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沙里
2025-12-22 23:29:57
1568文字
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王の戯れ
やみつな(未満)
――
視線を感じる。
綱紀は、あ、と串に刺された肉に齧り付こうと開いた口を閉じて、視線の主へと視界を動かした。
闇の王を自称する男がじっと見ている。肘をついて、人間が小動物を観察するような、そういう眼差しで。
「
……
あの、そのじーっと見られるの、落ち着かへんのでやめてもろてええですかね
……
?」
綱紀の言葉に、悪びれるどころか何も感じるところもないという表情のまま、好奇心の視線は向けられる。
時折見せる上位存在らしい態度に、些か背筋のうすら寒い感覚をおぼえつつも、綱紀は声を荒げるわけでも、縮こまるわけでもなかった。それが彼の性格だったのか、御堂家の教育の賜物であったのかは定かではない。ただ、どこか慣れた口調で「何か用ですか?」と尋ねた。
「人間は手間がかかるのだな、と思っただけだ」
食物を口にするという不必要な存在の、好奇心のコメントに、人間である綱紀は「はぁ
……
」と困惑を表情に乗せた。
「まぁ、そう言われたら
……
そうかもしれませんね」
ざっと火を通して味付けされた肉を齧る。フライパンで焼いたそれよりも香ばしくはあったが、上品とは言い難い。旅路の食事など贅沢はできないもので、故郷の味を懐かしく思いつつ、固めのそれを少しずつ噛みしめた。
(
……
甘辛のタレなんて、どないしたんやろ)
美味いけど、と指先にたれたソースを舐め取り、視線から逃れるように思考をどこかへ巡らせる。
肉がもともと何の形をしていたのかだとか、付け合わせのサラダの植物はどこで引っこ抜いてきたのかだとか。そういう感傷はもうとっくに通り過ぎてしまった。考えすぎると口に入れることに躊躇いを覚えてしまうのだから、それが一番良い手段だった。
闇の王が言うように、人間が生きていくには手間がかかる。だから、綱紀は深く考えることはやめにして、変わらず、いただきます、と手を合わせるだけにした。味の良かったものは「また食べたい」とリクエストすることはあったが、連接世界の行先によるので二度と巡り合えない美味もまた、存在した。
かつての美味、珍味に微かに思いを馳せつつ、ちらりとだけ視線を向ける。
(めっちゃ見てくるやん)
相も変わらず、闇の王の紅い視線は綱紀を捉えている。
暇なのだろうか、暇なのだろうな。
と思った綱紀は、気にしない気にしないと内心で唱える。そう思ったところで、刺さるような強い視線に気づかないほど、鈍感にはなれなかった。
変な緊張の度合いに、口に入れたものの味がだんだんわからなくなってくる。
勿体ない、という気持ちで綱紀は「あの」と再度クレームを申し出るべく顔を上げた。
「あ、え
……
?」
いつの間にか眼前に整った顔。驚きに瞬きをする暇もなく、何と疑問を口にすることも出来ず、綱紀が身体を強張らせていると、くちびるにほど近い場所に触れられた。ぬるりと肌を何かが這う感触に、喉の奥で「ひぇっ」と小さく悲鳴がつっかえた。
「な、な、なにしてはりますの!?」
ワンテンポ遅れて飛び跳ねるように後退る綱紀に対し、王は悠然と微笑んだ。
「味見をしてみただけだ」
ついていた、と己の口元を指でさして、満足げに頷く。
「なるほど、意外と悪くない」
楽しげな彼に対し、綱紀は顔を赤く染めながら「信じられへん、もう
……
!」と拗ねたように怒りを表明した。
「あきませんからね、そういうのは!」
机があったなら、バシバシと叩いていたであろうテンションで告げる。シウグナスは「わかった」と頷いてから、綱紀のくちびるをするりと奪った。あまりにも自然な動きであり、悪びれるなど微塵もなく、さも当然であるという行動に、何一つ対処できなかった綱紀は、すべてが終わってから、
「あかんって言うたやないですか!!」
と叫ぶのだった。
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