萌音
2025-12-23 04:33:30
3448文字
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Souvenirs de Noël

2025/12/21 リオヌヴィプチにて頒布した無配です。
クリスマスマーケットを楽しむ二人が見たくて書きました。イチャイチャしてます。

「話には聞いていたが、圧巻だな」
「うむ。人々の活気に満ちている。リオセスリ殿、あのツリーを近くで見てみたいのだが」
「ああ、行こうか。あのツリーがこのマルシェの一番の目玉みたいだ」
初めてモンドを訪れるのに、この季節にしたのはやはり正解だった。今は待降節の真っ只中。街中が優しく灯る光の装飾に彩られ、ノエルをイメージした赤と緑と白のカラーリングがモンド特有の木組みの建物によく映えている。この地が発祥とされるマルシェ・ド・ノエル(モンドでは別の言い方があるそうだが)はフォンテーヌでも賑わいを見せているが、最古とされるこのマルシェはフォンテーヌ廷のものとはまた違った雰囲気と賑わいを見せている。
旅行という状況か、それともこの時期特有の特別感によるものか。はたまた、どれだけ時を経ても、どこにいても、好奇心旺盛という彼の種族の性質によるところだろうか。普段は冷静な恋人も気分が高揚しているようで、先程から目に映る景色の一つひとつに感嘆の声を上げながら、忙しなく動き回っている。
賑わう屋台を横目に、広場の中央に設置された大きなサパン・ド・ノエルを目指す。
「大きいな。天然のもみの木をまるっと一本切り出してるらしい」
「フォンテーヌでもこれ程大きなものは見たことがない。森林資源が豊かなモンドだからこそ成せるものなのだろう」
ツリーに灯る装飾の光を反射して、ロマリタイムフラワーの瞳がキラキラと輝く。それはまるで星空を映すグレートフォンテーヌレイクの水面のようで、思わずため息が溢れる程に美しかった。
ーー可愛い。愛おしい。恋人になる前も、そして恋人になってからも随分とこのヒトを見つめて来たが、こうして新たな土地でまた新たな反応を見せられると、堪らなくなる。まだまだ知らないこのヒトに、すぐ隣で出会えることができる喜び。俺だけが知っているこのヒトの表情。これからも、俺だけが見つめていきたい。
ツリーもそこそこに、隣に居る愛おしいヒトを盗み見れば、ヌヴィレットさんはツリーを見上げながら、ほうと感嘆の息を吐いた。その息は白く、気温の低さが窺える。一年を通して穏やかな気候であるフォンテーヌとは随分と異なり、ドラゴンスパインという雪山を背負うこの時期のモンドは非常に冷え込む。この寒さで、透けるように真っ白なヌヴィレットさんの肌は、頬だけでなく耳や鼻先まで赤く染まっていた。
思わずその頬に触れる。まるで俺が扱う氷元素のように冷え切っていた。温めるようにそのまま頬を掌で覆う。
「如何した?リオセスリ殿?」
「頬も鼻も真っ赤だ。やっぱり耳当てや手袋も用意した方が良かったんじゃないかい?」
「新たに仕立てたこのコートで充分だと思ったが……ふむ。確かに末端はやや冷えるな」
そう言いながら、ヌヴィレットさんは俺の手に自身の手を添え、俺の掌に頬を擦り寄せた。白魚のような美しい指先も真っ赤で、ひんやりとしている。
この旅行の出立前にヌヴィレットさんは千織屋で保温性に優れた新しいコートを仕立てていた。店主の趣味か採寸に同行していた元・水神様の趣味かは不明だが、仕上がってきたコートは真っ白でフードや袖口にファーが誂えられた〝可愛らしい〟ものだった。これがまたこの煌びやかなマルシェ・ド・ノエルの景色と絶妙にマッチし、赤い鼻先も相まって大変可愛らしく見えるーーのだが、気温の変化にあまり強くはないこのヒトをこのまま凍えさせる訳にもいかない。他の防寒具の用意を強く勧めるべきだったと、仕立て上がったコートをお披露目してくれたヌヴィレットさんの雪の妖精のような可愛らしい姿に舞い上がって気もそぞろだった自分を悔やんだ。
「何かあったかいものでも飲んで、暖を取ろう」
「ああ」
ヌヴィレットさんの頬を覆う俺の手に添えられた、冷たい手を取る。そのまま俺の手ごと、ヌヴィレットさんの手を俺のコートのポケットに突っ込んだ。ヌヴィレットさんは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにその頬を緩ませた。暖を取るという名目もあるが、こうして人前で触れ合うことを承諾してくれたようだ。
そのことに気を良くしていると、ヌヴィレットさんはさらに身を寄せるようにこちらへ一歩近付いて来た。かと思えば、ポケットの中で俺の指にほっそりとした指を絡ませて来たのだ。今度は俺が驚く番だった。思わずヌヴィレットさんの方を見れば、珍しくしたり顔をしている。
ーー可愛い。いつぞやナタののんびりリゾートを二人で訪れた時もそうだったが、ヌヴィレットさんは存外、旅先では羽目を外すタイプのようで。フォンテーヌでは避けがちな人前での身体的な接触に対しても寛容にーーむしろ積極的で、普段よりも幾分が密着度も高くなる。俺としてはありがたいことこの上ない。
それもそうか。今はフォンテーヌで人目を忍んで会うような状況ではない。ここには俺達の素性を知っている人間はまず居ない。今の二人は大切な恋人とホリデーシーズンを楽しむ、ただの恋人同士、ただのリオセスリとヌヴィレットなのだ。

可愛い恋人の思いがけない行動に驚かされつつ、さて、と気を取り直して、先程は素通りした木製屋台の数々を見渡す。華やかで愛らしいツリーのオーナメントや雑貨を販売する店と共に、モンドの郷土料理や焼き菓子、暖かな飲み物を提供する店舗が所狭しと並んでいる。
「ここで良いかい?」
「もちろん」
目についた一つの屋台に立ち寄る。流石はかの有名な醸造所があるモンドだ。グリューワインを始め、各種ホットカクテルやホットビール等、温かいアルコールメニューが豊富だった。
「いらっしゃいませ。何になさいますか?」
「グリューワインをひとつ。それとこのヒトには……
手っ取り早く暖を取るには温かい酒が一番だ。自分の注文を終え、酒があまり得意ではない(普段飲み慣れない為分解に時間を要するだけで、決して弱い訳ではないと彼は言うが、それは酒に弱いということではないのだろうか)ヌヴィレットさん用のメニューを見繕う。
酒のメニューが多いが、ノンアルコールのものもあるはずだ。先程小さな子供のいる家族連れがこの屋台で買い物をしているのを見て、ここを選んだのだ。あの子は何を買ってもらっていたのだろうか、嬉しそうにカップを覗き込んでいたのを思い出す。
残念ながらヌヴィレットさんが好む白湯は取り扱っていないが、ホットレモネードやスパイスを加えたホットアップルサイダー、コンソメスープやコーンポタージュなんかのスープ類もある。スープなら腹にも溜まるし、コンソメスープはヌヴィレットさんも好んでよく口にしている。
ノンアルコールのメニューを示しながら、ヌヴィレットさんに尋ねる。
「ヌヴィレットさん、何にする?」
「彼と同じものを」
……の、ノンアルコールのタイプのものを頼む」
「グリューワインがお一つ、キンダープンシュがお一つですね。少々お待ちください」
注文を承った旨の店員の言葉を聞いて、ほっと胸を撫で下ろす。ぶどうジュースを使ったグリューワイン風の飲み物、キンダープンシュなるもある様で、メニューを隅々までチェックしておいて良かったと思う。隣からは不服そうな雰囲気と視線を感じたが、俺は見て見ぬふりをして支払いを済ませた。

「ノンアルコールでなくとも良かったのだが」
キンダープンシュに口を付けながら、不貞腐れたようにヌヴィレットさんは言う。
「あったかい酒は酔いが回るのも早いからな。外で呑むのは避けた方がいい」
「君と一緒なのだから、例え酩酊状態になったとて、問題ないのでは?」
納得いかないとでも言うように、心なしか頬が膨らんでいる様に見えて、大変可愛らしい。それだけ信頼を寄せられ、無防備な御身をも預けられると彼に思われているという事実が、面映い。けれど。
「せっかくの旅行なのだから……
「せっかくの旅行だからこそ、さ」
「と、言うと?」
「酩酊状態になって、記憶を飛ばされでもしたら堪ったもんじゃない。せっかくの特別な時間なんだから、俺との思い出、ぜーんぶ覚えておいてもらわないとな?」
二人で見たツリーも、人目を気にせずに身を寄せ合い分け合った体温も。この後のベッドの中でのことも、全部。もちろん、俺は忘れるはずがないけれど。
寒さとはまた別の理由で赤くなっていく頬を横目に、俺はスパイスの香りが漂う熱々のグリューワインに口を付けた。
                 END.