ゆうり
2025-12-22 01:07:15
3366文字
Public
 

早い話が解釈違い。

2ヶ月ぶりのヘクジェラ短文をリハビリ的に打ったのでとっ散らかってる自覚はあります。
両片想い以前のすれ違い。

おかしい。
確かにあの日あの時あの場所であの人は、自分の所まで降りてきて、跪いた自分の目線に合わせて、自分の力を望んでくれたはずなのに。
どうして今、こんなにも避けられているのか。

父である皇帝と兄である第一皇子という身内を亡くし、若くして皇帝の地位に就いたジェラール陛下に過去自分⋯ヘクターがどれだけの不敬を働いていたのかは自分自身が良く分かっている。
だからこそその不敬について赦されたその時の事も誰よりも自分が1番記憶に鮮明であるはず。
だが今の状況はそれが夢か幻だったのでは無いかと疑ってしまう状況だ。
自由契約で直接帝国に仕えている訳では無い傭兵という立場柄、何時いかなる時も危険と隣り合わせである皇帝の近辺の警護に当たる事も多く、故に今まで近寄りもしなかったジェラールの身近にいる事が増えたがジェラールは必要最低限の事しかヘクターと話さず顔も合わせようとしない。
たまにちらりとヘクターの方を見る事もあるし、何なら何かを話し出そうとしている仕草は見せるが開いたと思った口もすぐ諦めたかのように閉ざされてしまう。
ただ確かにジェラールの第二皇子時にはヘクターはあれだけ辛く当たっていたのだからその頃の事を考えればジェラールの反応はおかしくないのかもしれない。
それでもあの日のジェラールの、ヘクター自身の力を請われたあの時の事を思い出すともう少し自分を信用してくれても良いのでは無いかと思うのだ。


「なんであの日のように俺と目を合わせてくれないんですか⋯!?」
臣下がこんな行動に出るなど流石のヘクターも無謀な事だと理解っている。
解っているが納得は出来なかった。

皇帝の執務室においての皇帝の警護中。扉の外には衛兵たちもおり、皇帝の署名の済んだ書類を近臣が該当部署に回す為に席を外し一旦の仕事の区切りが出来た事もあってジェラールは私的な読書をしようと考えたのか本棚の背表紙をなぞっていたその時。
どうも1番上の棚の本の詰め方がきつかったらしく取り出すのに苦労していたジェラールの背後からヘクターが近付きこれですか?と言いつつ本の背表紙に触れていたジェラールの指にたまたま触れた所、異常なまでの反応を見せてジェラールに距離を取られた。
「あ⋯っ!ご、ごめん、ヘクター!」
ヘクターが触れてしまった指をもう片方の手で包み込んで、あの日見たはずのどこまでも広がる新緑の瞳は伏せられて、けぶるような豊かな赤毛に表情すら隠されてしまう。
こんなに近くに侍れるようになったのに、それをあんな事をした自分に許してくれたと思っていたのに。
どうして今また否定されるのか。何なら自分たちの仲が険悪だったあの時以上に。
ヘクターは感情が高ぶるままにジェラールによって包み込まれた先程触れた方の手を強引に引き寄せ、先程触れ合った場所である本棚にジェラールを身体ごと押し付け自分自身の身体で逃げられないようにする。
最近は戦いの前線に立つ事も増えたとはいえジェラールの成人男性としては小柄な身体は十分隠されてしまい、その顔には突然の事で呆気に取られた表情から押さえつけられる不快感と恐怖がありありと出ていた。それでも聞きたかった、確認したかった。ヘクターの事を極力見ようとしないジェラールの考えを。


「あの⋯ね⋯」
ヘクターの行動を無碍にできないと思ったのかジェラールがか細い声で応えだした。
それでもまだ顔は上げてはくれないし、目も合わせようとしない。
その目が見たいのに、前を向いた晴れた明るい笑顔が見たいのに。
思いを叶えようとヘクターは空いた手のひらでジェラールのこめかみ辺りの髪に触れ、そのまま頬ごと顔を引き上げるとジェラールの顔が真っ赤に染まった。
「あの⋯!あの⋯ちょっと⋯⋯!!」
触れた頬が赤く染まったそのままの熱を伝えてくる。ついでにその柔らかさと、肌のきめ細やかさまで。
だが今のヘクターにそこを気にする余裕は無い。
「俺の事見てください。こんなに近くにいるのに頼ってもくださらない。やっぱり前に俺が貴方にした事は許されないって事ですか?」
事実それでもおかしくない事はしているのだから。
皇帝を継承したジェラールの許しがなければヘクターは良くて国外追放、悪くて首と胴体が離れていた可能性だって否定は出来ないくらいの事を。
切羽詰まったヘクターの状況に気が付いたのか焦りを見せていたジェラールの様子が落ち着いたかのように変わった。そしてヘクターの目を正面から見据えて伝えてくる。
「それは違う、あの日あの時君から受けた謝罪で私は全て許しているよ。どちらかと言うと私自身の問題なんだ。その、なんと言ったらいいんだろう⋯」
ヘクターの欲しかった返答は貰えたがジェラールはまたもやもやと口篭り、ヘクターに顔を抑えられているので下を向かないにしても目線を明後日の方に向けている。
「許す許さないは別として俺の顔が見苦しいので見たくない、とかそういう⋯?」
そういう意味合いでのジェラールの拒否であるならまだ耐えられるかもしれない。
ただすぐに受け入れられるかといえば全く支障がないわけでもない。
ただジェラールへの忠誠心に変わる所はないのでそんな気に入らない面でも少し我慢して貰えないかと思う。自分の素材の美醜にそこまで頓着した事の無いヘクターだったがこの歳になってこんな気持ちになるとは思ってもみなかった。
今度は落ち込みそうになるヘクターにジェラールが慌てて弁明してくる。
「それも違う!ヘクターは素敵だと思うよ!ただ⋯私に優しく笑いかけてくれるヘクターが⋯その⋯解釈違い過ぎて⋯」

解釈違いとは。

理想と現実の差に違いを感じるという事だろうか。
ジェラールに対して優しく笑うヘクターがジェラールにとっての解釈違いを生み出しているという事は、要するに。
「貴方に対して厳しく接して不平不満をあからさまに顔にする俺が貴方にとっての当たり前の俺って事ですか⋯?」
そうヘクターが答えれば目を丸くしたジェラールがこくりと頷く。
ヘクターは出来る事なら過去の自分を殴り倒しに行きたかった。



そもそもの原因が自分にあった事によるジェラールの反応という事で自分で自分を殴りたいとまで呟き出したヘクターはジェラールによって執務室の片隅に置かれたソファーに座らされている。
目の前には皇帝陛下が手づから入れてくださった紅茶が柔らかく湯気を立てて置かれていた。
向かいのソファーにはヘクターの悩みの種だった皇帝陛下の姿。
「ごめん、君をそんなに落ち込ませるとは⋯私が君の変化に柔軟に慣れていたら良かったのだけど⋯」
そう言ってジェラールは申し訳なさそうにするが、ヘクターとジェラールの関係を険悪なものにしていたのはヘクターの1人のせいだという自覚はある。ジェラールは自分の特性を自覚した上で努力していた事にも盲目な自分には何も見えていなかっただけなのに。
「いえ、自分のやらかした事を勝手に自分だけ水に流して終わらせてたのが悪いんです。ジェラール様を散々傷つけておきながら全て無かった事にだなんて」
本当に、自分の無責任さに反吐が出る。
最後の言葉はヘクターの口の中に封じ込めたつもりだったが、ジェラールは何となく言おうとした事は分かっているのだろう。苦笑いを浮かべて自分用に入れた紅茶を手に取り1口飲み込んだ。
「私にも悪い所はあるからそんなに自分を責めないでくれヘクター。
目を合わせて貰えない辛さは誰より自分がわかっていたのにそれを君に味あわせてしまったのだから」
それを聞いてヘクターは更に落ち込んだ。それもヘクターの責任でしか無い。
顔を両手で隠して深い溜息を付くヘクターを見てジェラールはくすくすと笑い出したようだった。
「ふふ⋯ごめん、君にもそんな可愛い所があるんだなって。私はちゃんと君に向き合えていなかったんだね。やっぱり私にも覚悟が足りていなかったんだと思うよ」
だから今回の件はお互い様という事でどうかな?とふんわり笑って自分を見つめてくれるジェラールがいるだけでヘクターの中の不安は消し飛んでしまうのだから自分も随分変わったものだと思いつつ、最後に残った憤りを紅茶と共に自分の中に流し込んだ。