みずあめ
2025-12-21 10:31:02
1922文字
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ゆづあい

ワンライお題「忘年会」

年に数回しか会わない人、月に何度か顔を合わせる人、わざわざ今じゃなくてもいい同窓会もどきまで、年末が近づくと忘年会という理由をつけて飲みに誘われることが多く、十二月はもう空いている日を探すのが難しいくらいには予定が詰まっていた。年末進行の仕事を本部総出(当然、芦佳はいない)で片付けて、由鶴と弥代が帰るのを確認する間もなく俺は事務所を出て待ち合わせへ向かう。
平日も土日も関係なくそんな日々を過ごしていたから由鶴との時間が足りなくて、クリスマス目前の週末、午前中だけ会社で作業をすると言っていた由鶴を迎えに行って強引に連れ帰り、玄関を入ってすぐ靴も脱がずに壁に押し付け唇を重ねた。
「あいさん、まって、ください」
「待てない」
「にげないから、おちついて。……ここじゃ寒いですから、中まで行きましょう。ね?」
……由鶴が足りない」
「はい、俺も、逢さんが足りません」
ぎゅうっと抱きしめると同じだけの力で由鶴も抱きしめてくれる。その心地良さに堪らず息を吐き、由鶴の首筋にそっと唇を押し付けた。
ずっと、全部、触れていたい。顔を合わせるだけじゃ足りなくて、言葉を交わせばもっと欲しくなる。お互いに忙しいことを分かっていても由鶴と二人きりで恋人として過ごす時間がどうしても必要だった。いつから俺はこんなにわがままになったのだろう。
「お昼ごはん、何か作りましょうか?」
「いい。今は離れたくない」
……ふふ。かわいい。俺も同じです。……今日、夜は予定がありますよね?」
「面倒臭い……
「そんなこと言っちゃダメですよ。明日の日中は?」
「昼までは空いている。午後から予定があるが……はぁ」
「それじゃあ、今日は泊まっていっていいですか?」
「最初から帰すつもりはない」
「よかった。ここで逢さんが帰ってくるの待ってますね」
……
「直接顔を合わせて話す機会も大切でしょう。俺はいつでも逢さんのそばにいますから」
……わかってる。ちゃんと行く。……まだ、時間はあるから」
……だめ。するのは帰ってきてからですよ」
「どうして」
「可愛い逢さんのこと誰にも見せたくないから。でも、溜まってますよね。いれないで、出すだけなら手伝いますよ?」
由鶴の手が腰を撫で、俺はピクッと体を震わせた。抱きしめたままで距離は近く、その言葉で体温が上がったことすら気が付かれてしまいそうだ。
咄嗟に体を押して距離を取れば由鶴は目を細めて微笑んだ。言葉がなくても、「かわいい」と言われているのがわかる顔。そんな顔をするくせに今すぐには抱いてくれないだなんて意地が悪い。
「軽く昼ごはん食べちゃいましょうか。その後どうするかは食べながら考えましょう。ごめんなさい、お腹空いちゃった」
えへへと笑い、由鶴は俺の手を引いて玄関からリビングへ移動した。もはや断りなく家のキッチンに入る由鶴の手を離さず俺もくっついていき、一緒に冷蔵庫を覗き込む。いつもなら買い物に行く前の週末は冷蔵庫の中がそう多くはないのだけれど、今週は家で食事をとる機会がほとんどなかったから由鶴の昼食を賄えるくらいには食材が入っていた。
じーっと中を確認している由鶴は、きっと頭の中で献立を組み立てているのだろう。もしかしたら夜ごはんの計算も始めているかもしれない。俺は外で食べてきてしまうから由鶴の作った夜ごはんは食べられないけれど。
はぁと息を吐いて由鶴の肩に寄りかかる。わっと驚いた由鶴はすぐに俺の腰を抱き寄せて、優しく「どうしました?」と囁いた。甘えたい時、間違えることなく甘やかしてくれる由鶴が好きだった。まあ、甘えたくない時にだってこの男は甘いけど。
「どうして由鶴がいるのに俺は忘年会だなんてくだらない飲み会に参加しなくちゃいけないのかと」
「ふふ。一年の振り返りは大切でしょう? 今年一年の苦労を忘れて来年もまた頑張りましょうって会ですから、区切りという意味でも良いと思いますよ」
「俺に忘れたいようなことはない」
「あはは、ですよね。俺は、もう忘れちゃいたいくらい大変なこともありましたけど……。でもそれだけ頑張ったってことは忘れなくてもいいかなって思います」
……由鶴のことで忘れたいことも、ひとつもない」
……そういうことなら、俺もですよ。あなたと一緒にいられる時間は一秒だって忘れたくない」
……
由鶴の首筋にぐりっと頭を擦り付ければ、由鶴は優しく笑って俺の髪を撫でた。この歳になると大きな喧嘩や意見のぶつかり合いはそうないけれど、それでも由鶴となら、そんな苦労すら大切な思い出になるだろう。忘れてしまうのはもったいない。
やっぱり、忘年会なんてくだらない。