零ミリ
2025-12-21 06:22:50
1565文字
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久しぶりに元カレと話したら友達の家の会社に就職するらしいって

春樹+元カノ 春樹が大学生の時の元カノとの会話 音羽の話題が出ます

 四月の食堂は入学したばかりの一年生で溢れかえっている。あの初々しさは私にとってはもう二年も前だ。
 普段はお弁当だけど、昨日飲み会があったから朝起きれなくて今日は作ってきていないのだ。先に生協の購買に行って好きなものは全て売り切れだったので食堂に来たけれど、購買で妥協すれば良かったと列に並びながら思う。
 カレーを頼んで空いている席を探す。ようやく一人分の空席を見つけて向いの席に座ってる人物の顔を見て「あ」と思った。春樹さん。元カレ。別れてから久しぶりに見た。若干の気まずさはあるものの喧嘩別れではないので、さっさと座りたい気持ちが勝った。
「阿藤先輩、向かいいいですか?」
 別れてからは先輩呼びに戻そう、ということだったので先輩呼びで呼びかける。春樹さんはうどんから顔を上げてこちらの顔を見て一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐに社交的な微笑で返した。
「いいよ、久しぶりだね」
「ですねー」
 私のサークルの先輩が春樹さんのゼミと同じだったのでその縁で付き合った。付き合い始めたのが私が二年生で春樹さんが三年生の初夏。別れたのは年明け。他に気になる人(今の彼氏)ができて冷めてしまったので私から振った。別れを切り出した時はあっさりしたもので、「そっか」と淡々と別れた。学部が違うので講義で鉢合わせることもなく、本当に別れた日以来なのだ。
 座るとお互い無言で向かい合って淡々と箸とスプーンを動かす。春樹さんは無言を特に気にしていないようだけれど、私はなんだか気まずくて喋りかけてしまった。
「先輩、就活どうですか? 私、今インターンどうしようか悩んでて……
 言ってから気づいたが、この人が付き合ってる間インターンに行ったような素振りはなかった。いや、でもそういうことを言わずにしれっとやっていそうな人でもあるし。
 私の質問に春樹さんは箸を止めて答えた。
「俺はインターン行かなかったけど。でも内定は貰ってる」
「え! おめでとうございます。どんなとこですか?」
 続けての質問に春樹さんはちょっと苦笑いして、声音を濁しながら言った。
「音羽のところなんだよね」
 音羽さん。春樹さんの友達だ。中学校以来の友人で家族ぐるみの付き合いだと言っていた。実際、春樹さんから紹介される時に「ほとんど家族みたいなものだよ」と紹介された。
「音羽さんのとこって、なんか小さい会社をやってるんでしたっけ」
「そう。音羽も経営側で入ることが決まってるから四月から友達が上司だよ」
 はは、と軽く笑って春樹さんはうどんの最後のひと啜りをして箸を置く。
「俺はあんま参考にならないけど、インターン頑張って」
 そう言って春樹さんは立ち上がって食器返却口へ向かっていった。後には半分しか食べてないカレーと向かいの空席が残された。
 三限で終わりの日かつサークルの用事もないので、三限が終わると帰宅するためのバスに乗る。ぼんやりと昼の春樹さんとの会話を思い出す。
 そうですか、という気持ちだ。
 春樹さんと半年ほどで別れたのは、正直、音羽さんの存在もある。なんというか、開いてる心の広さが全く違うのだ。私に対してはずっとよそゆきだったけれど、音羽さんにはまるで遠慮がなかった。恋人と友人で違う顔があるのはいい。中学校からの付き合いと会って数ヶ月で同じ存在にしろとは言わない。ただ、私より音羽さんの方がよっぽど心を開いているな、というのを見せ続けられると冷めるのだ。春樹さんは悪い恋人ではなかったけれど、そんなわけで冷めてしまった。
 (あの人、結婚できるのかな……
 音羽さんはなんか結婚できそうだけど、春樹さんは音羽さんが隣にいたままだと結婚できなさそう。
 春樹さんに音羽さんくらい心を許せる恋人ができるといいな、と思った。