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佐伊
2025-12-24 21:04:35
3350文字
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竜王の婚姻SS ~アスランの就学事情~
「竜王の婚姻」タテコミ配信を記念してSSを書きました。よろしければ読んでみてください。
アスラン七歳前、本編最終章直前くらいの話です。
王族というのは教育を惜しみなく与えられているかといったら、そうでもない。
南方の王族は特に、貴人の教育に熱心なほうではなかった。
「なんせ、学都には南方の貴族出身者がいないですからね。さすがに皇太子が留学なんてレスキアぐらいですけど、バルミラ以外の大国では王族も留学していますよ」
学都出身のセイジュの言葉に、セナは驚いてしまった。
南の大国バルミラを含め、南方の国々では王族のみならず貴族も学都に留学など考えない。
セナは惹香嚢体であったため、教育を与えてどうすると父王から判断されていた。そんな中でも乳母家族は教育に熱心だったので家庭教師をつけてくれたが、進んで望んだことはない。
「教育しがいのないお子様だったでしょうねえ。ジド殿もお気の毒に」
フオルに呆れたような視線を向けられ、セナは肩をすくめた。
「すみませんね。勉強嫌いで」
「神山も、上位神官はそれこそ自分の名前を書ければいいという考えでしたね」
セイジュが説明する。
「能力があるので不要という考えなんでしょうけど
……
。だから下には学ばせます。どんな任務どんな仕事を要求されても応えられるようにしろというわけです。都合の良い道具を作るためのものだったけどね。武器になるものは家にも置けないし、闇人や間者らは別として馬にすら乗れない。知識は与えるけど反抗する材料は奪う。分かってますよねー」
褒めているのかけなしているのか分からないようなことをセイジュが言う。
「それができるのも、学都という場所が近くにあるからです」
学都には、人に教えることで賃金を得たい学者は山ほどいる。神山は彼らを教師として入山を許し、下位出身の子どもでも、学びたい者は無償で学べた。
今でも神山の外側にある行政地区には学校があり、そこに学都から教師を招いている。
「子どもに学ばせるよりも働かせたい親もいますから、行きたくても行けない者もいますよ。そこは各国と同じですね」
貧困層出身だったセイジュの言葉に、同じく教育を受けられなかったフオルが無言で頷いた。
こんな話をしているのは、アスランの就学をどうするかと考えているからだった。
アスランは今まで教育らしい教育を受けていない。
簡単な読み書きなどは、フオルが教えているので理解できている。だがもう七歳になるので、そろそろ正式な教師をつけた方が良いのではとフオルから提案があったのだ。
教育制度は国によって違う。神山の教育事情に詳しいセイジュからも話を聞こうということになったのだ。
セナは、あまり学問に熱心にならなくても、と浅慮に口走ってしまったがために、セイジュとフオルから冷ややかな瞳を向けられることになった。
彼らはセナと違い、成り上がるために学問をどうにかして会得しようとあがいてきた者たちである。
好きなだけ教育が受けられるのに不要と断じてしまう王族に、反感を抱いて当然かもしれない。
「学校には通えないのかな」
セナがそう言うと、それは無理だとセイジュは首を振った。
「王族と平民が一緒に学べるのは学都だけです。あそこは学問に貴賤なしという考えがありますが、完全な平等ではない。それが分かっている者と、反発して竜王否定派という組織を作り出した者らがいることを忘れないでください」
それに、とセイジュは続けた。
「セナ様が神官の階級を撤廃なさいましたが、竜人族の能力がある子どもは、能力によって発育が遅れており、かつまだそれに慣れていないこともあって、外の学校には通っていません。彼らがどう教育を受けるかは、子供らの能力、発育状況に応じて考えねばならないでしょう」
アスランには、竜王と繋がることができるという力がある。
「アスラン様は外に遊びに行ったり、キト家族と過ごしたりしていますが、不特定多数の子どもの中にいたら、何らかの問題や不調を引き起こす場合があります」
こちらが対応できないのなら、わずかでも危険な状況に置くべきではない、とセイジュは主張した。
フオルも大きく頷き同意し、セイジュの言葉を引き継いだ。
「一番怖いのは、誰かが巻き込まれる可能性がある、ということです。私たちは実際、アスラン様の身体が透けたり突然消えたりという現場を目撃していますのでね。婚配者の力を推し量ることができない以上、行動や学びには制限が必要と考えます」
これについてはセナも文句はなかった。
セナ自身、王族に生まれたがゆえの不自由さは、当たり前のものと思ってきた。アスランは皇帝の皇子であり竜王の婚配者であり、惹香嚢体である。アスランの今後が、自分以上に不自由なものになるのは、分かっていた。
「もっと広い世界に出て、学びたいと願うようになるかもしれないけどな
……
」
セナの呟きに、フオルが首を傾げた。
「さあー、どうでしょうかね」
◆◆◆
「勉強きらい。やらなくていい」
アスランはあっさりとそう口にした。
セナの脳裏に、「ほれ見たことか」と言っているフオルの顔が浮かんだ。
「勉強は嫌か。何が嫌いだ?」
セナの隣の椅子に座る上皇アリオスが、竜王の部屋で寝台の上にいるアスランに面白そうに訊ねる。
「計算がきらい」
アスランが唇を尖らせながら言う。
「ああ、なるほど
……
。計算までさせているのか」
上皇が感心したように呟く。
「さすがフオルだな」
セナが教えているとは最初から思っていないらしい。
「本を読みたいから、文字を覚えるのはちゃんとやってるよ。竜王に読ませてあげたいから。ね、竜王」
竜王は、アスランの膝の上で腹を出して座っている。キュウ、と竜王が頭をアスランに擦り付ける。
「絵本を竜王がどれだけ理解しているのか分かりませんが、アスランが読み聞かせをしています」
セナは上皇に説明した。
「好きな子のためなら、頑張れるか」
上皇の言葉にアスランは元気に「うん!」と頷き、竜王もつられて「キュウ!」と啼いた。
「僕が綺麗だな、面白いなと思うものは、竜王に教えたいんだ。見たり聞いたりするのが同じじゃないから、同じように感じてほしいとは思わないけど」
アスランが竜王を抱きしめながら言う。
「僕がキトの家で作った山羊のチーズを美味しいと思っても、竜王は食べられないから、食べさせたいとは思わない。でも美味しいんだということは分かってほしい。できるだけ僕が見たものを、感じたことを、伝えたいなと思っているんだ。絵本の中にあった空とか草原を、ふたりで『道』の中で見ることができたら、嬉しい。竜王が見たいと望まない限り、道に景色が浮かんだりしないからね」
竜王はアスランにじっと視線を注いでいた。アスランはそんな竜王に微笑んだ。
「そしていつか、竜王が、自分が見たものを僕に教えてくれたら、とても嬉しい」
竜王がキュウ、と小さく啼きながらアスランの顔に自分の顔を寄せる。
小さな二人が軽く接吻するのを見つめるセナに、上皇が囁くように告げた。
「
……
いいのではないか、ひとまず、これで」
セナが顔を向けると、上皇は微笑みを浮かべていた。
「大切な存在のために何かをしたい、何かを与えたい、受け入れたい。これが最も尊いものじゃないか。少なくともアスランはそれを知っている。それは親であるお前が、アスランの傍で今まで示してきたからだと思う」
セナの脳裏に、今までの出来事が浮かんだ。
愛したことを。別れを。決断を。
アスランのために良かったと思えない判断も、行動もあった。我慢を強いたこともあった。
あれは、アスランの成長に、負担を与えただけではなかったと、思って良いのだろうか。
上皇の手が、セナの手を優しく包んでくる。
「上にいる者には見識を広げて欲しいと望む声も分かるがな。二人が選び取ったものを、我々が信じ、そして判断を見誤らないようにすればいいのではないか。悩み、相談しながら見守ろう」
セナはこみ上げてきたものを堪えながら、無言で頷いた。
そんなセナの手を、上皇の手は、いつまでも握りしめていた。
終わり
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