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orikoriko1125
2025-12-24 23:55:08
7312文字
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クリスマスなんて大嫌い!
クリスマスが大嫌いというカキツバタをゼイユがじゃあ大好きにしてやるよ……という話です
「オイラ、クリスマス大嫌いなんだよねぃ」
「
……
は?」
学期末考査も終わり、ホリデー前の浮足立った雰囲気が学園内のあちらこちらから見え隠れし始めた。
センタースクエアにはシアノ校長ご自慢の巨大クリスマスツリーが飾られ、購買にはデリバードやオドシシがデザインされたアイテムが増え、もうサンタクロースを信じているようなよいこは学園にはいないが、クリスマスプレゼントの話題がどこでも出てくる。
ゼイユの目の前の男は、学園定食のプリンに刺さっているデリバードのピックを忌々しげに、先ず外した。
「初耳だけど
……
」
「言ってないんでね」
クリスマスが嫌いな人間なんているのか、にわかには信じられない。ましてやそれが自分の恋人であろうと。
こう見えて浮いた話には興味津々、そしてそれが自らに降り掛かったとき、初めてのクリスマスはロマンチックに過ごす、のかもしれないと、多少の期待はした。だが相手は三留のカキツバタだ。どう足掻いてもロマンチックにならないのは承知の上。
けれど、クリスマスが大嫌いは全く持って想定外なのだ。
「じゃあ、部活のクリスマスパーティーは
……
」
「参加したこたぁねえなあ」
うどんが噛まずに飲み込まれていく。少しくらい噛んだら、という真っ当な注意は「ねーちゃんかよ」という一番腹立たしい反論をされたので、それ以来言うのは止めた。代わりに消化不良で早死するわよ、に留めてある。
リーグ部のクリスマスパーティ、実はゼイユも参加したことがない。一年生のときは早く実家に帰りたくて、二年生のときは風邪をひいてしまって。なのでカキツバタが参加したかどうかも知り得ない。
「なんで嫌いなの?」
「よくぞ聞いてくれたぜ。涙無しにゃ語れない話がござい
……
」
両手で顔を覆う、嘘泣きポーズ、フワフワ頭がへニャりとした。やっと適温になったピザを口に入れて、いいから早く言えと目で促す。
「そう急かすなって、あれはオイラがまだまだ小さくてかわいかった頃
……
」
「はぁ
……
」
「ある年のクリスマス、よいこに過ごしてたオイラはサンタクロースに欲しかったおもちゃをお願いした。ちゃあんとお手紙を書いてな」
ゼイユにはわかる、コイツはどう考えてもよいこ側の子供では無かっただろう、と。絶対にクソガキ側だ。昔なじみのタロから裏も取れてる。
「そしたらさ、アイリスが言うんだ『サンタさんのしょうたいはおじーちゃんだよ』って。そんなわけがねえ、確かにビジュはサンタっぽいが、それならサンタがいないってことになっちまう」
「確かにサンタっぽいわね」
二枚目のピザに手を伸ばして、テレビでもたまに目にするカキツバタの祖父に脳内でサンタ服を着せる、似合う。
「だろぃ、でもオイラは信じなかった。あの口を開けばお説教しかしないクソジジイが、毎年オイラの好きなものを持ってきてくれるなんてな。ありえねえ。その年のクリスマス、意を決して寝ないでサンタを迎え撃つと決めた」
そこまで言うと、プリンを三口で飲んだ。
「だから早死するわよ」
「ゼイユを置いて死なねーって」
こんな軽口に若干ときめいてしまったことを猛省し、それで、と努めて平静に言う。
「十二時くらいか
……
。今じゃ十二時なんて夜の始まりだけれども、ガキにはもう眠たくてしょうがねえ。船漕ぎながら布団に包まってると、静かにドアノブが下がった。なんとなく息止めて、サンタの足音を聞いた」
聞いてるゼイユもなぜだか息を止めてしまう。同じように夜ふかしを試みて何度も寝てしまい、起きる頃には枕元にプレゼントが置かれていた子供の頃。
「サンタはサイドテーブルにプレゼントを置いて、布団を捲った。
……
わかるかい、信じてたサンタじゃなくてジジイと目が合っちまったショックをさ」
「そうね
……
」
悲しげに翳る金眼、ただの満腹かもしれないけれど。すっかり空っぽになったトレイをじいと見つめてるから。
「ということで、オイラにはそれ以来サンタが来なくなった。けどサンタの正体に気が付いてたアイリス
……
。アイツは気が付いてないフリして翌年もプレゼントを受け取ってたんだぜ! がっかりだろぃ」
「スグもアンタとおんなじだった。正体に気が付いても言わなきゃいいのに、言っちゃってサンタ来なくなってた」
男はバカ、女はしたたか。カキツバタはマジか、元チャンピオン様も仲間だったとはねぃと頭をかく。ゼイユの記憶が確かなら、スグリは拗ねはしたものの、クリスマスを嫌いになったことはない。
「ということで、オイラはそれ以来クリスマスが大嫌いになりましたとさ〜」
想像以上にくだらな
……
いや微笑ましいエピソードではないか。それこそ誰にでもあるような。この男の言うことは三年間、そして恋人同士となって数ヶ月。イマイチ真贋が掴めない。小さなことを大げさに、重たいことをとっても軽く言う。
もしかしたら後者なのかも、と今回は三年間過ごした勘を信じてみることにした。頼んでもいないのに、ゼイユのピザに刺さったピックも外しているのだから。
「じゃあ、あたしがクリスマス、大好きにしてあげてもいいわよ」
「やれんのかぃ?
……
オイラはデリバードが横切るだけで、怖くて大回りするような男だぜ」
「ダサっ‼︎」
こうしてブルーベリー学園で一番しょうもない戦いの火蓋が切られたのだった。
「クリスマスが嫌いな人、いるんだ〜‼︎」
「いや絶対嘘だべ。ねーちゃんすぐ騙されっから」
部活のクリスマスパーティ、もちろん料理担当は部内一、いや校内一の料理人アカマツ。今日はそれに向けた試作料理のお手伝い兼味見係として、数人の部員がサバンナスクエアへと集まったのだ。
クリスマスが嫌いでもクリスマスの料理に罪はない、こんな美味しいものを食べれるなら楽しむだろう。そう考えるとこまでは悪くなかった、ケーキのクリームを混ぜる担当にされるまでは。
「ねえ、ハンドミキサーじゃダメなの?」
「手で混ぜたほうが甘みが増す、そんな気がするんだよね」
コートに入るときは右足から、ここぞというときは利き手と逆の手で投げる、相手がドームにいないポケモンをくりだしてきたら手持ちを一度交代する。みんな自分のジンクスを持ちがちだ。まさかこの労働も同じだったとは。
まだ試食用の料理は出来ていないのに、ピクニックセットで誰かさんのようにみんなを眺めるだけの少女へとボウルを突き出す。
「もうムリ! タロ、あんた暇そうなんだから代わって。先輩命令よ」
「いいんですか? わたしがやると、どっか飛んでっちゃうかも
……
しれないですよ」
お嬢様はお料理なんかしないということなのか。手持ちにマホイップを入れてるのに全く訳のわからない理由で、この労働から逃げようとは生意気だ。見上げたまん丸の瞳を、思い切り睨んでもぱちりと瞬きするだけ。
「ゼイユ先輩! タロ先輩だけは
……
本当に、危ないから!」
「はぁ⁉︎」
遠くで友人に指示を出してたはずのアカマツが、でんこうせっかで駆けてくる。随分と青い顔で、必死に。
「タロ先輩は、ほんと
……
炒めれば焦がすし、並べればこぼすし、混ぜればひっくり返すし
……
。きっとゼイユ先輩の頑張りだって台無しにしちゃうから!」
「
……
そんなに?」
恥ずかしそうに白い頰を染めるタロ、クリームを必死で守るアカマツ。どうやら事実ではあるようだ。
明日いつも通りボールを華麗に投げられるのか、些か不安は残るけれどもお陰で滑らかになったクリームをスポンジに塗る。アカマツの指導通りクリームを絞り出し、仕上げに飾りを乗せた。
「さっすがアカマツ!」
「みんなが手伝ってくれたんだって!」
勿論試食担当のみ、のろりと現れたカキツバタがアカマツの頭を撫でる。あくまで試食会、料理のみでクリスマスらしいデコレーションはされていない、ゼイユの作ったケーキを除けば。
「これ、あたしが作ったの。食べて」
「マジ? 嬉しいねぃ、ってこりゃあいらねーのよ」
ゼイユの取り皿に置かれたのは、彼の祖父によく似た、チョコレートでできたサンタクロース。
「言ったろ、クリスマスは大嫌いなんだって」
いちごだけになったクリームの雪原にはチョコレートの跡だけが残った。
「あの件ですが、これはどうでしょう。お貸しします」
「
……
なにこれ」
ネリネが差し出したのは、二枚のカラフルなセーター。
まるでクリスマスツリーのように飾りつけがされてるウソッキーが、得意げにポーズを取っているデザイン。そしてツリーの一番上の星よろしく、胸を張ったポーズを取るヒトデマン。
「ごめん。ダサすぎて気絶しそうなんだけど⁉︎」
ファッションには自信があるほうだ。自慢のスタイルを活かしたコーディネートでイッシュを闊歩すれば、モデル事務所の名刺でババ抜きが出来るくらいには。
そしてこの親友だって絵を描くことを趣味にするくらいにはセンスがいい。まさかこんな恐ろしいセーターを所持していたとは。
「
……
イッシュではこのようなアグリーセーターを着て、クリスマス映画を見るという文化があります。カキツバタなら無論、知っているはず」
「何その文化
……
。あたしがキタカミ出身だからって担いでないわよね?」
そんなことをするような友人でないことはわかっている。だがにわかに信じがたい。
「もちろんです。ただ、気になることが
……
」
「え、なに」
ちらりとゼイユの奥にあるなにか
――
恐らく壁時計へと目をやると、懐中時計をも確認した。うんと頷くと、眼鏡の奥のエメラルドが真っ直ぐゼイユを映す。
「時間なので。
……
ゼイユはもう少しだけ冷静になるといいと思います」
「れ、いせいって。どういうこと、ちょっと‼︎」
必死に上げた声もポニータの耳に通った風のように、ネリネの首はぴくりとも動かない。
冷静ってなによ、手元には依然ダサいセーターのみが取り残されていた。
「うわダサ‼︎ え、ネリネの? さっすがセンス突き抜けてんなあ
……
」
真冬なのに半袖ハーフパンツの部屋着もどうかしているが。普段から薄着で雪山にいる男には室内は暑すぎるのか。
「ちょうどいいわ。あんたの分もあるから、ヒトデマン」
「なんもちょうどよくねーって。クリスマスのアグリーセーターも勿論、大嫌いだって」
カキツバタの部屋はコーストエリアのように暑い。ゼイユだってこんなダサい厚着はしたくもないのだ。クリーニングして返そう、脱いで隅っこに置いておく。
「じゃあせめて映画くらい、付き合いなさい」
持参したタブレットには有名なクリスマス映画がダウンロードされている。サムネイルをカキツバタの眼前に突きつけると、嬉しそうに目を細めた。
「
……
これならいいねぃ。クリスマス嫌いにぴったり」
「でしょ!」
机にタブレットを置いて、椅子代わりのベッドに掛ける。
クリスマスの家族旅行に置いていかれた少年。留守だと勘違いし家に入ってきた泥棒を、相棒のピチュー、デデンネと共に、えげつないイタズラとトラップで追い出す名作コメディ映画だ。
ゼイユもスグリと共に幾度となく鑑賞し、自分たちだったらどうやって撃退するか、観ながら話すのもまた楽しかった。
「このデデンネ、何度観てもマジでイかれてるよなあ〜」
「人間にはかいこうせん打つの、躊躇なさすぎ」
勿論合成映像であるだろう、そうわかってはいてもポケウッド渾身の演技指導と、特殊技術が幾度観てもリアリティがある。そして愛らしいマスコット然と映ってるピチュー。たまに繰り出すじゅうまんボルトを喰らったときの俳優の演技が、あまりに真に迫りすぎて実は本当に受けているのでは
……
と今なお囁かれているのだ。
「ねえ、重た
……
って、もう」
一晩中奮闘を続けた少年が目を覚ます。彼を迎えに来た父親とのラストシーン、ようやっと子供らしい表情で涙を落とした。
カキツバタは逆に静かに寝息を立てていた。肩にのしかかれた頭も、首にかかるフワフワの髪も決して嫌ではない。普段見えてる手足も細いとは思っていたのに、筋張っていてゼイユとは全然違う。女子にしては手は大きいけど、重ねた手はとても覆えない。いけないことをしてる気持ちになって、慌ててどけた。
クリスマスが大嫌いなんて寂しいことを言って欲しくない、せめてゼイユとだけは楽しく過ごして欲しいだけ。右側の体温が移って、エンドロールがぼやけて見えてきた。
「はっきり言います。ゼイユさんは騙されてる」
「
……
誰に、何を」
そうして迎えたリーグ部のクリスマスパーティ。会場のサバンナスクエアはガーランドや電飾でデコレーション。誰かの手持ちのウソッキーがセーターのイラストのようにツリーになっていた。
忙しくちょこちょこと動き回るタロがようやっと止まったのは、ゼイユが電飾をブロックに掛けているところだった。
「もちろん、カキツバタに。クリスマスが大嫌いだってこと」
そう、ゼイユだって薄々勘付いてはいたのだ。大嫌いと言うにはエピソードが弱いことに。けれどもしかしたら
……
を捨てきれずに当日を迎えてしまった。結局、大好きにはなったのだろうか。今日のパーティだって欠席を決め込んでいるようで。
「
……
アイツの考えてることなんて、ちっともわかんないの! ウソをホントみたいに、ホントのことをウソっぽく言うじゃない」
端から見たらおちょくられているように見えるのだろう。悔しい、タロは握りしめた電飾の耐久が気になっているようだが。
「招待状です。ゼイユさんから渡しに行ってくれますか? コレを着て。後輩命令です」
白い袋と白い封筒。先日のダサいセーターのトラウマがよぎる。ヒトデマンはネリネが着ると妙に様になっていたが。
「
……
わかったわよ。連れてくればいいんでしょ」
電飾の光を帯びたタロの眼には不思議と逆らえず、またクリスマスを大好きにしてやる、と啖呵を切ったままは嫌だった。
「招待状、その場で開けてって言っておいて下さい!」
タロに手を振ってみんなと逆に向かう。ブロックと電飾の光が遠くからぼんやりと見えた。
「なにこれ‼︎」
白い袋の中身、ダサいセーターの方がいくらかマシだったかもしれない。着替えに戻った自室でたっぷり五分考えて、決めた。上に何か羽織ればいい。さすが美しい上に天才のあたし、とお決まりの自画自賛をして、目的地へと向かう。
「お待たせ、クリスマスを大好きにしにきたわよ!」
「
……
なんでコート着てんでい」
先ずは招待状を渡す。よく見るとプリンのシールで封がされているので、差出人はわかるだろう。手に持った帽子を被り、白いロングコートのベルトを緩める。
「サンタなんてねぇ、誰でもなれるし誰がなったっていいの」
白い袋の中身はサンタクロースの衣装。ただゼイユの脳内でカキツバタの祖父に着せたようなものではなく、ミニスカートのワンピース。いくらなんでも着こなすとはいえ、非常に恥ずかしい。
目の前のカキツバタが両手で顔を覆って、しゃがんだ。本当にサンタクロースを見ることすら、嫌なのか。ゼイユの足元で肩を震わせる。
「悪かった。オイラがぜーんぶ悪かった
……
」
「は
……
あ⁉︎」
違う、笑っている。息が出来ないほどに。笑い転げて会話も困難な男をひたすら見下ろして、やっぱり信じなければよかったとあの日の自分を恥じた。
「
……
はぁ〜。笑った、笑った。まさかクリスマスが大嫌いって、信じると思わねえだろぃ」
「とりあえず、一回手ぇ出していい?」
身構えたところを蹴った。ほんの軽く。
「脚じゃねえか。
……
サンタの正体にショックを受けたのはマジだけど、ちゃんとプレゼントは別に受け取ってた。クリスマスケーキの上のサンタは好物だし、ダサいセーターも着てクリスマス映画も見るし、ミニスカサンタは大好物だって。デリバードを迂回するのはホント」
「ダサっ‼︎ あんたほんとに最悪なんだけど! あたしのことバカにして楽しいの⁉︎」
右往左往する姿はさぞかし愉快だったろうか、少しでも可哀想と思ったあの夜ごと消し去りたい。人を振り回すヤツは大嫌いだ。
「だから
……
悪ぃとは思ってる。けどなゼイユがちゃんと話聞いて、クリスマスを大好きにさせるって言ってくれたのが嬉しくて、それに甘えちまった。だってガキの頃大嫌いって思ったのは、ホントだから」
薄い瞼が伏せ、金眼が揺れる。なんだかこうやって絆され続けられそうな自分がいて、情けないことに今だって心のどこかが簡単に揺さぶられていた。
「今回は特別に許してやってもいいわ。次やったら蹴るだけじゃ済まないから
……
。じゃあ行くわよ」
床に落ちた男を起こしてやろう。慈悲深い手はいとも簡単に引っ張られ、カキツバタの胸の中へと収まってしまった。
「ち、ちょっと、なにして
……
」
「言ったろ、ミニスカサンタは大好物だって」
よくもまあ次から次へと騙される自分、伸ばした手の先の傍ら、招待状は未開封。
「これ、まず読んで!」
「どーせタロだろぃ。後でいいから
……
」
「言っとくけど、この服、タロに渡されたんだからね」
息を飲む音がして、慌ててプリンごと開封される。
「え〜『下らないウソで体よくパーティーの準備サボらないで。ゼイユさんの服は部費で買いました。パーティーの飾り付けです。至急会場に戻して。でないと書類仕事の刑だけど、それは関係なくちゃんとやって』
……
やっぱクリスマス、嫌いになりそう」
「あたしもだけど⁉︎」
それでも楽しいクリスマスが過ごせるならなんでもいい。それにしてもこの自分をパーティーの飾り扱いするとは、タロはなかなかいい度胸している。
「今年もよいこに過ごしたから、サンタ来てくれっかなあ〜」
「留年するような子はよいこじゃないでしょ
……
。一応鍵開けて寝てみたら?」
繋いだ手の温度が少し上がったのはどちらなのか。
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