紫よか
2025-12-22 13:24:57
1526文字
Public 刀剣乱舞
 

泥んこいたずらレディ

大和守安定×蕚 いたずらっ子と大和守安定

「きゃーっ! 安定、やーっ、ぎゃーっ!」
「女の子がぎゃーっなんて言わないの」
「ぎゃーっ、ぎゃーっ!」
「こらっ! 暴れない」

 がしがし、ごしごし。と大和守安定は審神者の体を、髪を、力強く石鹸を含ませたタオルで洗っていた。審神者の少女が彼の腕の中から逃げようとする。すると、ぬるりと石鹸ですべって、風呂用の椅子から落ちて尻餅をついた。

「いたい……
「ほら……だから暴れないのって言ったでしょ」
「はあい。でも安定力つよいんだもん、いたいんだもん」
「あ……それは、ごめん」
「女の子だからぎゃーっなんていわないよ、だから安定も女の子には優しくすること! うてな、もう立派なレディなんだから!」

 泡だらけの指で、審神者はちょんと大和守安定の鼻をつついた。

 いつからこんなにおませなことを言うようになったのだろうか。大和守安定は心の中でため息をついた。この少女が審神者に就任してから、もう数年が経つ。まだ彼女の身も心も幼いものであったが、それでも就任当時とはずっと成長した。しかし、彼にとっては審神者はまだまだ子どもであった。少なくとも、体を洗うことを許しているうちは。
 そもそも何故こうなっているかというと、雨上がりの泥でぬかるんだ中庭で跳ねて遊んでいたことが原因である。どんなに口が達者になっても、まだまだ、子どもなのだ。

「いやまだレディではないでしょう」

 だから、こんなことを言ってしまう。大和守安定という刀剣男士は。
 すると、審神者の少女はその濡れたオパール色の髪をぶんぶんと横に振り、不機嫌そうに───いや、不機嫌なのだろう。泡まみれのまま内番着姿の大和守安定に飛びついた。

「安定のっ、ばかーっ」
「うわっ」

 もちろん、その程度で体勢を崩すほど大和守安定の体幹はやわではなかったのだが、すっかり服が濡れてしまった。先ほど鼻についた泡がこちょこちょとそこをくすぐり、彼は緩慢な仕草で鼻を拭う。審神者の近侍の加州清光が見たら「何やってんの……」と呆れるような様だ。

「ごめんごめん、機嫌直して」
「安定の今日のおやつ、ぜんぶ食べちゃうんだから」
「あっそれはダメ、健康に悪いよ」
「むーっ」
「ほら、流すよ」
「安定なんてきらいきらい」
「嫌いは嘘でしょ」
……うそだけど」
「ほらね」
「じゃあ安定はずるいずるいだ」
「嫌いとかずるいとか、どこで覚えてくるんだか」
「演練場に行くとみんないってるよ。うてなと同い年くらいの子たち」
「教育に悪い……

 桶に入れたぬるま湯を、今度は優しく少女の体にかけていくと、少女は足をぱたぱたさせ、くすくすと笑った。

「くすぐったいよー」
「我慢我慢」

 大和守安定は、できれば審神者の彼女には周囲の有り様に汚れず無垢のままでいてほしかったのだが、どうやら生きている以上そうはいかないらしい。それでも、まだ自分が守ることができているうちは、こうして白い裸の身を清めることができているうちは、彼女を守りたいと思っていた。泥で汚れた体を洗い落とすように、外の世界のざらついたものからも守りたかった。

「安定、かんがえごと?」
「あ、ううん。何でもないよ」
「出よー」
「あ、もう……拭いてあげるから」
「うん! ねえおやつ、クリーム大福食べたい。ずるいずるいな安定の分も」
……仕方ないな、半分あげる」
「やったあ」

 お互いにびしょびしょになって、浴場を出る。他の刀……それこそ、近侍である加州清光ならもっと器用に洗えるだろうが、それはそれとしてこの仕事は自分のものでありたい。この子を守るのは、自分でありたい。

 それが、彼なりの愛であったのだ。