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77nairo
2025-12-24 23:00:00
1366文字
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どこ行く? なにしてる? なに食べる? 12/24
「イブに予定がないなんて初めてだな」
一之倉がつぶやいた言葉はビル風に飛ばされて、隣を歩く長身の男には届かなかったらしい。紺色のチェスターコートの背中を丸めて、松本がこちらに耳を寄せてくる。
改めて口に出そうとすると先程の言葉には棘があったような気がして、一之倉はセリフを改変して声を高くした。
「どこ行こっか?」
「どうするかな、クリスマスイブに行く宛がないなんて初めてだもんな」
せっかく改変したセリフを松本があっさり口にしたので、一之倉は拍子抜けした。まあでも、当然の言葉かもしれない。山王工業高校に入学した年から二十年以上、二人のクリスマスの予定は考えるまでもなく決まっていた。ウインターカップだ。
山王はここしばらく全国優勝からは遠ざかっていたけれど、それでも秋田県内では最強であり続け、クリスマスイブかイブイブにはウインターカップ一回戦に臨むのが常だった。それが、今年はとうとう、県大会で敗退した。
一之倉も松本も、そしてたぶん他の山王の同期たちも、一回戦の日は毎年、県大会の結果が出る前に予定を空けている。二十年以上ぶりに降って湧いた予定のないクリスマスイブをすっかり持て余して、二人はなんとなく千駄ヶ谷の駅前で待ち合わせ、東京体育館前を通過し、国立競技場や神宮球場の間を通り抜け、すっかり丸裸になっているいちょう並木をくぐり、青山通りをぶらぶらと歩いているのである。
クリスマスイブとはいえ、師走の平日の日中だ。道行く人たちはほとんどが何かしらの仕事中で、忙しそうにしていた。携帯で話しながら歩く女性は、あいさつ回り用と思しきカレンダーの詰まった紙袋を下げている。オフィスビルの一階に入っているコンビニの前では、トナカイの着ぐるみを着た青年がチキンとケーキを売り込んでいる。大きなカートを押して走る運送会社の人はなんと半袖だ。そんな中、デートとも言い難いぶらぶら歩きの男二人はなんだか場違いな気がする。
「
……
松本は子どものころのクリスマスって何してた?」
「バスケ」
「まあ、だよなぁ」
バスケは冬がシーズンだ。学校が冬休みに入ったら、練習や試合で一日中ボールを追いかけるのがミニバスでも中学のバスケ部でも当たり前だった。ということは、一之倉と松本は、二十年どころか三十年以上もバスケ漬けのクリスマスを送ってきたことになる。
交差点に差し掛かったところでびゅうっと一際強い風が吹き抜けて、一之倉は首をすくめた。松本の腕が肩に伸びてきて、引き寄せられる。カシミヤのコートの袖は暖かく、無意識に力んでいた肩や背中がほぐれていく。
そのとき、ふいにビルの銘板が目に入った。
「神社」
「え?」
松本の腕の中で首を巡らせて見上げると、松本はこちらの言葉にピンと来ていない様子で眉間にシワを寄せていた。
「神社。日枝神社」
「ああ
……
赤坂山王か」
松本も銘板に書かれた地名に気づいたのだろう、一之倉の肩を抱く手に力がこもった。
「いいな、行こう。神社、今日は空いてるだろ」
「お参りしたら何か食おう。何がいい?」
「きりたんぽ鍋!」
「えー、赤坂にあんのかなぁ」
二人の笑い声は白い息になって風に飛ばされていった。ビル群よりずっと高く広がっている空に雲は一つもなくて、からりと青く澄んでいる。
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