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悋気

なんかこれじゃない感あるけど一応ふかがも
季節感?いえ、知らない子ですね。

 厳しい残暑がぶり返した昨日から一転、本日は一気に気温が下がり、秋の深まりを感じさせた。深水は室内にいながらも少し肌寒さを感じてカーディガンを羽織る。
 そろそろ夕方とはいえまだ冷え込むには早い時間のはず……そう思って窓の外を見てみると日光が雲に遮られどこか薄暗い。今はまだ雨が降りそうなほど曇っていないとはいえ、昨日は夕立が降ったのだ。また降られては困ると思い洗濯物を取り込むことにした。
(あれ?この服はなんだろう……?)
 深水が違和感を覚えたのは洗濯物を半分ほど取り込んだ時のこと。ベランダに干してある服の中に同居人であり恋人でもある蒲生のものではなさそうな、当然深水のものでもないパーカーが一着干されていた。よく見たらその隣のズボンも普段蒲生が履いているものとは違う。
 深水はこれらの服に心当たりはない。しかしどこかで見覚えがあるような気がしている。両方ともシンプルなデザインであるためどこで見かけてもおかしくはないが、もっと身近な……
 少し考えるうちにある人物の姿が思い浮かぶ。同じジャスティスライドの仲間である魅上の姿だ。
(そうだ。魅上くんの服だ。でも何でここに?)
 確か今朝は蒲生が洗濯物を干していた。その時に何も言わなかったことから彼は何か知っているのだろうが、生憎本日も仮面ライダー屋の依頼のため不在である。考えてもわからないものは仕方ないと一旦気にすることをやめて洗濯物を片付けることに集中する。
 室内に入れた衣類を一枚、また一枚と畳んでいき、残り僅かになったところでドアが開く音がした。蒲生が帰ってきたのだ。ただいまと声がするのでおかえりと返事をした。しばらく後、仮面ライダー屋のジャケットを羽織った蒲生が深水のいる和室へと入ってきた。
「今日も洗濯物畳んでくれたのか。ありがとう」
「今日は大した用事がなかったから当然のことをしたまでだよ」
 深水が洗濯物に手をつけたと知っても蒲生が狼狽える様子はない。疑うつもりはなかったが、やましいことがあるわけではなさそうで深水は内心ほっとする。
「ところで、魅上くんのと思わしき服があるんだけど蒲生くん何か知ってる?」
「そういえば深水は昨日の夕方家にいなかったから見てないか。昨日は魅上と依頼を受けたんだが、帰りに夕立に見舞われてな。あいつの家が近かったから雨宿りさせてもらったんだが、服がびしょ濡れだったからその時に服を借りたんだ」
「そうだったんだ。蒲生くんが風邪をひかなくてよかった……
 よかったと言いつつも深水の気分はどこか晴れない。疑問は解消され、最愛の人が元気でいるというのに。どうしても蒲生が魅上の服を着たという事実が気になって仕方がない。
(ぼくの服は着たことないのに)
 それに気づいた瞬間、何故気分が晴れないのかわかった。深水は魅上に対し嫉妬しているのだ。恋人である深水でもまだ自身の服を蒲生に着せたことがないのに、魅上がやってのけてしまった。当然蒲生にも魅上にも下心がないのだからこんな感情を抱くなどお門違いも甚だしいことはわかっている。仲間に対して悋気すべきでないこともわかっている。それでも羨む気持ちが収まらない。
 そんな深水の心情を知る由もない蒲生は深水が畳んだ魅上の服を手に取った。
「もう乾いてるみたいだからパトロールのついでに返してくる」
 そう言ってパトロール用鞄に魅上の服を入れ、仮面ライダー屋のジャケットを脱いだ。日課のパトロールとはいえ、今蒲生がいなくなってしまうと思うと胸の奥が縮こまるような気がした。深水は居ても立っても居られなくて徐に立ち上がる。
「どうした?」
「あ、えっと……
 自分でも何をしようとしているのかわからない。それでも何か言わなければと必死に頭を働かせる。
「今日は寒いから、よかったらこれ着て」
 深水はそう言って自身が着ていたカーディガンを脱いだ。一体何をしているんだろう、と思うがどうして自分がこんなことをしているのかはよくわかる。魅上の服を着たように自分の服も着てほしいのだ。薄着になったためにまた少し寒さを覚えるが、どうせ着たままでも変わらないだろうと思うと気にならなかった。
「?……深水も寒いだろ。わざわざ貸さなくていい」
「で、でも外はもっと寒いから蒲生くんが着た方がいいよ」
「自分の上着を羽織るから問題ない。それは深水が着ておけ」
「それは……そうだね」
 やはり思いつきで発した言葉では限界があり、深水はこれ以上反論できず押し黙る。着てもらえなかったことが少し悲しくて、俯き気味の姿勢で自身のカーディガンを強く握ったまま突っ立っていた。
 蒲生はハンガーから自身の上着を取ろうとしていたが、深水の様子を怪訝に思ったのか手を止めて深水の方に向き直す。
「一体全体どうしたんだ。そんなにそのカーディガンを着てほしかったのか」
……うん。蒲生くんが魅上くんの服を着たのが羨ましくて、ぼくのも着てほしくなった」
 深水はもはや諦めの境地で正直に話す。こんなどうでもいいことで仲間相手に嫉妬したと知ってどう思うだろう。呆れるだろうか。失望するだろうか。
 深水が泣き出しそうになったところで不意に蒲生が深水のカーディガンを奪う。深水が突然のことに驚き顔を上げると蒲生が深水のカーディガンに袖を通していた。
「そういうことは先に言え」
 見たかったものが今目の前にいる。出かかっていた涙は引っ込み、代わりに口元が緩みそうになる。
「えっ、着てくれるの……?」
「何をそんなに驚くことがある」
「善意で服を貸してくれた魅上くん相手に嫉妬なんかして蒲生くんに幻滅されるかなって思ってたから、本当に着てくれると思わなくて」
「そんなことでいちいち幻滅するか。むしろ恋人なんだからもっと嫉妬してもいいくらいだ」
 そう言う蒲生の頬は薄紅色に染まり、彼の心はどこか嬉しそうに感じられる。
 深水はふと、以前大学生の女の子から恋愛相談の依頼を受けたことを思い出した。彼女は恋人が他の女性とも仲良くしていることに焼き餅を焼いていた。そのくらい彼のことが好きであると初対面の深水にもよく伝わってきた。
 きっと蒲生も深水の嫉妬から好意を感じ取ってくれたのだろう。そしてそれを好ましく思ってくれているようだ。
 そうとわかると蒲生を好きな気持ちと共に涙が溢れてきた。
「嫌われなくてよかった……
「こんなことでいちいち泣くな。俺は深水が思っているよりもずっとお前のことが好きだから、もっと自信を持て」
「うん、ありがとう。ぼくも蒲生くんのこと大好き」
「わかってる」
 深水は涙で滲んだ目を拭うと視界がはっきりとしてくる。蒲生の顔は照れて赤くなっているものの、いつものムキになったような表情ではなくこちらに優しく笑いかけてくれていた。心を感じようとせずとも彼が本心を伝えてくれたとわかり、ますます彼のことが好きになる。
 それから改めてまじまじと蒲生の格好を見ると自身のカーディガンを着た姿に胸がときめく。普段は色が暗めな服を着がちな蒲生が彩度の明るいカーディガンを羽織ることで印象が変わり、袖が少し長くて手が若干隠れているところが愛らしい。そしてなにより彼が自分色に染まってくれたような気がして気分が高揚した。
「何ニヤニヤしてんだ」
「蒲生くんがぼくのこと好きって言ってくれたのもぼくの服を着てくれたのも嬉しくて」
 喜びが自然と顔に出てしまっていたようだが、深水は隠そうともしなかった。むしろ自分の心の全てをもっと知ってほしいとすら思っている。
 蒲生はそんな深水を見て恥ずかしくなったのか、顔をさらに赤く染めて顰めっ面になった。
「俺はもうパトロールに行くからな。……一応聞いておくが、そろそろカーディガンは返した方がいいか?」
「ううん、その姿はぼくにだけ見せてほしい気持ちはあるけど、蒲生くんはぼくのものってアピールしてほしいからそのまま着て行ってくれると嬉しいな」
「さっきまであんな態度だったくせに急に明け透けに言い過ぎだろ」
 蒲生はぶつくさ言いながら鞄を持って玄関へと向かう。深水は見送るという名目のもと、深水の服を着た蒲生をいつまでも見続けていたいがために後に続いた。
 蒲生は靴を履き終わりドアノブに手をかけようとしたところで深水の方に振り向く。
「それじゃあ行ってくる。これからの時間家の中も少し冷えるから深水も代わりのものを羽織れよ」
「うん、心配してくれてありがとう。行ってらっしゃい」
 深水は蒲生に指摘されるまで自身が薄着であることを忘れていた。気分が高揚していたためか寒さを感じていなかったのだ。
 それでも心配かけないよう、蒲生が家を出た後に代わりのカーディガンを取り和室に戻る。いつの間にか雲はなくなり部屋は橙色に染まっていた。