usagipai
2025-12-23 20:44:53
2357文字
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ラト愛


クリスマス一色に染まった街は、息を呑むほどに美しく、眩いほどに輝いていた。
だが今の自分には、その景色を目に留める余裕などない。ただ前だけを見据え、息を切らしながら走り続けている。

「(ヤバい……! くそ……っ、あんなことがなければ……)」

本日は大手取引先を招いた、大規模なクリスマスパーティ。
開始時刻に間に合わなかった理由は、その準備に手間取ったせいもある。だが何より、途中で絡んできた妙な女に足止めを食らったのが致命的だった。

――正直に言えば、そんな仕事のパーティよりも。
この後、家で待ってくれている彼女とのクリスマスパーティの方が、何倍も大切だった。

それでも、もう間に合わないかもしれない。
胸の奥に焦りが広がり、足取りは自然と速くなる。

かなり前から、この日のために準備してきたはずだったのに。
それなのに、ほんの些細な歯車の狂いが、すべてを台無しにしようとしている――

しかし驚くことに
家の前に辿り着くと、彼女――愛莉がいたのだ
鼻先を赤く染め、吐く息を白くしながら、家の前でこちらを待っていた。

「あ……ラトルさん!」

「愛莉さん!? ……なんでここに。どこか、近くのカフェで待っていてもよかったのに」

慌てて上着を脱ぎ、彼女の肩にかける。少しでも寒さを凌げるようにと。
しかし愛莉は、困ったように、それでいて嬉しそうに微笑んだ。

「えへへ……会いたくて。待つなら、ここで待っちゃおうって思いまして……だ、ダメでしたか?」

……いえ……貴女という人は……

そんな言葉を、こんなふうにさらりと言われてしまえば、もう何も返せない。
それ以上言葉を探すこともできず、ラトルはただ彼女を暖かな家の中へと招き入れた。

だが、すぐにクリスマスパーティを始めることはしなかった。
ラトルは愛莉をそっとソファに座らせると、その背後へと回る。

気づけば、後ろから抱き寄せるような形になっていた。

「ひゃ……!? ラトルさん、近くないですか……?」

……冷えているでしょう。こうした方が、早く温まると思っただけです、あったまりましたらクリスマスをしましょう」

「っ……そ、そうですよね……

そう言いながらも、二人の頬は同時に赤く染まっていく。
互いの体温を分け合うように、静かに、慎重に。

けれど――
それでもなお、愛莉の指先はまだ冷たいままだった。

……思ったより、冷えている)

胸の奥に小さな不安が芽生え、ラトルは一つの決断を下した。

……愛莉さん。少しだけ、手をお借りしますよ」

「えっ……ま、まだ冷たいですよ……?」

「構いません」

そう言って、彼はそっと彼女の両手を包み込む。
逃がさないように、壊さないように。

……《ヴァン・ホーテン》」

囁くようなその言葉と同時に、何かが変わった。

空気が、柔らかくなる。
暖炉の火が強くなったわけでも、風が止んだわけでもない。
けれど――胸の奥に、じんわりとした温もりが灯る。

懐かしいような、安心するような。
「ここにいていい」と、誰かに抱きしめられている感覚。

「あ……

愛莉の指先から、ゆっくりと力が抜けていく。
冷えきっていたはずの手が、いつの間にか、ぬくもりを帯びていた。

……あれ……? さっきまで、冷たかったのに……

……急にすみません。少し、俺の魔法を使いました……

そう告げる声は、どこか照れたようで、優しかった。

…………

……愛莉さん?」

「し、知りませんよ!? え、魔法……使えるんですか!? な、なぜ今……

「うっ……まあ……。でも人間と、そう変わりませんし……俺の魔法、他と比べると正直ショボいので……

「ショボくないですよ!? ……ふふ」

愛莉はそう言って、まだ彼に包まれている手を、ぎゅっと握り返した。

……あっためる方法って、他にも沢山あると思うんです。でも……どうして、魔法を使ったのか。聞いてもいいですか?」

……今日は、積極的ですね」

少しだけ困ったように笑ってから、ラトルは視線を逸らす
それから、観念したように、静かに言葉を続けた。

……安心させたかった、というのもあります」

……それだけ、じゃないんですね」

……はい」

一瞬の沈黙。
それを破ったのは、低く、正直な声だった。

……俺のせいで、寒い思いをしているのが、嫌だったんです。
帰るのを待ってくれていた、その時間も含めて……全部まぁそれとは別にそろそろ見せても良い頃合いかなと

魔法の余韻か、それとも言葉のせいか。
愛莉の胸の奥が、またじんわりと温かくなる。

……魔法って、不思議ですね」

……そうですか?」

「はい。あったかいのに……それだけじゃなくて……落ち着くというか……

愛莉はそう言いながら、少しだけ身を預けるようにして、ラトルの胸元に額を触れさせた。
逃げ場を探すようでもあり、甘えるようでもある仕草に、ラトルの呼吸がわずかに乱れる。

……これ、魔法のせいですか?」

……半分は」

……じゃあ、もう半分は?」

一拍の沈黙。
ラトルは彼女の髪に触れない距離で手を止め、低く答えた。

……俺の、気持ちです」

その言葉が、静かに部屋に落ちる。

愛莉は何も言わなかった。
ただ、ぎゅっと彼の服を掴む。

……それなら」

小さな声で、けれど確かに告げる。

……今日は、もう寒くならない気がします」

魔法の余韻か、それとも二人の距離のせいか。
外のイルミネーションが瞬いたことすら、気づかないほどに――
部屋は、穏やかな温もりで満たされていた。