コーラル発酵中テキサスシャーク
2025-12-23 22:56:11
2864文字
Public AC6
 

聖夜の贈り物を

本編終了後の全員生存謎時空で621・ラスティ・イグアスらがクリスマスパーティをする話です

「メリークリスマス!」

にぎやかな声が、あたたかな室内に反響した。

生まれたものはそう簡単には死なない。時代が移り変わり、七面鳥から鶏へ。鶏から鮭へ。鮭からミールワームを成形した加工品へ。形成する要素は変われど、「クリスマス」という文化そのものは星の海を越えたルビコン3でも継続していた。
名も廃れた聖人の生誕日やらといった由来はすっかり忘れられ、単なる企業の掻き入れどきでしかなくなったとはいえ、祭りであることには変わり無い。年中雪に覆われた災害の爪痕の消えぬ星も、この日ばかりは少し暖かな雰囲気に包まれていた。それは星外からやってきた傭兵達も同様である。

「えーっと、クリスマスだ。よく食べて楽しもう。あっ、あとプレゼント。プレゼントの交換をしないとな」

不慣れながらも楽しげに音頭を取っているのは、ルビコンを騒がせた傭兵レイヴンこと621だ。
621がウォルターと暮らしている拠点の無機質なリビングは色鮮やかなモールに埋め尽くされ、「季節感」の溢れる小物が足の踏み場を奪っている。とりわけ目を引くのは、広いとは言えない室内の中央を占領する木によく似たオブジェクト。CGプリンターで出力されたオーナメントを散りばめた、ルビコン産の樹木を模したツリーの存在だ。頂点にはエアをイメージした赤い星が煌々と輝いており、色とりどりの食材で埋まったテーブルに集結した団欒を優しく見守っていた。

「食べるか渡すかどっちかはっきりしやがれ」

ミールワームに化学調味料を擦り込んだロースト肉を口に運ぶイグアスは不機嫌そうに621にガンを飛ばす。

「食事しながらプレゼントを交換し合うもの乙なものじゃ無いか?」

星外から輸入されたワインに舌鼓を打つのはラスティだ。彼は身を屈め、足元に置かれた物を621に手渡した。

「君に似合うと思う。喜んでくれたら幸いだ」
「ありがとう、ラスティ」

穏やかな笑みを浮かべた621は、意気揚々と華やかな包み紙を無惨に破り捨てた。風情がないがこれもレイヴンらしい選択だと微笑むラスティにドン引きするイグアスには目もくれず、621は包みの中からプレゼントを手に取る。それはオオカミとカラス刻まれたネックレスだった。

「これはオレたちのエンブレムか」

金属製のプレートに刻まれた見知ったエンブレムを621は指でなぞる。

「そうだ。戦友との交友の証として送らせてもらう」
「昼間からコーラルキメてんのかよ」
「君の分もあるぞ」
「いらねぇ」

ラスティは621のものより簡素な包み紙を取り出し、嫌がるイグアスに押し付けた。

「この集まりに参加したということは、君もプレゼントを持参しているんだろ?早速交換と行こうじゃないか」
「けっ、やってやれっかよ。俺は降りるぜ」
「食ったミールワームの代金はどうした?払うものはないとは言わせないぞ」

素早く動いた主催者によって出口をふさがれたイグアスは、舌打ちをしつつ乱雑にビニール袋をテーブルに落とした。興味津々に目を輝かせ、621は袋に顔を突っ込んだ。そして取り出されたものは、大豊のロゴの入ったレーションとただの大きなタオルだった。

「これは……大豊のインスタント火鍋に、もしかするとレッドガンの備品か?」
いくら何でもそれは失礼ではないのか。明らかにレッドガンの宿舎にあったものを適当に持ってきたしか思えないラインナップにラスティは怪訝に眉を顰めた。そんなラスティの懸念をよそに、621は思いっきりタオルに顔をうずめる。使い古された生地のごわつきと雑な洗剤の臭いを堪能しているのか、口を半開きにして固まった。

「よし、オレの要望通りの品だ。食っていいぞ」
「消耗品のこんなの何がいいんだよ」

待望のプレゼントにご満悦な笑みを浮かべる621に呆れながら、イグアスはこんがり炙られたミールワームを再び口に運ぶ。パーティーの主催よりも多くの肉を腹に収めるイグアスを、621は咎めるつもりはないらしい。

「人の臭いがするタオルを敷き詰めるとよく寝れるんだ」
「動物の巣穴かよ」
「毛布でもいいぞ。今度お前の部屋から持っていくからな」
「いい加減にしやがれクソ犬」
本気か冗談か全く読めない621の笑みにイグアスはうんざりし、それ以上の言及をやめた。

「ところで君からのプレゼントは何かな?」

大豊レーションを自然な流れで手元に引き寄せたラスティは、期待で輝く視線を621へと投げかける。

「オレからは、これだ」

まってましたと言わんばかりに胸を張りながら、621は小さな包みを取り出した。小さいながらも確かな重みを感じられる。ラスティは手渡された包みの中身に想いを馳せた。

「人形……にしては重量があるな」
「ここで開けてもらっても構わない。むしろどんなリアクションをするか確認したい」
「なるほどな。では期待させてもらう」

ラスティは丁寧に包装の封を切ると、興味津々にその中身をのぞき込んだ。プレゼントの中身を理解した彼は「そうきたか」と感嘆を漏らす。気になったイグアスも自身に渡された包みに手をかけた。

「マジか」

中から姿を現したのは、小さなイグアスにとって見慣れた特徴をそろえた造形物。彼の搭乗AC「ヘッドブリンガー」をデフォルメしたフィギュアだった。CGプリンター出力品らしく出力時の不必要な突起や意図していないざらつきが残っているものの、素人なりにバリ取りをした跡が見て取れた。同じくラスティの元には丸みを帯びた低等身スティールヘイズの姿があった。

「これは君が作ったのか?」
「俺一人の力じゃないけどな」
《微力ながら、俺も協力させてもらった》

発言したのは完全にオーナメントの一部と化していた小さなチャティスティックだ。これまた愛らしいデフォルメ姿となっているタンク型AC「サーカス」はテーブルの上で精巧なキャタピラを鳴らしながら621の近くへやってきた。

《カーラが作ったこの小型義体から着想を得たビジターの力作だ。初めての造形にしてはなかなかだったぞ》

チャティから褒められた621はご満悦に口元を綻ばせる。

「デザインはエアと一緒に考えたぞ。来年はチャティみたいに動くものを作って……

自慢気な笑みを浮かべていた621は突然言葉を切る。そして跳ねるように駆け、皆の視線がある一点に向かった。

……遅くなった」
「おかえり、ウォルター」

リビングのドアが開き、姿を現したのは壮年の男。621は家族であるウォルターの帰還を心より歓迎する。

「悪いな、先に始めてしまって」
「待たなくても良いと言ったのは俺だ。お前が気に病む必要はない」

ウォルターは普段よりも輝く室内を見渡すと、感慨深い表情と共に目を伏せた。

……友人は大切にしろ、621」

誰が友人だと吐き捨てるイグアスをスルーして、621は強く首を縦に振った。

「それじゃ気を取り直して」

「メリークリスマス!」