本丸の景色は、季節の風景を映像で投影してできている。温度や湿度も管理されている。現世は環境破壊で荒れており、本丸や万屋街が存在する時空の狭間には、かつてのこの国の四季があるのだ。
だから、季節の花も美しく咲いているように見える。実際にはそれも投影したホログラムなのだが。
幼い審神者も、そんな幻像風景の本丸の中で刀剣男士たちと生きている者であった。そしてそんなある日のこと、季節は夏の終わり。審神者の少女が中庭の隅でうずくまっているのを、通りがかった大和守安定は気づいた。
「……どうしたの? 主」
「ううう〜」
「わ。泣いてるの?」
「やすさだぁ。朝顔、しんじゃった……」
「朝顔? 死んだ……?」
大和守安定はくるりとあたりを見渡す。ホログラムの綻びはどこにも見えない。ふ、と審神者の影に隠れていた場所を見ると、茶色に褪せた、おそらく植物……だったもの。
「本物の朝顔だ……」
乾いた蔓、散った花、それは紛れもなく、朝顔であった。
「あのね、あのね……万屋街の、骨董屋のおじいさんからもらったの」
「あの狸の妖怪から? へえ……」
「でも、しんじゃった……」
「主、暦の上では夏ももう終わるんだよ。ここの風景も、もうすぐ初秋のものに変わる」
「そうなの? そんなの……さみしいよ……せっかく大切に育ててたのに……ずっとお花、さいてると思ってたのに……」
「ずっと咲く花なんて無いよ」
「そんなのやだー!」
少女は跪いた大和守安定に抱きつき、彼の背中をぽこぽこと叩いた。むずがる彼女を抱きしめ、彼は思案する。
そう、ずっと咲く花なんて無いのだ。先代の審神者のように。かつての主のように。何もかも、永遠なんてない。いずれ枯れて朽ち果てる。
大和守安定は目の前の枯れたそれに目を向ける。すると、あ……と彼から声が漏れた。花が咲いていた場所に、丸い茶色が実っていた。そしてそれは微かに割れており、黒い粒が見え隠れしている。──種だ。ホログラムの花にはないもの。
「……主、見て」
「ひっく……なあに?」
「これ、主が育てた朝顔の種だよ」
「……ぐす、種ってなに」
「花がまた咲くための繋がり。花の赤ちゃん。これがあれば、花は枯れてもまた育てられる。ずっと咲く花はないけど、ずっと繋がる花はあるんだよ」
「……また、朝顔、みられるの?」
「うん、来年の夏にね」
「……そっかあ……」
ぷつりぷつり、と大和守安定は種を取り出す。それを見ていた審神者は「あの時埋めたやつだ!」と高い声を上げた。どうやら、幼い少女の中で点と点が繋がったらしい。
「安定、この種、もっといろんなところに埋めたい」
「いいけど、ちゃんと水上げるんだよ? 蔓のための竿もその分用意しなきゃ」
「うん、うん。いっしょに買いに行こ」
「ふふ、良いよ」
嬉しそうに、審神者は大和守安定にぎゅっと抱きつき、大和守安定は彼女を抱き上げた。
「ずっと繋がるって、うれしいね。安定」
「そうだね、僕は……あなたのことも花の種だと思ってるよ」
「お花じゃなくて?」
「うん、あなたはあの人から生まれた種。これから咲くんだ。僕は、それを見守るんだよ」
「……! うれしい! 安定だいすき!」
「僕も大好きだよ」
愛しげにぎゅっと抱き合う。ずっと咲くはなはない。だが、ふたりの間に愛の花は確かに咲いていた。それだけは、夏が終わっても変わらなかった。
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