白殊皎(しらよし こう)
2025-12-23 20:00:00
2425文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

誘う先は天か地か

FGO【歳勇/土近(としいさ/ひじこん)】
着流しの近藤が思った少しのところ。

物凄く久しぶりの二臨近藤さんのお話。
最近黒剣ちゃんばっかりでしたからね……。
二人とも、ブリ大根は食べ損ないました。

「やぁ、お邪魔しているよ。歳」
「あんたならお邪魔じゃないさ」
 なんでこう燃費の悪い自分が連れ回されるかと思うが、土方が微少特異点の調査から戻ると、部屋では黒の着流し姿の近藤が、ゆったりと紫煙をくゆらせていた。
 戦闘時邪魔とばかりに脱いでいる片袖は流石に直していたが、それでも少し寒そうに見えないこともない。
 秋の仕様くらいに整えてあるとはいえまだ部屋に暖房はない。
 煙草盆が付いた角火鉢があるだけだが、火は入っていない。
「寒くないか、近藤さん。炭をおこしてこよう」
「ん? 別に大丈夫だけどね」
「俺が寒い」
 苦笑して炭斗すみとりに幾許かの炭を入れ部屋を出る。
「土方じゃねぇか、どうした? 腹が減ったか?」
 厨房に行けば、ビーマが笑って出迎えてくれた。
「少し火をもらいたくてな」
「へぇ、珍しいな。まぁ、ちょうど火は使ってる。好きに移してってくれ」
 今は便利なものだ。
 特にこのカルデアの設備なら炭など熾さなくてもボタン一つで暖かくなるのだが、近藤のためには効率は悪くても昔なじみのある方法を取りたかった。
 炭斗の中の炭を井桁に組み、その中央に燃えやすい材質に移した火を置く。
 ぱちり、と音を立てて炭が徐々に赤くなる。
「上手いもんだな」
 ビーマが土方の手元を覗き込み感心したような声を漏らす。
「それほどでもないさ。──こんなこと、忘れてた」
「忘れてた、ってことは思い出させるきっかけがあったってことだろう? よかったじゃねぇか」
 あの別嬪さんだろう、とビーマは笑ってみせる。
「違いない」
 十分に炭に火が移り、土方は立ち上がる。
「ありがとよ」
「おぅ。今日の夕食、おすすめはエミヤ自慢の鰤と大根を煮付けたもんだ。お前らそういうの好きだろう? 待ってるぜ」
「それはいいな、あとで来るよ」
 ビーマに礼をいい、厨房を後にする。
 廊下から外を眺めれば、何も変わらぬ真っ白な景色。
 土方はぶるり、と身を震わせた。
 寒いわけではない。
 その景色が、いまの近藤の姿と重なりあの日の光景を思い出させた。



──十二月だった。
 底冷えする京であの傷は堪えたことだろう。
 自分が剣を握れなくなったことに、どれだけ失望をしたことだろう。
 そこから徐々に狂っていく土方じぶんを、どんな思いで見ていたのだろう。



 物思いに耽りつつ部屋に戻る。
「近藤さん、お待たせ」
「あぁ、ありがとう、歳」
 長火鉢に炭を移すと、近藤はそっとそれに手をかざした。
「暖かいな」
「やっぱり、寒いんだろ」
「おまえが傍にいてくれないと、ね」
 近藤はとろんとした瞳で土方を見遣ると微笑んだ。
 それはまるで先ほどまでの感傷の続きを見せられているような心持ちになる。
「近藤さん」
「なんだい?」
 長火鉢を挟んで向かいに座り、土方は近藤に向き直る。
「もう、俺は間違えたくねぇ。だから──この先、お互いに隠し事は一切なしだ」
 この姿をしていても、この姿がどんなにあの時に似通っていようとも、この姿の近藤は戦えない訳ではない。
 それを自分の中で改めなくてはなるまい。
「あぁ。それは私もずっと思っていたよ」
 ことん、と煙管をおいて近藤も土方と正面から向き合った。
「この姿を見るおまえの目が、辛そうなのはわかっていた。だから、今日はわざとこれで待たせてもらったんだ」
 それがいけないのかな、と近藤は苦笑した。
「なんでも、言わなくてもわかってくれると、そう思うところから、私達のすれ違いは始まっていたのかもね……
「あぁ……
「それと、ちょっとしたやきもちだ」
「?」
 真面目なところから、かなり話が飛んで土方は疑問符を浮かべる。
「最近、おまえ黒の剣士に入れあげてるだろう」
「はぁ?」
 自分の別側面をまるで遊女か何かのように言うものだ、と土方は思った。
 入れあげるも何も、同じ近藤なのだから、そこに何の差があろうか。
「隠し事は、なし。だろう? 私の正直なところだよ。浅葱の羽織も、黒の剣士も、おまえに上手く甘えるのに、私だけがね」
 少し寂しいのさ、と再び煙管を手に取った。
「なんだよそれは」
 くくっ、と土方は喉の奥で笑った。
 自分の申し出で、どんな深刻な話になるかと身構えていればこれだ。
「ほら、笑う。私には一世一代の告白なんだよ」
 頬を微かに染めて近藤は拗ねたように視線を逸らした。
「すまん、そんな嬉しい言葉があんたから聞けると思ってなくてな」
 土方は向かいから立ち上がり、その痩躯に寄り添う。
「どうすれば、機嫌を直してもらえる? こうか?」
 言いつつ、煙管を取り上げ自分の口に含むと、フッと近藤の顔に煙を吹きかけた。
……いきなり色男になるんじゃない!」
 そのあまりに艶のある仕草に、今度は頬を真っ赤に染めて、ぺちん、と空になった右手で土方の頬を叩いた。
「あんた限定だ。他の誰にもこんなことはしねぇよ」
 そう囁いて赤いその頬に唇を寄せる。
「その誠意、ちゃぁんと見せてもらうからな」
 煙管を取り返し、火を落とした近藤は、指でつ、と土方の唇をなぞった。
 土方はその手を取るとかぷり、と指に食らいつく。
「泣かせても、恨みっこなしだぜ?」
「その辺りは手加減してほしいかな……
 色男の次の悪童のような仕草を見ても、胸の内がなにやら疼く。
 もう自分はこの男の手の内に落ちているのだと思うしかなかった。
 土方は炭をつついて灰を落としたあとそれを火消壺に移した。
 火の始末まで様になるその姿に、完敗だと近藤は思った。
「これでよし」
 そうして土方はそっと近藤の肩を抱く。
「移動するか」
「あぁ」
 互いに身を寄せ合い寝台にもつれ込む。
「私だけを、見ていておくれ」
 そっと囁く近藤に、土方は囁き返した。
「最初から、俺はあんたしか見てねぇよ……