sidori
2025-12-24 12:37:12
6673文字
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[新刊サンプル] 落とした恋を探してます

2026年2月1日両眼発行予定の、原作軸高銀の本のサンプルです。
個人的に、解釈としては、崖で別れた後祭りで会うまで完全に会ってなくて、原作軸でもニアミスしたシーン以外本当に会ってなかったと思ってはいるのですが、
それはそれとして、やはり最初に好きになったのが紅桜の頃の高杉でして、時々どうしても路地裏とか監禁とか内緒の逢瀬…とか見たくなってですね。
一旦暗殺篇以降のこと忘れたつもりで書こう!!…と意気込んだものの、まあ結局いつものではあります。
あとえっちな本にしよう!!とも思った筈なのに肝心のえっちシーンが薄くて短いです。許してください。
いつも以上に何でも許して下さる方向け。寛大な心で読んで下さい。よろしくおねがいします。

本はB6サイズ、本文40P(約3万1千字)、頒布予定価格¥500です(変動する可能性あります※ごめんなさい見積ミスってたので500に変更しました…




 くしゅん、と銀時がくしゃみをしたのを、少し前を歩いていた新八と神楽が振り返る。
「風邪ですか?」
「風邪アルか?」
 異口同音に訊ねられ、銀時は「うーん」と間延びした唸り声で応えた。
「なんつーか、こう……
 懐に入れた手をわさわさと動かす。
「この辺がさあ、妙にスカスカするっつーか……、落ち着かねえ感じがすんだよな」
 寒風が吹いている。二月。冬は終わりに近づいているが、気温は一番冷え込む時期だ。基本的には片肌を脱いでいる雲水柄の長着の両袖をきちんと通し、綿入りの半纏を羽織って襟巻をして、それでもなお冷たさが身に沁みて来る。
 ぶるりと震えて見せる銀時に、新八は心配と呆れが半々の視線を向けた。
「アンタの懐がスカスカなのはいつものことじゃないですか。でも、本当に風邪だったら困りますね。早く買い物済ませて帰りましょう。折角入った依頼料、また銀さんがぱーっと使っちゃわない内に必要な物買い込んでおかないと。夜は鍋にしようね、神楽ちゃん」
「キャッホーイ!!鍋パーティアル!!カニアルか?!新八!!カニ食べ放題アル!!」
「いや、カニは流石に……でも、今日は豚バラ肉と白菜が特売だから、具も沢山入れられるよ」
「酢昆布も入れるアル!!」
「闇鍋じゃないからね。ほら、銀さん早く行きましょう」
「オメーらなあ、心配するならもうちょっとちゃんと心配してくれてもよくね……?まあいいけどよ」
 はしゃいで駆け出す神楽。新八が待って、と言いながらそれを追いかけ、銀時はぼりぼりと頭を掻きながら特に歩調を変える事なく二人の後をついていく。
 そんなやりとりが万事屋でされていた頃──……




「は……ッ、は……ッ、はあ……ッ!」

 俺は必死で走っていた。
 短い手足をバタバタと動かし、空き缶や空き瓶、煙草の吸殻や何故か片方だけの靴や靴下や、よくわからないゴミが端に吹き溜まっている汚い路地裏を駆け抜けて行く。いや、マジで汚すぎるだろ。普段はいつもの光景として余り気にしていなかったが、体が小さくなるとその普段は取るに足らない小さなゴミ達は、途端に聳える障害物として行く手を阻んだ。
 今の俺の体長はネズミくらいしかなかった。いや、もうちょっとはあるかもしれない。それでも猫よりは多分少し小さい。手足が短いというのはそれに加えて、比率的な意味もある。なんていうか、いうなればドラ〇もんの手に近い。胴体からちょこんと突き出ただけの腕。お前それどうやって物持ってんだって感じの指なんてないまるっこい手。足もそうだ。元の長さは見る影もなく、前に踏み出しているんだか踏み出していないんだかもわからないような寸詰まりでずんぐりした突起が胴体から申し訳程度に生えている。おまけに頭はデカくてバランスが悪く、転ばないようにするだけでも一苦労。まるでぬいぐるみみたいな、ちんちくりんな姿になってしまっているのである。
 なんでこんな事になったのかって。
 話の始まりは昨日の朝、万事屋の居間で新八、神楽、定春と、いつものようにテレビを見ていた時まで遡る。結野アナの天気予報と占いコーナーの後、朝のワイドショーの冒頭で読み上げられたニュース。

『天人により持ち込まれた違法薬物の混入事件が相次いでいます。通称〝ラブドロップ〟と呼ばれる対象薬物には〝恋心〟を分離させる効果があり、一旦分離すると軽い衝撃でも体から剥離するようになります。その際、摂取した本人は〝恋心〟を落とした事に気が付かず、後から医師の診断を受けて紛失が発覚するケースが多くなっているようです。幕府警察機関の発表によりますと、今月一日時点で〝ラブドロップ〟被害と思われる〝恋心〟紛失事件は百件近くに上っており、一部関係者からは巨大な犯罪シンジケートの関与について指摘する声も上がっています。被害の全容は未だ不明ですが、警察では実際の被害はこの数倍から数十倍は出ているとみており、引き続き警戒を強めています』
『はい。え~、薬物の混入事件ということで、大変な騒ぎになっています。もし〝ラブドロップ〟を接種し〝恋心〟を剥落した場合、風邪の初期症状によく似た症状が出る事が現在分かって来ているところです。主に酷い寒気、頭痛や微熱を感じる場合もあるようです。お心当たりのある方はお早めに病院を受診するようにしてください』
『そうですね。〝ラブドロップ〟自体には匂いも味もしない為、一度飲食物に混入された場合見分けるのはほぼ不可能です。信頼の出来ない場所での飲食や、面識のない人物との会食は当面の間出来るだけ避けた方が良いでしょう』
『なるほど。え~、視聴者の皆さまも、〝恋心〟の紛失、盗難には十分ご注意下さい。また、他の人の〝恋心〟が落ちているのを見かけた場合は、すぐに警察へ連絡するか、可能であれば保護して最寄りの交番などへ届けて頂けますようお願いします。幕府では今回の事態を重く見ており、本日からは相談窓口の設置も始まっています。電話番号は──……

 その時はふざけたニュースだと笑い飛ばした。
「なんだよ心の盗難って。おいおい、エイプリルフールにゃまだ二か月は早いぜ?」
「ちょっと意味わかんないですよね。落とすような物じゃないでしょう。でも、恋かあ。本当にあるんなら、どんな形してるのか、ちょっと見てみたい気はしますよね」
「なに似合わない事言ってるアルか。メガネのくせに。そもそもお前ら持ってないダロそんな繊細な心」
「ちょっ、メガネ関係ないでしょ。でも確かに。僕はともかく銀さんが恋とか、本当に縁がなさそう」
「いや、だからオマエも大概ヨ。まあ、マダオに一番似合わない言葉なのは確かアル」
「んだと、好き放題言いやがって。オメーらガキだって持ってねーだろっつーの」
 なんて、全く本気にはしていなかった。だって意味分かんねえだろうが。なんだ〝恋心〟が分離するとか剥離するとか。新八の言う通りだった。そもそも形がないだろ。〝心〟なんてモンは。
 ところが現実はこうである。
 つまりどういう事かっていうと、俺がその、坂田銀時の〝恋心〟っていうやつなのだ。馬鹿げているけど、恐らく、多分。
 心当たりはちょっとある。アレがいけなかった。
 昨日の夜、依頼を終えた後、新八と神楽と別れて俺はかぶき町に飲みに出かけた。
 再来週にはバレンタインがやってくる。チョコの祭典である。まあ確かに?アホロチョコさえあれば十分だと言えばそうではあるのだ。別に高級じゃなくたって、希少じゃなくたって、変わり種じゃなくたって良い。それでも本音を言えば、浮かれたピンク色の装飾で飾り付けられた町のそこら中にチョコの匂いが漂う中、普段見かけない色とりどりのパッケージに心は惹かれる。あれもそれもこれも欲しい。食べてみたい。しかし、男としてはやっぱりバレンタインと言えば頬を赤らめた女の子に「はい♡銀さん♡」だなんて恥じらいながら、特になんの変哲もなくたっていい、ただかわいいハート型のチョコを差し出して欲しい訳であって、それ用にラッピングされたチョコを自分で買って食うってのはちょっと、沽券に関わってくる大問題な訳であって。
 なんて事を考えながら本当はチョコが並んだ店先にへばりつきたい衝動をなんとか堪え、いつもの居酒屋の暖簾をくぐった。そうそう。そこまでは特に問題はなかった。
 問題はその後。何杯か煽って、良い具合に酔っぱらって店を出た後。
 確か、通りで誰かに話しかけられたんだ。顔は覚えていない。もしかしたら天人だったかもしれないが、この町ではそうであろうとそうじゃなかろうと珍しい事じゃないし、大して違いがあるという訳でもない。俺は気分が良かったから、なあに、と振り向いて、そしたら小さな包みを渡された。
 なんつったかな。聞き取れなかったか、忘れたかしたのか、それさえもう思い出せないが、とにかくなんとかいうチョコの新発売の試供品をくれるって言う。じゃあ貰うだろ。ソイツは多分かわいい女の子じゃあなかったが、俺は貰えるモンはとりあえず貰っておくタイプだし。
 そしたらその場で食べるだろ?
 持ち帰っても一個しかないから、神楽のお土産にはならない。歩きながら小さな袋の口を切り、指先程の大きさできらきらと輝く(ように、常に甘味に飢えている俺の目には映る)塊をぽいと口の中に放り込んで、染み渡る甘味にしみじみと感嘆の溜息を吐いた。
 その辺で、万事屋への近道である路地裏の入り口に差し掛かっていた訳だ。誰かとぶつかった気はする。角を曲がろうとした時、向こうから走って来た奴がいて、それで──

 それで気が付いたら、俺は道端に転がっていた。
 仰向けで、夜空を見ていた。雲はうっすら。すこし欠けのある月が、それでも眩しく輝く良い夜だった。
 ああ、また酔っぱらって寝ちまったのか。最初はそう思った。
 まあ時々やっちまうんだ。良くないってその度反省はするんだけど、酔うとつい。とにかく起きたからには帰ろう。そう思って起き上がろうとしたんだが、どうにも体が変だった。
 頭が重たくて──酔っているからだろうとは思った。手足もなんだかいまいち言う事を聞かない。そんなに飲んだつもりはなかったんだけど、こりゃあ自分で思っているよりも大分酔っぱらっちまったみたいだと思った。明日の二日酔いは酷い事になるだろうと考えて憂鬱にもなった。
 いやいや。それにしたって変だった。起き上がれすらしないなんて。
 試しに手を持ち上げてみた。顔の前に翳したつもりだった。
 ところが、手を上げている、という感覚は確かにあるのに、視界に手が映らない。あれっ、と思って手を振ってみた。やはり視界にはただ月の浮かぶ空と、その周囲をギザギザに切り取るビルの影が映るだけ。いや、視界の端で何かがバタバタと動いていた。そっちを見ようとすると、今度はなんだか首が硬い。
「ふんぎぎぎぎ……
 全身を力ませてようやっと首が巡った。そして視線の先には、この何にも掴めなさそうな丸い手があったって訳。
……ッ!!なんっじゃこりゃああああああ!!」
 びっくりした勢いで、俺はぽん、と跳ねるように飛び起きていた。殆どない首で短い手を見下ろし、短い足でジタバタと慌てる。
「なっ、なに、なん……っ」
 どうやら動くのにはコツがいるようだった。そうしているうちなんとなく馴染んでは来て、俺はとっとこと走り始めた。何か姿見になるものが必要だと思ったからだ。確認しなけりゃならなかった。自分の姿を。今俺がどうなっちまっているのかを。
 万事屋へ帰るより、まだ居酒屋の方へ戻った方が近かった。だから少し戻って通りにあるコンビニを目指した。他の店はそろそろどこも閉まっていて、下ろされたシャッターじゃ反射もしない。
 ただ、小さくなった体では、すぐそこだと思っていたコンビニすらやけに遠く感じた。転がっている空き缶が自分の体長と同じくらいあって、落ちている小石はコンクリートブロックみたいで、アスファルトに開いたちょっとした凸凹がもう、階段より大きな段差のようだった。結局コンビニまで辿り着く前に、道端に誰かが置き去りにした酒の瓶に映る歪んだ像で、なんとなく自分の姿を把握した。
……
 どれくらいそこで唖然としていたか。
 どうすんだコレ。なんなんだコレ。俺どうなってどうなっちまうの。混乱しながら、思い出したのは朝見たニュース。もしかしてそういうことなのかと思い至り、ということは、俺の〝本体〟はそのまま万事屋に帰っちまったのかという事に気付く。焦った。だって〝俺〟はここに居るのに。
 どうやったら元に戻れるんだろう。とにかく俺も万事屋には帰る必要があるだろうな。だって自分じゃ気が付かないってアナウンサーも言ってたし。よし、とにかく帰ろう。
 そう決意した時だった。
「ああ、いたいた、恋心ちゃんみ~~~~~っけ」
 頭上から声が振って来た。ぬっと影が差し、慌てて振り向くと、二人の男が小さくなった俺を見下ろしていた。よく見ると地球人に似ているが耳の先が尖っていて、天人だと分かった。にやにやと嫌な笑いを浮かべている唇からは尖った牙が覗いている。
 伸びて来た手から俺は咄嗟に身を躱していた。捕まったら絶対に駄目な事は考えなくても分かった。〝恋心〟と口にした時点で、アイツらは黒幕の一味なのだ。少なくとも俺の今の姿を見て当然のようにそう呼び、見つけた、と言うからには確信を持って〝俺〟を探していた事になる。多分……、試供品と偽って一帯で例の薬入りのチョコをばらまき、その後効果の出た人間から剝落したそれを拾って集めているのだろう。
 だけどそんな事、一体何の為に──?
 という答えは、案外すぐに出た。
 俺は必死で男達から逃げた。火事場の馬鹿力という奴か、それとも、〝本体〟が自分で言うのもなんだけどそれなりに鍛えている方だからか、人間その気になれば案外何でもできるモンで、さっきまであんなに動きづらくてたまらなかった体を全力で操って、男達の足元をすり抜け小さな体である事を生かして、いつもの体なら道とは呼ばないようなビルとビルの間の細い隙間に駆け込んで走った。
 男達は当然だが、すぐに追いかけて来た。バタバタと響く足音が、地面に近いところに頭がある所為かいつもより大きく感じて少しビビった。まるで怪獣にでも追いかけられているような気分だったが、狭い隙間には男達は入れない。しかし仲間は他にもいたらしく、二人の男が後ろの隙間から覗いて来ながら何かを叫ぶと、前方から応えるような声が聞こえた。
 入って来れないからと言って、立ち止まるのは悪手だと分かっていた。狭い道に追い込んだ獲物を狩りだす手段なんていくらでもある。相手がこっちを生け捕りにしたいのか、それとも殺しても良いと思っているのかも分からない。もし欲しいのが死体でも良いという事になれば、それこそ袋の鼠という奴だった。
 幸いにも、向こう側に回り込もうとしていた連中はまだ待ち構える体勢にはなっていなかった。俺は全速力のまま隙間から飛び出した。横に曲がる。体が小さい分、小回りは断然きく。壁沿いにそって、必死に走る。そして次の隙間を見つけて飛び込む。後ろから男の手が伸びて来たが間一髪で間に合った。更に走る。走る。走って。

 暫くすると、男達の目を一旦はくらます事は出来たらしい。いくつか目で飛び込んだ路地裏で、ゴミ箱の後ろに逃げ込んだ俺を男達は見つけられなかった。路地の入口で合流した男達は悪態をつきながらきょろきょろと辺りを見回すが、一度見失えばこんな小さな物(おれ)を暗がりでまた見つけるなんて目にレーダーかなんかがついていない限りは無理だろう。それでも、天人ってのはどんな装備を持っているか分からないから油断は出来ない。俺は小さくなった体を更に縮こめ息を殺す。
「クソ、見失ったか」
「まずいな。今日はまだロクに稼げてねえんだぞ。超強力媚薬『ドロップラブ』を作るには最低でももう一体捕まえねえと……。期日までに納品出来なきゃ、俺達がボスに殺されちまう」
「チッ、手間かけさせやがって」
「生きが良いのは良いんだがな。その分エキスが多く採れる」
「限度があるぜ。ったく。手分けして探そう。何、どうせ遠くにゃ行けやしねえんだ」
「そうだな。よし、もう一度この辺りの路地徹底的に浚うぞ」
「おう」
 ガヤガヤと騒ぐ男達。答えというのはそれだった。
 くっだらねえ、と俺は思うが、敵の理由が何であれピンチはピンチに変わりない。
(つーかエキスって何だよ怖ェよ。やっぱ捕まったら殺されると思った方が良さそうだな……)
 俺は短い手を顎に当てて考え込んだ。
 どうやら奴らの手の中には既に、他にも同じ目に遭っているどこかの誰かの〝恋心〟が複数あるらしい。まあ、ニュースで大々的にやってたくらいだから当然と言えば当然なのだが。手遅れな者も多いだろう。だけど今、奴らの持っている分くらいなら助けてやれるだろうか?考えて、すぐに否定した。
 俺自身逃げるだけで精一杯だ。逃げきれたという訳ですらない現状で、正義の味方ぶってそいつらまで助けてやるのは無理だろう。罪悪感は少し感じる。でも。
……悪いな」
 男達の気配が遠ざかって行くのを見計らって、俺はまた走り始めた。