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千代里
2025-12-22 07:22:27
8372文字
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ラハとエリンの話
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独占欲/譲れないもの【ラハ光♀】
――
ドガンッ!
空間そのものが割れたのではないかと思うほどの轟音。次いで響く地響きに、エリンは一瞬途切れていた意識を現実へと引き戻す。
「エリン、危ない!」
先を行っていたスフェーンが、振り向くものの時すでに遅し。彼女の顔は危難を察してか、暗い洞窟の中でもわかるほどに青ざめていた。
同時に、上から何かが落ちてくる気配。慌てて顔を上げれば、紫電を纏った落石がエリンの視界を埋めようとしていた。
(あ、まずい)
何かしなきゃいけないとまではわかるのに、今日に限って思考が鈍い。手に握ったステンドグラスを模した杖を掲げて、魔法障壁を生み出すべきか。そう思った矢先、
「エリン!」
視界が、白い光の翼で覆われる。エリンの魔法ではない。それは、彼女と落石の前に割って入った赤毛の青年
――
グ・ラハ・ティアのものだった。
彼の生み出した盾に阻まれ、落石は盾に激突し、砕けて小さな岩塊となる。その間、ラハは腰を低く落とし、光の盾を翳して、踏ん張り続けていた。
更なる落石が続かないことを確認してから、ようやくラハは盾を下ろす。自分の背に守った少女へと振り返ると、
「無事か、エリン」
「あ、ありがとう
……
ラハ」
常ならばそこで終わるはずだったが、彼女のわずかな姿勢の変化をラハは見逃さなかった。
「手を見せてくれるか。さっきので怪我をしたんだろ」
エリンはしばし躊躇したが、やがて観念したように背中にさりげなく隠していた手を見せた。破片が当たったのか、赤く腫れた患部にラハが癒しの魔法をかける。
「
……
ごめんなさい、余計な手間をかけさせてしまって。さっきも、ぼうっとして迷惑をかけちゃった」
エリンにしては珍しい、鬱屈した謝罪に、ラハは眉を寄せる。
「珍しいな、あんたがそんなふうに言うなんて。それに、普段ならオレに任せる前に自分でさっさと治していただろうに」
「えっ。そ、そうかな」
「その動揺はあやしいな。もしかして、何かあったのか?」
二人の様子を確かめるため、先を歩いていたスフェーンやクルルも戻ってきて、ラハたちのやり取りを心配そうに見ている。
「な、何でもないよ。本当に、大したことじゃ」
「大したことってことは、何かはあるんだな? ヤ・シュトラ。エリンを見てくれるか?」
後ろから追いかけてきたヤ・シュトラは、ラハに促されてエリンの手を取る。脈を測り、顔を上げさせてその顔をじっと見つめてから、
「あなた、もしかして具合が悪いのではなくて? いつもと比べてエーテルが少しだけ乱れているようね。それに、足取りがほんの少し普段と違うわ」
「暗くてわかりづらいけれど、唇の色も悪い気がするわね」
ヤ・シュトラとクルルから立て続けに言われて、エリンの目が分かりやすいくらいに泳ぐ。
それを正解と見てとったスフェーンは、目を見開くと、ガバリと頭を下げた。
「ごめんなさい! もしかして、私が誘ったから無理して来てくれてたの?」
「そういうわけじゃないよ。私も第九世界に興味はあったもの」
エリンは、スフェーンの頭を上げさせる。
「それに、こんな危険なところにスフェーンたちだけで行くなんて聞いたら、気が気じゃなかっただろうから」
それでも気遣わしげな視線を送り続けるスフェーン。これは下手な誤魔化しは意味がなさそうだと、エリンは白旗をあげた。
「
……
ちょっと気分が悪いのは事実だけど。これは、ここに来てからのことだから。スフェーンが私を誘った時は本当に、元気いっぱいだったんだよ」
現在、一同がいるのはエリンたちが暮らす原初世界ではない。彼らは、アレクサンドリアが元々あった第九世界にいた。アレクサンドリアの外にも生き残りの人がいるのではないか、彼らと接触することで新たな情報を得られないか、と考えた末の行動だ。
第九世界出身であり、案内役でもあるスフェーンは、クルルたちの他にエリンこと英雄の同行も求めた。単純に戦力として頼もしさを感じたが故の軽い気持ちからの誘いだったが、無理をさせてしまったのではとスフェーンは危ぶんでいた。
「第九世界に来てから具合が悪くなったのか? 雷属性のエーテルが悪影響を及ぼしてるのかもな
……
」
「えっと、そういう深刻なものじゃなくて
……
飛空艇に乗っている時から
……
なんか、お腹のあたりがもやもやして
……
軽い吐き気が
……
」
学者の顔になって検討を始めたラハに、エリンはおずおずと言う。
「
……
それってつまり、飛空艇に酔ったってこと?」
クルルの要約に、エリンは躊躇しつつ頷く。
「
……
だと思う。急流下りは平気だったのに」
以前、王位継承戦のためにウクラマトたちと共に急流を下ったことをエリンは思い出していた。あの時は、船が苦手なウクラマトが派手に酔っていたが、エリンはけろりとしていた。
だが、スフェーンには思い当たることがあったらしい。
「雷のエーテルがあんなに渦巻いていたところを通ってきたんだから、エリンが気持ち悪くなるのも仕方ないよ」
「空を飛ぶときの乗り物は、船とは違う揺れがあるようだったからな」
スフェーンとラハから励まされ、エリンは複雑そうな顔をしている。だが、頭の奥にあるなんとも言えない不快感と、お腹の底から湧き上がる吐き気はいまだに継続中であり、無理をすれば先ほどのように皆の足を引っ張ると、彼女自身がわかっていた。
やむなく、近くの岩に背を預け、なんとか体裁を保とうしたものの、
「それなら、少し休んでから進みましょう。それでいいかしら」
「うん、私は構わないよ」
クルルの提案にスフェーンは頷いたが、
「待って。雷属性の強い場所は、スフェーンがかかっていた病にも悪影響があるかもしれないんでしょ。急いだほうがいいよ」
「それはそうだが、あんたが不調なのに無理に先を急いで、見たこともない魔物に不意を打たれたらどうするんだ」
ラハからの至極真っ当な反論に言葉に詰まり、
「そうね。酔いを落ち着かせる薬があるから、飲んでから少し休んでいるといいわ。ラハとクルルに、この先の様子を見てきてもらいましょう。それなら時間の無駄にはならないでしょう?」
ヤ・シュトラにあっという間に丸め込まれ、彼女の差し出す小さな薬瓶を受け取るエリン。一息で中身を飲み干すと、エリンは大層渋い顔をした。
「
……
それ、大丈夫なのか?」
「すごい味がしただけ。それよりもラハ、先に行くなら気をつけてね」
「もちろんだ。だけど、あんたこそ無茶をするんじゃないぞ。動かずに、しっかり休んでいるように」
そう言われて、エリンは珍しく眉を寄せる。普段から無茶の上に無茶を重ねるような男に、無茶をするなど説かれるのは、何やら納得しかねるものがあった。
「
……
いつも無茶をするのはラハの方じゃない。私は弁えてるもの。ラハみたいに徹夜しないし、闇色シロップのお世話にもなってないもん」
「あのなあ。今はそういう話をしているんじゃないって、あんたなら分かってるだろ」
こんな所で拗ねても仕方ないとは分かっているのだが、どうにも船酔い以外の胸のムカムカが収まらない。自分が思うように動けずに、代わりに皆に負担をかけているという状況が、エリンにとっては予想外の精神的な苛立ちを与えていた。
もっとも、エリンはその理由を的確に把握できるほど冷静ではなかった。
「光の加護があるから、私はこの環境でも平気みたいだもの」
「加護を過信するんじゃない。光のエーテルを取り込みすぎて、あんたが罪喰いになりかけてるのを見ていた時、オレがどんな気持ちだったか」
「でも、だったら加護もないのに光の力を奪おうとしたラハの方が無茶してるじゃない! 私がどんな気持ちでそれを見てたと思ってるのっ」
「あの時はあんたを守るためにそれが最善だと思って
……
!」
「ラハくん、大好きな恋人への積もるお説教は後にして、そろそろ行くわよ」
クルルにズボンを引っ張られ、ラハはエリンへのお説教を中断する。さりげなく混ぜられた『恋人への』という言葉の破壊力に押されたのか、心なしか顔が赤い。
「と、とにかく、あまり無茶するんじゃないぞ!」
最後にそれだけ言い残して、赤毛の彼の姿は遠くなっていった。
少しずつ遠くなっていくラハの背中を、エリンが唇を尖らせて見送っていると、
「愛されているわね、エリン」
不意にヤ・シュトラから爆弾発言を投げ込まれ、そのまま凍りつく。
「あれ、その反応はもしかして
……
。じゃあ、さっきクルルが言っていた恋人への、というのは本当に?」
最初こそ、仲間内の冗談だと思っていたらしいスフェーンは、青かった顔が少し赤くなったエリンを見て、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
ヤ・シュトラのせいで力が抜けたのか、それとも飛行船酔いがまだ続いてるからか。エリンはへなへなとその場に腰を下ろし、膝を抱えて、その中に顔を隠してしまった。
「エリンと彼とは、その、恋人の関係
……
ってこと?」
介抱ついでに隣に腰を下ろしたスフェーンであったが、その名と同じ色の瞳は心なしかキラキラ輝いている気がする。
それでいて、もしよかったら、とソリューションナインから持ってきた金属製のボトルを差し出してもくれていた。中に入れた液体の温度が変わらないという不思議な作りのボトルは、温めたお茶を入れておくのにうってつけだ。
「恋人
……
って、はっきり言っていいのかわからないけれど
……
」
顔を上げたエリンは、ありがたくボトルを受け取る。蓋を開くと、心が落ち着くハーブの香りがふわりと漂う。暖かな飲み物は、船酔いに翻弄されていた体にじっくりと染み渡っていった。
「でも、特別な関係であることを互いに認め合ったと聞かされた覚えがあるわね」
「特別な関係
……
」
スフェーンに繰り返されて、エリンの顔は湯気が出そうな程に赤みがさした。
「二人がそんなにも親密な間柄だったなんて、私、気が付かなかったよ。これまでの私が、二人の邪魔をしていないといいんだけど」
スフェーンが己を振り返り始めたので、エリンは「そこまで気にしなくていいよ」と照れくさそうに呟く。
「私が、ラハとずっと一緒にいたいと思って、ラハも私と同じ気持ちだってわかって
……
お互いに、その気持ちを諦めないって決めた関係ってだけだから」
「十分、恋人と言っていい関係だと思うのだけれど、エリンはいつもそう言うのよね」
「でも、すごく素敵な関係だと思う。キミのような人にそんな風に思われるのは、彼にとってもすごく嬉しいし、光栄なことなんじゃないかな」
スフェーンの素直な称賛の言葉に、エリンはボトルを持ったまま、照れも相まって俯いてしまう。幸い、船酔いの気持ち悪さは話題のおかげで気にならなくなっていた。
「でも
……
.でも、ね。時々思うんだよ。私、結構、嫌なやつなんじゃないかなって」
「どうしてそんな風に考えるの?」
隣に座るスフェーンは、さりげなくエリンの背中に手を回し、そっと撫でてくれた。気持ち悪さを気にして、というよりも、エリン自身の乱れた気持ちを気遣ってくれたのだろう。
「いろいろ理由はあるよ。私、ラハが他の女の人
……
特に同族の人と話してるところを見ると、ムッとしてしまう時があるから。それに、光の加護があってこうして皆を助けられる力があったから、ラハは私を気にしてくれてるんじゃないかって
……
そんなことないのに、そう思うこともあって。さっきだって、ラハのことを心配したいだけなのに、売り言葉に買い言葉になっちゃった」
そうして、様々な失敗の後に一人でいじけてしまう自分が嫌だ、とエリンはボトルを額に押し当てる。
普段のエリンならまず吐かない弱音だが、船酔いというごく普遍的な苦しみを味わったためか、それともそのせいで足を引っ張ったと思っているからか、今日のエリンはいつになく落ち込み気味だ。
「つまり、あなたが言う『嫌なこと』は、彼に向ける独占欲ということね。それも、恋には必要なものなのではなくて。昔のサンクレッドのこと、あなたも知ってるでしょう?」
かつて、サンクレッドは女性の間を渡り歩くような人物であった。だが、彼に特定の誰かに対する強い独占欲のようなものはなかったようだ、とエリンもすでに知っている。彼自身、それらの女性とは恋人とは捉えていなさそうだった。
「ヤ・シュトラはそう言うけど
……
」
「そうだなあ。でも、私は持っているよ。エリンの言うところの『嫌な気持ち』」
いきなり隣に座るスフェーンからそのように言われて、エリンは思わずボトルから顔を離して、まじまじと彼女を見つめてしまう。
四百年の時を超え、自分がいた国とはいえ、自分が覚えている人は誰もいない上に国の在り方もガラリと変わった世界でも、民のために女王としての役割を果たした高潔な女性。それがエリンから見たスフェーンの姿だ。
年相応の茶目っけこそあるものの、そのような俗っぽい感情が宿っているとは到底思えず、エリンは驚きを隠せずにいる。
「スフェーンが独占欲を持ってるなんて
……
一体誰に?」
「あ、特定の誰かってわけじゃないの」
緩やかに首を横に振り、スフェーンは続ける。
「もし、私が目覚めたのが四百年後じゃなかったら。もう少し早く目覚めていたら。民の顔は皆私が知っている人たちで、それなのに彼らが先王の私を女王として受け入れていたら。
……
私は、先王を妬んでいたかもしれない」
エリンの背を撫でる手を止め、スフェーンは目を細める。
今でも、ソリューションナインの人々は、時々先王スフェーンの姿を思い出し、偲んでいる。しかし、それを見てもここにいるスフェーンは落ち着いて対処をしていた。
だか、それはソリューションナインの人々とスフェーンがかつていたアレクサンドリアの間に、時代的な隔たりがあるからだとスフェーンは言う。
「私は王様になったけれど、まだまだ幼くて、できないことも分からないことも多かった。オーティスやゼレニア
……
他にも頼りになる大人たちに支えられて、何とか王様の形を保てていたんだと思う」
彼女にとって至らないところも多数あったのだろう。
エリンたちはスフェーンの生前の記憶を追体験したことがある。だからこそ、彼女の苦味が混じった笑みに含まれた意味がわかってしまった。
「そんな私でも、国の人たちのことは
……
私の民のことだけは、私こそが誰よりも愛してるって、それだけは譲れないって思うの。私が唯一、皆へと持てる特別な気持ちで、誰にも譲れないものだから」
それもまた独占欲の一つの形なのだろう。
多くの人々に支えられた王様が唯一皆に返せた思いは、同時に民を導くのは己であるという誇りでもあったのだ。
「この気持ちは、これからも変わらないと思う。私が一番に皆の心配をしたいし、私が一番皆を愛してるって言い張りたいんだ」
これが自分の独占欲だとスフェーンは言い切る。
「
……
なんだかすごいな。スフェーンのは、独占欲っていうより、とても立派な決意みたい」
「でも、特別に独り占めしたいって気持ちってことには変わらないよね?」
スフェーンはエリンの手からボトルを受け取り、そっと彼女の手を取る。スフェーンに導かれるようにして、エリンはゆっくりと立ち上がった。
「エリンが彼に向ける気持ちも、特別なものなんだよね。その気持ちが溢れてしまった時、彼への迷惑になってないか不安なら、彼に聞くのが一番だと私は思うよ」
「スフェーンの言う通りね。人の心を完全に分析できるのは不可能よ。だったら、本人に確認するのが最も手っ取り早いわ」
言いつつ、ヤ・シュトラはチラリと進行方向の暗がりを見やる。折しも、そこからラハとクルルが戻ってきたところだった。
「二人とも、首尾はどう?」
「洞窟の敵はあらかた片づけておいたわ。エレクトロープの採掘場のような施設があったの。まだ新しいもののようだし、ひょっとしたら使っている人がいるのかもしれないわ」
「本当?! じゃあ、すぐに確かめないと」
エリンが俄然やる気を見せるものの、近づいてきたラハの姿を見て、ぺったりと耳を頭に貼り付ける。
「もう具合はいいのか?」
「うん。ヤ・シュトラのおかげで。それと
……
あのね、ラハ」
小さく深呼吸をしてから、エリンはゆっくりと頭を下げる。
「さっきは助けてくれてありがとう。具合が悪いこと、黙っててごめんなさい。あと、心配してくれたのに喧嘩腰になってしまって、それもごめんなさい」
ラハは突然の謝罪に瞳をパチクリとさせる。しかし、程なくしてふっと口元に笑みをひき、
「さっきのやり取りを、ずっと気にしていたのか? オレが、そんなことであんたを嫌いになるわけないだろ」
ラハはカラッとした笑みを見せ、エリンの頭にポンと手を置く。
「でも、あんたのことはきちんと心配させてくれ。もう、あんたを二度と失いたくないんだ」
「
……
うん。でも、それは私もだからね」
「ああ」
ラハの短い頷きに、ようやくエリンの顔から強張りが消える。
二人の間に和やかな空気が流れ
――
しかし、どこからか感じる視線に二人はハッと我に帰る。ここは宿の個室でもなければ、人気のない路地裏でもない。すぐそこにいる仲間の存在を思い出し、二人の目が仲良く泳ぐ。
「と、とにかくだ。今は先を急ぐ必要もあるし、後でゆっくり話せないか?」
「そ、そうだね! そうしようか」
そうは言いつつも先ほどのやり取りはすでに周囲にも筒抜けで、クルルもヤ・シュトラもスフェーンも、何やら微笑ましいものを見守るような視線で二人を見つめている。
彼らの優しげな視線を受けて、エリンはラハの髪の毛と同じくらい真っ赤になってしまっていた。
「ごゆっくりと言いたいところだけれど、雷属性のエーテルのこともあるから、先を急ぎましょ。ラハくんは残念かもしれないけれど」
「それもそうね。二人がせっかく道を開いてくれたのだもの。魔物が再び通路に出てくる前に急ぎましょう。あなたにとっては残念かもしれないけれど」
「ああ、もう! 二人とも揶揄わないでくれ!」
魔物を呼ばない程度に声をあげて、年上の女性陣二名の追撃を回避しようとするラハ。エーテルで作った剣で、びしりと進行方向を指すと、
「それじゃあ、前衛のオレが先に行くから、みんなは後ろから援護をする。最初の陣形と同じでいいか?」
「うん。お願いね、ラハ」
「ああ、まかせてくれ。どんな敵だってすり抜けさせないさ」
強く請け負ってから、ラハはズンズンと前に行く。少しばかり尻尾の振りが大きいのは、照れ隠しもあるのかもしれない。
気を取り直して、エリンが杖を握り締め、歩き始めたクルルたちの後を追いかけた時だ。
「ねえ、エリン」
「スフェーン?」
「もし、彼がエリンのことを面倒な子だ、なんて言い出したら、その時は私が君の特別に立候補しようかな」
「えっ」
唐突な申し出に、エリンは尻尾をぼんっと膨らませて硬直する。
「今の私は、これでもアレクサンドリア連王国の王様だから、キミには王妃になってもらうことになるのかな。あれ、この場合は王配?」
「えっ、ちょっと、スフェーン、何を言ってるの
……
!?」
すると、スフェーンはいたずらっ子のように目を細めて、エリンの柔らかな髪の毛を撫でる。
「私の恩人を不安がらせる悪いお兄さんへの牽制、だよ」
「もうっ。そんなことをしなくても、さっきのスフェーンのアドバイスがあれば大丈夫だもの」
「それもそうだね。あれ、ライバルに花を与えることになっちゃったかな」
「スフェーンがライバルになったなんて聞いたら、ラハが驚いて、尻尾がまんまるになっちゃうよ」
その姿を想像したのか、スフェーンはころころと笑い声を上げる。
だが、すぐに魔物の唸り声を聞いて、二人の表情は引き締まった。
「スフェーンのお妃さんにはなれないけれど、スフェーンの故郷のこと、私はもっと知りたいな」
「もちろん。この世界のこと、いーっぱい案内するね」
エリンに笑いかけつつ、スフェーンは腰の魔道書に手をかける。先を行くラハを守るためにエリンが杖から防護の魔法をを送っているのを目にして、彼女は思う。
(
……
少しだけ、キミが羨ましいかも。グ・ラハ・ティア)
こんなにもひたむきな思いを持つ人に、想い続けられる。
それはどんな宝石や金貨よりも尊い、何よりもかけがえのない宝なのだろうと、かつて玉座に座り最も貴き存在として扱われた貴人は思うのだった。
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