼に長次は観念した。6年間続いた『さんた』業は今年で終了らしい。もう少し彼に『夢』を見せたかったのだが。
「バレてしまっては、来年から贈ることが出来ないな」
「何を言うか、来年からは贈り合えば良いじゃないか。私だって長次に贈り物をしたいぞ」
「小平太
……
」
「それに、私からすればこの日を長次と過ごせることが何よりの贈り物だ」
「
……
もそ」
照れてしまって小声になる長次の声は、さすがの小平太ですら聞き取れなかった。来年には卒業して行方すら分からなくなる2人なのに。2人はそれすら忘れて。
「すまん、聞こえなかった。なんて言ったんだ? 」
小平太が元気に聞き返した直後、2人が隠れていた草のそばで大声が上がる。
「居たぞー曲者だぁーー!! 」
長次は青ざめながらも笑みを浮かべて縄鏢を回し始めた。
「声がでかい」
「すまん! じゃ、蹴散らして学園に帰るか」
クナイを構えて不敵な笑みを浮かべた小平太はそう答えた。
学園へ無事に戻れた長次は、頭を下げて土井先生に尋ねる。
「最近よく物を落としてしまって」
「あぁ、長次は大きくなったもんな」
顔を上げた彼の懐から、バサッと音がし、本が床に落ちる。本が落ちた拍子に彼の胸元は大きく開き、下に着ていた肩衣が普段以上に顔を覗かせていた。
「服の大きさが合わなくなったんだろう。卒業までそれを着ているのは苦しいと思うから用具委員に相談してサイズの大きなものを借りてくると良い。私もよく昔はそうやって胸元が開いてものを落としてしまっていた時期があったよ」
ポカーンと口を開いた長次は、自分よりも背の高い土井先生を前にしばらく放心していた。
だから、課題の先生は土井先生に相談に行けと仰ったのかと。
END
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