フリンズさんとクリスマスに少し寄り道する話

※現パロです
※車で迎えにきてくれる話 の続きとなります

 ――まだ外は雨が降っているらしい。
 
 今日は一日中雨の日。予備校までの徒歩が辛いことつらいこと……。しかし、勉強を頑張ると良いことが待っている、と分かっている場合はなんとかなることもある。
 今日のお迎え担当はフリンズさんの日だ。
 
 予備校の出入り口付近は傘を差す人や閉じながら入ってくる人で混み合っていた。私も折りたたみ傘を鞄から取り出して差す準備を始めたところ、ガラス戸の向こうに黒い大きな傘を差したフリンズさんが見えた。向こうも私を見つけたらしく、小さく手招きされている。
 この折りたたみ傘は不要になったらしい。ラッキー。
 
「こんばんは、お疲れ様でした」
「こんばんはフリンズさん。車で待っていても良かったのに」
「雨も小降りでしたので、問題ないですよ」
 いつ出てくるか分からない私を、予備校の入り口付近で待っていてくれたようだ。もう少し急いで出てくるべきだったな。
「どうぞこちらへ、お入りくださいね」
 傘の中に私が入るスペースを作ってくれている。少し遠慮しながらも、彼の右側に入り込んだ。「行きましょうか」と、声を掛けられたので並んで歩き出す。
 
 少し先のいつもの場所に、フリンズさんの車が見えている。彼は車のキーを取り出して、ピッとボタンを押す。鍵を開けてくれたようだ。そして何も言わずとも助手席側に回ってくれて、傘を差し出しながらドアまで開けてくれる。
「さぁ、どうぞ」
「うん」
 ささっと座席に収まってから上を見上げたところ、穏やかに微笑むフリンズさんと目が合ってしまった。思わずドキっとしてしまい、私の心臓が早鐘を打った。頼むから私の動揺に気づかないで欲しい……
 そのままフリンズさんは何も言わず、助手席のドアはパタンと閉じられる。そして運転席から傘を閉じながら乗り込んでくる。助かった……いや、何から?
 
――ひとつ提案があるのですが、如何でしょうか?」
「なんですか?」
「先日、『クリスマスイベントが何も出来てない』ことを嘆いていたでしょう?」
 そんなことを言ったかもしれない。高校三年生の受験生とはそう言う身分なので諦めた、などとも口に出した気がする。
「帰り道に、少しだけ遠回りして……クリスマスのイルミネーションを見にいくのはいかがでしょうか?」
「いいの!?行きたい!」
 想定外の提案に思わず運転席側、つまりフリンズさん側に身を乗り出してしまった。狭い車内で彼の顔が思ったより近くにあって、ヒュっと息を飲んでしまった。フリンズさんも目を丸くして驚いていた。すごすごと助手席に戻り沈み込む。恥ずかしい。穴があったら入りたい。隣からはクスクス笑う声がしている。
「食い付きが良くて何よりです。ではご案内しますね。さほど掛かりませんので」
「はい……
 耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかる。先程の努力が水の泡である。
 
 
 ***
 
 
――ちょうどこの辺りですね」
「うわぁー!」
 気を取り直して、案内された付近で車窓を眺めると、大通りの両端の樹木がイルミネーションに彩られており、雨粒も相まってキラキラと輝いていた。
「本当は外を歩くのも綺麗だそうなのですが、今年はこれで我慢してくださいね」
「うん、とっても綺麗!ありがとうフリンズさん!」
 雪だるま型や大きな星型など、可愛い装飾を見つけるたびに指を指してはしゃいでしまった。有名テナントの前には大きなクリスマスツリーまであった。
 実際には数分の出来事ではあったが、大満足。
 
 クリスマスの風景を離れてからは、いつものように自宅前まで送ってもらった。さっきのコレが可愛いかった綺麗だった!と言い続ける私の話を、飽きもせず聞いてくれるフリンズさんは、やっぱり優しいね。
「今日もお迎えありがとうございました」
「はい。――あっ、忘れるところでした」
「ん?なんですか?」
 車のドアノブに手をかけようとしたところ、声をかけられ止められた。なんだろ?……と思っていると、フリンズさんが体勢をこちらに傾けて、長い腕が私の前へ伸びてきた。カチャっと音を立て、ダッシュボードを開けてくれて取り出したのは、可愛くラッピングされた包みだった。
「こ、これは……
「ふふ、選ぶのに苦労しました。良かったら受け取ってくれませんか?」
 差し出されたプレゼントを眺めてから、彼の顔を見る。珍しくフリンズさんが照れ笑いをしていた。断る理由もないので、素直に受け取ることにした。
「ありがとうございます!」
「えぇ、受け取ってくださって感謝します」
……いま開けてもいいですか?」
「はい」
 ガサゴソを包みを広げると、青みがかった紫色の、大きめのストールのようだった。肌触りがとても良い。
「最近一段と寒いですからね、良ければ使ってくださいね」
「はい、明日からいえ今日から使います!」
「気にいっていただいたようで嬉しいです」
 勢いよく返事をすると、彼は手を口元に当ててクスクス笑った。
 
 今度こそ車から降りて、家の中に入ることにした。
「じゃあまたねフリンズさん。今日はありがとうございました」
「こちらこそお付き合い頂いて嬉しかったです。――では、また」
 雨を避けながら玄関まで小走りし、フリンズさんの方にヒラヒラと手を振り、家の中へ入る。
 
 
 
 
 扉を閉めてから玄関で立ち止まって、フリンズさんに言わなかったことを一人呟く。
――このストール、フリンズさんの髪の色みたい……じゃない?」
 
 
 
 
 
 
「今日もとても可愛らしかったですね。――あと少し、でしょうか」
 彼女が家の中に入り、姿が見えなったことを残念に思いながら、車の中へ戻った。
 
 
 
 
 
『囲う/囲われるまで、あと少し?』