パートナーと職場が同じでよかったことはいくつかあるが、休みの予定が合わせやすいというのはいいことの一つだ。モーディスの名義で開いているジムは、個人経営を盾に週に一度の定休日を設けている。その日は当然僕も休みなので、買い物と言う名のデートに出かけることが多い。
休日でも僕たちの生活サイクルはあまり変わらない。今朝も朝食を作り終えたモーディスが部屋に入ってきたかと思うと、目覚ましのアラームが鳴る前にそれを止め、布団を引っ剥がし、僕のパジャマを有無を言わさず脱がせる。
「これを着ろ」
そう言って今朝はシャツを着せてくる。はいはい、といつものことなので抵抗する気もなく傍に置かれていたボトムを履き、ベルトを通す。そうしている間にモーディスがシャツのボタンを締めてくれて、頬にキスをしてくれる。場所が違うだろ、とすかさず唇にキスをするが、モーディスはそれに笑うだけで「早く来い」と僕の手首をぐいっと引き、朝食の席へ僕を引きずって行く。
デートに行く日のモーディスはいつも以上に上機嫌だ。そう言うところは可愛いが、服装の自由がないことだけはたまに不満だった。好きな服を着ると八割くらいの確率で「デートに行く気があるのなら今すぐにその服を脱げ」と大抵のことはなんでも許してくれる、僕に甘いはずのモーディスらしからぬ冷たい声と視線が返ってくる。だからここは言うことを聞いておく方が着替えの手間が発生しなくていい。
まだ眠くて仕方がないが、ずるずると引きずられて席につき、用意されている朝食に口をつける。今朝はバナナ味のプロテインとブロッコリーと鶏肉を茹でたもの、フルーツ入りはちみつヨーグルトだ。減量期でもないのに、とちょっとがっかりしたが、甘すぎるプロテインドリンクを朝から飲まずに済んだのは素直にありがたい。モーディスは料理上手なのに甘党すぎて時々味覚についていけないところがあるが、「甘すぎる」と訴えても何故かこれだけは治らない。
さておき、今日はモーディスが新しいトレーニングウェアを見たいと言うので、それに付き合う予定だった。自宅から車で一時間ほどの大型ショッピングモールは大抵の物が揃っているので、買い物にも食事にも困らない。
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赤いタンクトップとハーフパンツ、ジョギング用のパーカーを新調したモーディスに薦められるまま僕も何着かウェアを買い、会計を終えて店を出ると、先に支払いを終えて店外で待っている筈のモーディスの姿がなかった。あれ、と思いつつスマフォを確認すれば、「B24を見に行っている」とメッセージが入っていた。
フロア案内図から指定された数字の振られた場所を探し、エスカレーターで一つ上る。上がってすぐのはずだよな、と少し周りを見渡し、すぐにモーディスの姿を発見する。モーディスは立ち姿の綺麗な男だから、どこに行っても目立つ。
「お待たせ。何か欲しいものでもあったのかい?」
モーディスが立っていたのは、女性を主にメインターゲットとしているであろう、ルームウェアのショップの新作展示ウィンドウの前だった。
犬耳のついたフード付きふわふわでもこもこのルームウェアと同じデザインのスリッパ、肉球が足首に入った靴下、同じデザインのハンカチやタオルと一緒に、犬のぬいぐるみが飾られている。犬のキャラクターの誕生日というコンセプトなのか、ケーキやアイスといったスイーツも一緒にディスプレイされていて、パステルカラーが可愛らしい印象だ。
モーディスは僕の問いかけに「ああ」と短く頷いたまま腕を組み、かなり真剣に着ぐるみのようなふわふわもこもこのルームウェアを見ている。もしかしてこれが欲しいのか? と真剣な横顔を見つめながら、でも君の趣味じゃないよな、と首を傾げる。モーディスは見た目に反して意外と可愛い物が好きだし、部屋にぬいぐるを飾ったりするようなところもあるが、犬より猫の方が好きな筈だし、衣服に関してはかなり拘りが強い方だ。タンクトップのサイズがきつい/緩いんじゃないか? と何度僕が指摘しても決して改めないし、「裸で寝るなよ」と訴えてやっと下着を身につけて寝るようなタイプだ。それなのに、急にパジャマをちゃんと着る気になったのだろうか。
モーディスがこのふわふわもこもこのルームウェアを着て家の中で過ごす様子を想像し、考えるまでもなく「あり」だなと感じた。どちらかといえば猫の方が似合うなとやっぱり思ったけれど、もしかすると店内には猫もあるかもしれない。
「欲しいならプレゼントってことで買ってあげようか?」
モーディスの誕生日は半年以上先だけれど、別にプレゼントはいつ渡したっていいだろう。デートの記念ということにしてしまえばいいのだし。
相変わらず悩んでいる様子のモーディスは僕の言葉に腕を組んだまま顔だけ僕に向けると、じっと顔を見つめ返してくる。真顔のモーディスに「欲しいんだろ? 買ってあげるよ」、と微笑み返すと、「いや、俺が買う」と首を振り、また僕の顔をじっと見つめる。
「僕の顔に何かついてるのか? それとも、プレゼントしてあげようって気遣いに感動してる?」
「違う」
一切の逡巡もなく、モーディスは真顔で首を横に振ると、僕の手を掴んで店内へずんずん進んで行く。
いらっしゃいませ、とレジで顔を上げた女性の店員さんがあら、と僕たち二人を見て少しだけ意外そうな表情をしたが、すぐににっこりとした笑顔を浮かべて「何かお探しですか」とすぐさまレジから出てくる。
「ディスプレイのルームウェアは試着できるか?」
「はい、可能ですよ」
モーディスが店員さんにサイズを確認している間、パステルカラーの店内を眺めながら「似合わない場所だな」とぼんやり考えていた。可愛いカフェやレストランにはよくデートで連れて行ってもらうけれど、衣服や日用品を買いにこう言う店に入ったことは今までなかったからだ。
「——そう言うわけだ、これをフィッティングして来い。足のサイズは特に問題なかったから、これは履かなくとも問題ないだろう」
「ん?」
手を離されたかと思うと、にこにこと満面の笑みを浮かべている店員さんからルームウェアをモーディスが預かり、そのまま僕に渡そうとしてくる。店員さんの手にはふわふわの犬の足をデフォルメしたスリッパが残っていて、モーディスが「服が入らなくともこれは買う」と伝えていた。
「ちょっと待った、君が試着しなくてどうするんだ?」
「何を言っている? 俺は最初からお前に似合うと思って眺めていた」
「……僕がこれを?」
いや冗談だろ、と可愛らしく手触りのいいルームウェアとモーディスの顔をしばらく交互に見つめ、モーディスの表情があくまで真剣なことに気づき、「入るかわからないけど」と最終的に頷いていた。モーディスの金色の瞳は期待するように潤んでいたし、「着たところが見たい」と顔に書いてあったからだ。
いざ着てみたはいいものの、大の男がこんな可愛い服を? と試着室で鏡を見てかなり恥ずかしくなっていた。似合ってないだろ、とフードの耳を引っ張りながらもう一度鏡を見つめ、厳しい、と思わず声が出る。厳しい。そう自分では思うが、モーディスはこれがいいのか?
そんな風に悩んでいると、僕の許可も得ずに、モーディスが無言でカーテンを開けてくる。
「よし」
モーディスはじろじろと全身を眺めたかと思えば満足そうに頷き、「会計を済ませてくる」とそのままさっきの女性スタッフのところへ行ってしまった。
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「……面白がってるわけじゃないんだよな?」
「何故不満そうな顔をしているのかはわからないが、期待以上だ。お前によく似合っている」
帰宅するなり「着ろ」と言われ、夕食もまだなのに結局モーディスが全額支払った、ふわふわもこもこの犬耳付きルームウェアとルームシューズを履かされている。
モーディスはにこにこと上機嫌に鼻歌まで歌いながら僕の全身を眺めると、フードについた犬耳をまるで僕の本当の耳のように撫でている。
「まあ、君が満足ならいいんだけどさ」
あまり評価に納得はいっていないが、「触り心地もいい」と楽しそうに抱きついて背中を撫でてくるモーディスの可愛さに免じて、全部受け入れることにする。僕はモーディスと違って、服はパートナーの意見を尊重する方だから。
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これを書くためにスウェブル久々に見直したら全部信じられない内容で数か月越しにまた気が狂った。
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