クリスマス目前ともなれば、普段は通勤通学の人たちが黙々と行き交うだけの駅さえも活気づく。駅前のバスロータリーに植えられたケヤキの木には赤や緑に光る電飾が巻き付いていて、植え込みには金ピカのサンタとトナカイの人形が並んでいた。
そんな浮かれた駅前で一番疲れた顔をしているのが松本で、二番はたぶん一之倉だ。
「……お待たせ。松本、疲れてるね」
「いや、今来たところだ……一之倉も疲れてるな」
きらびやかなイルミネーションが、松本の目の下のクマを照らす。もともと彫りが深くて影ができやすい松本の顔は、げっそりとやつれて見えた。
それでも一之倉が片手に提げたコンビニの袋を持とうと手を伸ばす松本を、やっぱり好きだなと思う。
「大丈夫だよ、大して重くないし。ほら、行こう」
まばゆいイルミネーションに背を向けて、歩き出す。松本の住まいは駅から徒歩十五分のアパートだ。普段はなんてことない距離だけれど、今日の二人にはなかなかの長距離に思える。
「そんなに辛かったの、ケーキ工場」
「ああ……単純作業やってると時間が全然進まなくて……永遠に朝が来ないかと思った」
「三井は? もともとアイツから誘ってきたバイトだろ?」
「一日でバックレた。アイツもウインターカップ観に行くって言ってたから、明日見つけたらぶん殴る」
松本が吐き出したため息が、白いもやになって空へのぼっていく。東京の乾いた冬空には雲ひとつない。
「一之倉はどうだった? コンビニのピンチヒッター」
「ずっとチキン揚げてた。俺、油くさくない?」
松本がぐいと一之倉の肩を引き寄せて、ゆるくウェーブのかかった髪に鼻をうずめた。耳元でがさごそと音を立てるダウンジャケットがこそばゆい。
「確かにいつもと違うにおいだな。美味そう」
においを確認したあとも、松本の手は一之倉の肩を抱いたままだ。さり気なく辺りを見回してみたけれど、駅から離れて人通りの絶えた住宅街で、二人を見咎める目はない。
「店長からチキン持って帰っていいって言われたんだけどさ、もう半年くらいは揚げもの見たくないかも。代わりにビールもらった」
「俺も、ケーキ半額で買えるって言われたけど、遠慮した」
「チキンとケーキ以外かぁ……なに食おう?」
「とりあえずうち着いてから考えるか」
街灯の明かりが、ぴたりと寄り添った二人の影をアスファルトに投げかけている。くたくたに疲れているのに、その影はなんだか浮かれているように見えた。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.