水瀬
2025-12-23 20:34:00
3089文字
Public ボツ夢など
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シルバーくんを誘う話

片思い中のシルバーくんをイルミネーションに誘う話。
※全年齢向けの為pwなし
シルバーくんは口下手だけど何だかんだ気に入った(無意識)相手には世話を焼くタイプだと思ってます。

ナマエ コトネちゃんからコガネのイルミネーションの話を聞いた時、真っ先に思い浮かんだのがシルバーくんだった。シルバーくんと見たい、最初に見るのはシルバーくんとがいい。
 だからわたしはコトネちゃんと別れるなりポケギアをさわる。ソワソワする手つきでシルバーくんの名前を探し、呼吸を整えて胸のドキドキを落ち着かせる。でも鼓動は大きくなるばかりで抑えるのは難しく、結局ええいっと勢いでシルバーくんに電話を掛けた。シルバーくんに電話をする時はいつもこうだった。
 もっとも、シルバーくんが電話に出てくれることは滅多にない。だからわたしの勇気はいつも肩透かしを食らう事になる。今日も繋がる先は、聞きなれた留守電だ。
「あ、えぇっと、ナマエです。あのね、イルミネーション、コガネで今イルミネーションをやってて、それっを、あの……シルバーくん、見に行かない? だから、えーっと、かっ考えといて!」
 コール音を数える間に考えていたスマートなセリフは、喋り始めた瞬間に全部吹き飛んだ。
 直接喋るのは何ともないのに、電話になると、こと留守電になると妙に緊張しちゃう。偶然と幸運と気まぐれで教えてもらったシルバーくんへの電話が平気になるのは一体いつになるだろう。



 そんなこんなで必死に掛けた電話は、一晩経っても何の返事もなかった。とは言え全然電話に出てくれないシルバーくんは勿論返事だって稀にしか返してこない。それにあの伝言だとわざわざ返事をしない可能性だって高い。
 つまり、これはいつも通りの事で、通常運転で、日常ではあるんだけれど、だとしても、遊びの誘いにも無反応なのはちょっと寂しい。だってわたしはシルバーくんとポケモン勝負だけじゃなく、ただ遊んだりお出掛けしたいから。わたしにとってシルバーくんは友達……ううん、友達よりも特別な存在だった。
 気持ちがどんよりと沈んでゆく。このまま地面を潜ってそのまま世界の反対側に飛び出して行きそうだ。でも、こんな事で凹んでたらシルバーくんの友達はやってられない。シルバーくんは人付き合いに興味がないんだから。
 わたしはしょんぼりする気持ちを抱えながらめげずにメッセージを送る、『しぜんこうえんで特訓中』と。こうやって何処でトレーニングしているかを伝えると、時々シルバーくんが顔を出してくれる。会えさえすれば、ちゃんと誘えるし、この落ち込んだ気持ちも元気に回復できる。
 そんな期待を胸に特訓に励んで、励んで……気付けば辺りはすっかり暗くなっていた。恐る恐るポケギアを確認する。
 シルバーくんからの返事は、ない。
 何も、ない。電話が掛かってきた形跡も、メッセージも、ない。
 どれだけ確認しても、やり取りは更新されない。
……シルバーくんの、ばか」
 胸の中に溜まってゆく苦しさを誤魔化すように、ずぶずぶと心が泥沼に沈むのに抵抗するように悪態をつく。足元のヒマナッツが小さな体をめいっぱい反らしてわたしをじっと見上げる。大きな目の中に写る自分は今にも泣き出しそうだ。
 そんな時だった。
「誰がバカだ」
 聞こえてきた声にハッとして振り返る。シルバーくんだ。シルバーくんが目の前にいる。そのシルバーくんは眉間にしわを寄せてフンッと鼻を鳴らした。
「シ、シルバーくん!? な、なんで……
「おまえが此処にいるって連絡してきたんだろ」
 それはそうだけど、そんなんだけど!でもこんな遅い時間に来るなんて想定外なんだもん、ちょっとくらいびっくりしたって許してよ。
「おい、何ぼけっとしてんだよ」
 けれどシルバーくんはお構いなしにわたしの手首を掴んでぐいっと引っ張る。シルバーくんの冷えた指先がわたしの肌から熱を奪って、胸がキュッとなった。
 しぜんこうえんにはいくつかバトルコートも用意されている。シルバーくんが向かっているのもその一つ、コガネ側の出口付近にあるバトルコートだ。
「あ、あのシルバーくん」
 まさかとは思うけど、今からバトルをするつもりなんだろうか。わたしはポケギアから意識を逸らす為に全力でむしとり大会に参加して、その後もいつも以上に真剣に気合いを入れて特訓をしたから、今からバトルをする気力なんて残ってない。
「あのシルバーくん、今日はもうバトルは無理って言うか……
「はあ? おまえ何言ってんだ。今から行くんだろ」
「い、行く……?」
「イルミネーション。だから今日はここで夜まで特訓してたんだろ」
「えっ、いや、たいようの石が欲しいから、むしとり大会に参加しようと思って……ほら、ヒマナッツを進化させたくて」
「は……
 シルバーくんが口を開けたまま固まる。わたしも固まる。
 つまり、えっと、どういう事? もしかしてシルバーくん、わたしを迎えに……
「──ッ、帰る!!!」
 大きな声と共に手を弾かれた。出口はすぐそこだというのにシルバーくんは反対側の出口に向かって大股で歩き出す。赤くなった顔は一瞬で背を向けられて隠れちゃったけど、赤い髪の隙間からちらりと覗く耳は髪と同じくらい真っ赤に色付いている。
「あっ、ま、待ってよシルバーくん!行く!行くから!」
 慌てて追い掛けて今度はわたしがシルバーくんを捕まえる。触れた瞬間シルバーくんの体が小さく跳ね上がって、怒った顔がこちらを向いた。そう簡単にはなびいてくれない黒の瞳が忙しなく揺れている。
 焦って、慌てて、恥ずかしがるシルバーくんは、何だかとっても可愛くて、同時にそのドキドキがわたしにも伝わって体中が熱くなる。

「あのっ、一緒にイルミネーション、見に行ってくださいッ!」
 バクバクと煩い心臓を胸に抱きながら真っ直ぐにシルバーくんを見つめる。シルバーくんは鋭い視線で睨み返してきて、しばらくにらめっこ状態が続いて、けれど徐々にシルバーくんの眉が下がってきて、そうしてついに、
「勝手にしろ」
 ぷいっ、と顔を背けたシルバーくんがまたコガネ側の出口を目指す。わたしもその隣についていく、シルバーくんに隠れてこっそりガッツポーズを作りながら。シルバーくんは口は優しくないけれど、本当はすごく優しいんだ。
……それ、早く離せよ」
 シルバーくんが掴まれた腕を揺らす。追いかけた時に掴んだまま、離すタイミングを失ってわたしがぎゅっと握っていた。
 ここが、そのタイミングだ。離さなきゃ。
 でも、でもせっかく掴んだその手を簡単に離したくない。だってこのままイルミネーションを見に行けたなら。そんな我がままが抵抗を試みる。
「あ、で、でも、人多いし、はぐれちゃう、かも」
 それらしい口実を並べてみるけどシルバーくんがじーっと不振そうな目を向けてくる。流石に子供じゃないからこの言い訳は無理すぎたかも。あはは、と苦し紛れに笑って誤魔化すけれどシルバーくんの表情は変わらない。ただ、
「はぐれるのはオレじゃなくておまえだろ」
 そう言ったシルバーくんはフンッと鼻を鳴らして手を振り払って、中途半端に開いたわたしの手をぎゅうっと握りしめた。
「ボサっとするなよ、さっさと行くぞ」
「え、えっ、ぇえッ?」
 握った手を引っ張られる。シルバーくんの足はコガネ側の出口を向いている。あっ、と気付いた時にはしぜんこうえんの出口はもう目の前にあった。
 こうえんを出ればすぐに煌めくコガネが見えてくる。目指すイルミネーションもすぐそこにある。
 けれど一番眩しいのは隣のシルバーくんで、この日一番輝いた思い出も一緒に見るツリーではなく今この瞬間だった。