2025-12-21 19:08:38
5364文字
Public 支部投稿済
 

【土きり】かぞえ終えても恋の途中

2510。『軍師』後にデキた2人を想定して書いています。
krちゃんがおばちゃん達に感化されて、di先生の好きなところを考えみよう、となる話です。
ある曲にインスパイアされて書いたものになります。後日支部にも投稿予定。多分

 今日も今日とて、近所のおばちゃん達の世間話に花が咲いている。本当に毎日盛り上がっている。
 俺はというと、そんなおばちゃん達の話に混ざることもあれば次のアルバイトがあるからと断ることもある。おばちゃん達も俺が事情があってアルバイトに力を入れていることは知っているから無理に引き止めることもしないのはありがたい。
 そんな今日は野菜売りのアルバイトをした帰りに声をかけられて、おばちゃん達に混ざっている。
 ちなみにおばちゃん達は俺が女装していようがお構いなしだ。『きり丸』にしても『きり子』にしてもおばちゃん達からしたら『きりちゃん』呼びで済むのだから、ある意味便利なもんだと思う。

 おばちゃん達の集まりは一見するとただの世間話の寄り合いだけど、実はなかなかに得なことも多い。たまに帰りに漬物とかの端切れやらを持たせてもらえるし、次のアルバイトも貰えたりすることもある。
 それに何と言ってもおばちゃんたちの話は聞いてて面白い。おばちゃん達から聞いた話をアルバイトでお客さんに話したら大ウケして、バイト代が弾んだことだってある。
 あとこれは本当にたまにだけど、ほんとにびっくりするようなこともぽろっと出てくる。昔おばちゃん達に聞いた話を土井先生や利吉さんに話したら「何でそんなことを知ってるんだ!?」と本当に驚かれたこともある。
 けれど、そういう話はやっぱりほんのたまにで、ほとんどは世間話ばかりだ。中でも一番多いのは、誰と誰が仲がいいだの悪いだの、最近旦那と喧嘩しただのという、恋愛の話。
 ……こっちはこっちで、一緒に住んでる土井先生と〝そういう関係〟になってるなんてもちろん言えるはずもなくて。
 だからそういう話題の時は余計なことを言わないよう、話を振られないよう適当にうなずいて、時々相槌を打つだけにしている。
 そして今日もまた変わらず恋愛の話で盛り上がっている。今日はおばちゃんの一人が「旦那と喧嘩した」って愚痴を話し出したのをきっかけに、みんなそれぞれの旦那さんの文句を言い合う流れになって、しまいには「何でアタシあの人と夫婦になったのかしら」と言い始めた。
 けど、そこで別のおばちゃんがぽつりと「でも、あの人のああいうところが好きだったのよねぇ」なんて言ったもんだから今度は一転、それぞれの旦那さんの好きな所を言い合う流れになった。いわゆる惚気話だ。
 軽く聞き流していたらいつのまにか『旦那さんの好きなところを十個言い合う』って流れになっていたらしく、おばちゃん達は「難しいわ〜!」なんて言いながら楽しそうに笑い合っていた。

 結局本当に十個言い合ったのかは有耶無耶のまま、今日はお開きになった。おばちゃん達はすっかり気が済んだようで、「きりちゃん今日も話聞いてくれてありがとうねぇ」なんていいながら野菜の切れ端をくれた。
 ……本当に何も言わずに聞いてただけだけど。

 ◇

(好きなところ十個、ねえ)

 長屋までの帰り道、俺はひとりごちる。
 といっても途中まではおばちゃん達が送ってくれたから長屋はもう目と鼻の先だ。
 振り返ってみれば先生の好きなところなんてちゃんと考えたことはなかった。だって先生のことは気づいた時には好きになっていて、……いつの間にか〝そういう関係〟──恋仲、になっていたから。
 別に好きなところが出てこないわけじゃないし、言葉にしたことがないだけで、ちゃんと、ある。………はず。

……せっかくだし、考えてみるか。先生の好きなとこ)

 ちょうどおあつらえ向きに、いい感じの木の棒が道端に落ちていた。
 俺はそれを拾って地面に先生の好きなところを書き出してみることにした。
 声に出すより、こうやって書き出したほうが、少しだけ恥ずかしくない気がしたから。

 まず最初の一個目は、やっぱり【アルバイトを手伝ってくれるところ】。
 ……申し訳ないけどこればっかりは外せない。
 でも、先生はどんな無理を言っても、明らかに先生を頭数として入れて組んだアルバイトを持ってきても、文句は言うけど結局は手伝ってくれる。今こうして振り返ってみると、先生はやっぱり本当に優しい人なんだなと思う。
 だから好きなところ二個目は【優しいところ】。
 ただアルバイトを手伝ってくれるとか学園に居る時みたいに人当たりがいいだけじゃなくて、俺が間違ったことをしたらちゃんと怒ってくれる。たまに俺が落ち込んでいたりしたら話を聞いてくれたり、俺が話したくないってなった時はそれを察してくれて、俺が話そうとするまで待っててくれる。
 俺のことを、ちゃんと見てくれている。

 三個目は【表情が豊かなところ】。
 先生は大人の、しかもプロの忍者の割にはけっこう表情が豊かな方だと思う。よく笑うし、怒るし、泣く。授業中の真面目な顔も、食堂で練り物と戦っている時のあのどんよりしたような顔も、どれも好きだと思う。
 それから四個目が【一流のプロの忍者として強いところ】。先生は人当たりもいいし優しいけど、それでも一流の忍者だ。前に色々あって先生が学園の敵側に回った時は大変なことになったこともある。
 だけど、俺も一流の忍者を目指す以上は土井先生の背中に追いつけるように……いや、先生を追い越すくらいには強くなりたいって思ってる。

 で、五個目が【学園と長屋に居る時のギャップ】。
 学園では優しい真面目な先生って印象が強いと思うし、実際にそうなんだけど、長屋に居る時は正直大分だらしないと思う。
 部屋は散らかってるし、夜中まで本を読んでて夜更かしして、次の日は昼餉の時間になってようやく起きてくることもある。俺が来るまでご近所付き合いもまともにできなかったらしいし、家賃だって何回か払い忘れることがある。
 ……でも正直、学園ではあんなに真面目で何でもお見通しのかっこいい先生なのに、この長屋だとこうなんだ、って思うと、なんていうかちょっと可愛いところがある。惚れた弱味かもしれないけど。
 それに、そういうのを知ってるのが少なくとも学園では多分俺だけっていうのも、なんだか嬉しい。

(今ので五個目だから半分か)

 確かに好きなところは出てきたけど、恋仲じゃなくても成立するものもあると思う。それこそ俺が長屋に来てすぐの頃からアルバイトは手伝ってくれてたし。
 ……もう少し考え方を変えてみるか。

 六個目は【俺が嘘をついても気づくのに、気づかないふりをしてくれるところ】。
 先生は一流の忍者なんだから俺が嘘をついていたら当然すぐわかる。けど、俺が何か事情があって嘘をついているって分かったら何も聞かないでいてくれるし、むしろ遠回しに助けてくれる時だってある。
 逆に俺がこっそり危険なアルバイトにいく、みたいな本当に悪い嘘をついてる時は、本気で叱ってくる。
 でも、黙られても、怒られても、それでも先生の隣がいいと思える。
 んで七個目が、【一緒にいるだけでいいと思えるところ】。
 アルバイトを手伝ってもらうようになったり、布団を並べて眠って、時々長屋のことも手伝ったりして……そんな風に日々の生活を共に過ごすのが当たり前になっていた。
 長屋での暮らしが始まった頃は先生も気を遣ってか、どこかへ遊びに行こうと誘ってくれたりした。もちろん俺にとってはアルバイトの方が大事なので断ったし、先生も無理に誘ってくることはなかった。
 どこかへ出かけるといった特別なことなんてなくても、先生と一緒にいられるだけでそれで十分だって思えた。むしろ今は、そんな時間がいちばん幸せなのかもしれない。

 八個目は、【俺のことを色々な立場でちゃんと見てくれるところ】。
 恋仲になる前、先生から俺のことをどういった目で見ているかを真剣に説明された。俺のことを家族や教え子としてだけではなくて、〝そういった〟関係でも大事にしたいと思ってると、……俺が学園を卒業した後にどうしたいかも、誤魔化さずまっすぐに説明された。
 正直怖くなかったかといえば嘘になるけど、それ以上に先生が俺のことをこんなに大事に思ってくれていることがわかって嬉しかった。
 あと恋仲になったからといっても、先生は「教え子としても大切にしたいから変に贔屓はしない」って言っていたし、「恋仲である前に子どもなんだから、そこは大人に守られるべきだ」ってことも、ちゃんと言葉にしてくれた。
 正直、それを聞いたときはなんかずるいと思った。大人ぶって俺のことを置いていくみたいで。いや大人なんだけど。
 でも、それだけ俺のことを大切にしようとしてくれてるっていうのが伝わってきた。……ずるいし悔しさもあるけど、そのままでいてほしいとも思った。
 で、九個目が【俺の名前を呼ぶ時の声】。
 先生が俺を呼ぶ時の声は、誰よりも優しい。呼ばれるだけで胸の奥があたたかくなる。
 特に長屋で二人きりの時は、優しさに加えて少しだけ甘さまで混じっている気がする。その声が、俺はすごく好きだ。
 学園に居る時に俺を呼ぶ声だってもちろん変わらず優しいけど、この長屋で聞く声はやっぱり特別だと思う。

 これで最後、十個目。
 ……【一緒に帰ってくれるところ】。

 俺が「一緒に帰ろう」と言えば、笑って、一緒に帰ってくれるところ。

 ◆◇

「ぬぁ〜にをやっとるんじゃ、お前は」

 十個書き終えて満足して、立ち上がって足で地面に書いたものを消していたら背後から突然声をかけられて心臓が跳ねた。
 声の主はもちろん。

「ど、どいせんせえ……。」
「まったく、お前の気配は目の前からずっとするのになかなか帰ってこないもんだから心配してきてみれば……。授業の復習でもしてたのか?」
「絶対違うってわかってて聞いてますよね、それ。遅くなってすみません、帰りましょう」
 地面に書いたものが全部消えていることを確認したあと、俺は先生の元へ駆け寄り一緒に長屋へ向かって歩き出した。
 すると、

「好きなところ十個、なぁ」

 先生がぽつり、とつぶやいた。
 それは本当に小さな声だったけど、俺の耳が拾うには十分すぎる大きさだった。
 顔に熱が集まってくるのが、自分でもわかった。

「な、な、な」
「何で、って……。お前の帰りがいやに遅いから様子をみに行ったら、おばちゃん達と話しているのが見えてな。誰も私に気づかなかったみたいだが……。」
 そのまま先生は「せめてお前は一応忍たまなんだから気づいてほしかったけどな。」とこぼす。
 確かにあの時のおばちゃん達はかなり盛り上がっていたし、聞いてるだけの俺でさえちょっと圧倒されるくらいだった。あれだけ盛り上がっていれば自分で言うのもなんだけど気づかなくても無理がないと思うし、わざわざ聞き耳を立てていなくたって、どんな話をしていたかなんてわかるだろう。
 ………本当は先生が気配を消してわざと気づかれないようにしてたんじゃないか、とか思うところはある。けど、今となってはもう、そんなことはどうでもいい。

「きり丸は思いついたか?私の好きなところ十個」
「べ、べつに」
「あ、もしかしてさっきまで地面に書いていたのがそうか?」
 ………わざとだ、絶対。絶対、わかってて聞いている。なんかにやにやしてるし。
「ああ、私だけ聞くのも悪いよな。私もきり丸の好きなところを言うから、きり丸からも私の好きなところを教えてほしいなあ」
 ………正直、先生が考える俺の好きなところ、っていうのはかなり気になる。……けど、それを聞くより先に、俺がそれを教えるっていうのが、何倍も恥ずかしい。
「ああ、この言い方は駄目だったな」
 そう思った時にはもう遅くて。
 俺の気持ちなんて知ってか知らずか、先生はさらっと、追い打ちみたいな駄目押しの一言を続けてきた。

「きり丸。きり丸が考えた私の好きなところ、聞いてあ・げ・る」


 そこからはもう、ある意味地獄のような時間だった。
 帰るなり先生の膝の上に向かい合わせで座らされて背中から抱きしめられ、そのままさっき考えた好きなところ十個を全部口に出して言わされた。更にひとつひとつの理由まで説明させられた。
 顔から火が出るってこういうことを言うんだなって自分でもわかるくらい頬が熱くなった。
 俺の話を聞いてる間の先生はずっと頬の緩みっぱなしの笑顔をしていたかと思えば、謎の真顔になったりもしていた。時々「そぉか〜〜〜〜♡」なんて気の抜けた相槌も入れてくる時もあれば、「……そうか」とだけ言った後、涙を流してそれを小袖で拭いていたこともあった。
 そんな状態なのに、逃げる隙は全てふさがれていた。

「〜〜〜〜〜ッ、先生!!僕、ちゃんと好きなところ十個全部言いましたからね!!や、約束通り先生も僕の好きなところ言ってくださいよ!!!」
 冷静になるとかなり恥ずかしいことを言ってたけど、この時はもうどうにでもなれと、やけくそだった。
「ああ、わかってるよ」
 先生はとびきり甘い笑顔を浮かべて、言葉を続けた。

「きり丸の好きなところ、百個言ってあげる」